真倉翔先生(左)と命 -mikoto- さん(右)
7月よりテレビ朝日系で全国放送が始まったアニメ『地獄先生ぬ~べ~』。平成版から26年ぶりの新アニメ化を記念して、原作者の真倉翔先生と、今シリーズのオープニング主題歌を担当する「-真天地開闢集団-ジグザグ」のボーカリストである命 -mikoto- さんの対談が実現。
9月24日(水)の最終回を前に、実は旧知の仲だったという2人が、新たな『ぬ~べ~』を語り合った!
■主題歌は「運命の出会い」だった
――おふたりは以前から知り合いだったそうですね?
真倉 命くんの〝前世〟の職場の常連だったんですよ。
――転生を繰り返してらっしゃるそうで。
命 そうです。今の姿に生まれ変わってまだ3 歳なんですけど、〝前世〟の記憶を引き継いでいて、若かりし頃にバーでバイトをしていたんです。先生はそこの常連で、よく来てくださっていました。
真倉 でも、僕はデビューしているとかまったく知らなくて。(命さんがゲスト登場する第7話の)アフレコで会ったときに、「初めまして」と挨拶したら......。
命 「いや、もう10回以上は会ってますよ」と。
真倉 めちゃくちゃ驚いて。ひっくり返りそうになりました。
命 当時から先生は『ぬ~べ~』の原作者として有名で、お店にもサインが飾ってありました。僕がミュージシャンを目指していることは知ってました?
真倉 そういう話は聞いた気がする。でも、ほかにも音楽をやっているコはいたからね。
命 ですよね。僕もこんな形で再会するとは思っていませんでした。
真倉 本当だよね。

『地獄先生ぬ~べ~』の主人公である鵺野鳴介(ぬえの・めいすけ)、通称ぬ~べ~。日本でただ一人の霊能力教師で、不可解な怪奇現象が多発する童守町の子どもたちを守るために童守小学校に赴任する
――じゃあ主題歌に決まった段階では、先生は命さんのことは知らなかった?
真倉 全然。
命 もちろん、僕は先生のことを知ってますから、主題歌に決まったときはものすごくうれしかったんですよ。初めてのアニメタイアップで、しかもあのときのあの先生のアニメだって。
――そういう運命的な背景をアフレコ現場で初めて知って。
真倉 この話を聞いたとき、ほんと感激して、なんだか泣けてきたんですよ。まあ、担当編集は「まさに運命ですね。こんな出会いがあるなんて、このアニメはいけますよ!」とか言ってたけど(笑)。
命 でも、本当に運命的ですよね。

■『ぬ~べ~』が根強い人気を保っている理由
――命さんは原作の『ぬ~べ~』を読んでましたか?
命 もちろん。〝前世〟で子供だった頃に読んでいました。子供向けとして描かれているんですけど、ホラーな部分はがっつりホラーで、リアルで怖い絵も多かったですよね。あと、けっこうお色気もあって。小学生にはありがたかった漫画でした(笑)。
――たしかに、お色気シーンも多かったですね。
真倉 あの頃はコンプラが甘くて、小学校を舞台にしていたのに、制限なくお色気が描けたんです。だから今でも読者だった人に、「僕は『ぬ~べ~』で〝目覚めた〟んです!」とはよく言われます(笑)。
命 目覚めとトラウマを同時に......。
真倉 ホラーでトラウマを受けた人もいれば、お色気で目覚めた人も、どっちもいるよね。
――『地獄先生ぬ~べ~NEO』や『地獄先生ぬ~べ~S』 など、原作は「週刊少年ジャンプ」の連載終了後も続いていたとはいえ、26年ぶりの新アニメ化は珍しいことだと思います。なぜ、ここまで『ぬ~べ~』は息の長い人気作になったと感じていますか?
真倉 原作者としては最初に連載が始まった30年前から、演歌歌手みたいにずっと手を変え品を変えやり続けてきたわけでね。
じゃあ、なぜここまで作品が浸透したのかっていうと、学校の七不思議とか、都市伝説みたいなものは、怪談の定番として今でも子どもから大人まで人気があるじゃないですか。そういうポテンシャルがあるものを題材にしていたから、『ぬ~べ~』も生き残ってこれたのかなと思っています。
――では、いち読者だった命さんから見ると、『ぬ~べ~』の人気の理由はどこにあると感じますか?
命 やっぱり中身が詰まっている感じがありますよね。ひとつのジャンルに収まらないバラエティ感というか。怖い作品、アクションの作品、お色気な作品、学園モノ、それぞれで人気作はあるんですけど、それらの要素がぎゅっとまとまっている作品は意外とないんじゃないかなって。
しかも、『ぬ~べ~』はそのひとつつひとつの要素がガチで、子ども向けにぬるくしているわけでもない。そういうところに惹かれるし、ほかの少年漫画との違いになったのかなって思います。

■事前に計算していないから面白い
真倉 学校の七不思議で引っ張るだけでは連載が持たないので、いろんなパターンを試してみた結果、バラエティ感ある内容になったんです。だから連載初期を読み返すと、空気感が