「日産ルークス」今秋、発売予定の軽スーパーハイトワゴン・ルークス。価格は167万2000円~236万3900円。
売れに売れている軽自動車。スーパーハイトワゴン市場を筆頭に、かつてない盛り上がりを見せている。各社の戦略車がしのぎを削る中、日産や三菱も新型を投入し、戦線はますます過熱!
なぜ、今これほど軽が熱いのか? その背景を探るべく、週プレ自動車班が徹底取材を敢行した!!
■〝絶対王者〟が10万台超をマーク!
軽自動車市場の中でも、最も熾烈な争いが繰り広げられているのが、軽スーパーハイトワゴンカテゴリー。
ホンダ・N-BOX、スズキ・スペーシア、ダイハツ・タントなど、名だたる強豪がひしめくこの〝超激戦区〟に、経営再建中の日産が満を持して投入してきたのが4代目ルークスだ。
8月22日にフルチェンしたルークスが掲げるのは〝軽の新スタンダード〟。このクルマで国内販売の反転攻勢を狙う。さらに、日産傘下の三菱もルークスの兄弟車となる2代目デリカミニを今秋投入予定で、アウトドア志向のユーザーを狙い撃ちする構えだ。

「三菱 デリカミニ」SUV風味マシマシでスマッシュヒットした三菱のデリカミニ。フルモデルチェンジした2代目が今秋発売予定!!
一方、認証不正問題の禊を終えた軽の盟主ダイハツも黙ってはいない。1995年に誕生したロングセラー・ムーヴに、初のスライドドアを搭載した7代目を今年6月に発売。ハイトワゴンの新たな可能性を提示し、再起をかけた一手として注目を集めている。

「ダイハツ ムーヴ」軽市場で長年親しまれてきたハイトワゴンの代表格。今年6月、11年ぶりにフルモデルチェンジし、7代目が爆誕!!
今、本当に軽は激アツなのか? その答えは、数字が物語っている。

その頂点に君臨するのが、絶対王者のN-BOX。今年上半期、唯一の10万台超えを記録し、堂々の総合1位に輝いた。ちなみに昨年度は年間20万台超えを達成し、登録車を含む全車種中でトップ。軽部門では10年連続1位という偉業を成し遂げている。
そして、この王者を猛追するのがスペーシア。新型の投入で勢いを増し、王座奪還を虎視眈々と狙っている。
自動車ジャーナリストの桃田健史氏は、N-BOXの強さの秘密をこう分析する。
「走行性能の高さが際立っています。特にNVH(ノイズ・振動・乗り心地)への対応力は他モデルを凌駕しており、快進撃の原動力になっています。使い勝手も奇をてらわず、実用性を重視しながらも〝カフェ〟のようなしゃれた雰囲気を演出している点も秀逸です」

「ホンダ N‐BOXシリーズ」軽市場で無双状態を続けているN-BOX。
一方、スペーシアは?
「軽自動車に関する技術力では、スズキはホンダを上回る部分もあります。徹底したコスト管理の下、ユーザーの声を反映した製品づくりが魅力です。近年の販売好調の背景には、ダイハツの認証不正問題による買い替え需要の流入もあります」

「スズキ スペーシア」カスタムホンダN-BOXと並ぶ軽スーパーハイトワゴンの代表格が、スズキのスペーシア。写真は人気を牽引するカスタム
ズバリ、軽のメリットは?
「税金や高速道路の通行料が安いこと。燃費も比較的良く、維持費が抑えられます。地域によっては車庫証明が不要な場合もあり、価格も多くのモデルが200万円以下。さらに、モデルによってはリセールバリュー(再販価格)も高い傾向があります」
ただ当然、デメリットも。
「長時間の高速走行ではエンジン回転数が上がり、燃費が悪化することがある。衝突安全性は一定の基準を満たしていますが、大きな衝撃を受けた際には車体の損傷が大きくなる可能性も。また、販売店にとっては新車販売時の利益率が低いという課題もある」
中古車販売店のベテランスタッフもこう証言する。
「ウチは新車も扱ってるんで言えますが、正直、粗利は少ない(笑)。
軽は移動手段であると同時に、〝資産運用の手段〟にもなっているのだ。登録車の中には「買った瞬間に価値が半分になる」といわれるモデルもあるが、人気の軽はその真逆。時間がたっても高値で取引されるケースもあるとか。
「理由は簡単で、需要が安定しているんです。税金・保険は登録車より安い。この物価高と実質賃金マイナスが続く中、軽人気はますます高まっています。価格も手頃だし、ローンも組みやすいので、若い人やファミリー層にとって、軽は〝買いやすく、売りやすい〟理想の選択肢では?」
■軽の過去と今。30年でどう変わった?
自動車専門誌で連載コラムを持つ、関西出身の金髪ラリーカメラマンの山本佳吾氏は、軽の変遷をこう語る。
「30年近くこの商売しているけども、駆け出しの頃は、軽自動車専門誌の仕事ばっかりやってたんや。
あの頃はスポーツモデルも多くて、耐久レースの取材にもよう行ったわ。
実は山本氏自身も、〝軽の転倒経験〟がある。
「友達のスバル・ヴィヴィオの助手席に乗っててな、峠を走ってたら『あ、あかん』って言いよって、縁石に乗り上げてゴロン。2回転半やったわ。元ラリー車やったから見た目はボコボコになったけど、擦り傷ひとつなくて助かった。あれは忘れられへん」
今の軽についてはどうか。
「最近はスポーツモデルなんてめっきり減って、気づいたらトールワゴンばっかりや。価格も小型普通車より高いくらいやしな。普通車のほうがええやろと思っていたけども、いざ乗ってみると車内は広いし、そこそこ走るし、長距離じゃなかったら全然イケる。下取り価格もええって聞くし、売れるのも納得や」
実は軽の存在感は、海外にも広がっているという。
「スペインや韓国でダイハツ・コペンを見たことあるし、スズキ・ジムニーなんかは雪国でよう見かける。軽って、日本が誇るスモールカーやと思うわ。
■車中泊で日本一周! そこで見えた軽のリアル
ウェブサイト『週プレNEWS』で連載中の漫画『堀田エボリューション』第1巻が、10月17日にデジタルコミックとして発売される漫画家・小田原ドラゴン先生は、ホンダの軽バン・N-VANで日本一周を達成した経験を持つ。
「軽のいいところは、狭い道にもどんどん入っていけること。軽専用の駐車スペースにも止められるし、ハイブリッド車には負けるけど燃費もそこそこいい。旅にはぴったりでしたね」

このN-VANで車中泊しながら日本一周した小田原先生の体験は漫画『今夜は車内でおやすみなさい。』(講談社)に収録
だが、使ってみて気づいた〝クセ〟もあった。
「高速道路ではやっぱりパワー不足を感じましたね。あと、これはN-VAN特有の話かもしれませんが、サイドウインドーがほぼ垂直に立ってるせいで、反対側の景色が映り込むんですよ。
ある条件下では、右から車が来てるのか左からなのか、一瞬わからなくなることがあって。ちょっとヒヤッとしました」
現在は登録車に乗り換えているという小田原先生。
「今乗ってるのはトヨタのタウンエース(ダイハツからのOEM供給)なんですけど、令和の時代にこんなクルマを新車で売っていいのかってくらいダメダメ(笑)。正直、N-VANのほうが断然いい」
軽に沸き立つ市場の熱狂。その締めくくりを飾るのは、軽も手がけ、その魅力を知り尽くした女性実演販売士・ジャンプ中澤氏による、迫力満点の売り口上だ。
「お客さまぁ! 今や時代は軽なのよ! もはや昔のイメージとは違うのデス! 軽やかなのに、重厚な安心装備、広い室内、小回り自在! しかもお財布に優しい! 税金も軽いって、うれしいことだらけじゃないですか!? まさに軽の領域展開!
僕らを支えるヒーローであり、身近な相棒! まだ変身を残しているフリーザさまのごとく、軽の進化は止まらないのデス! 軽で令和を軽やかに乗りこなしていきましょう!」
取材・文・撮影/週プレ自動車班 撮影/山本佳吾 写真提供/小田原ドラゴン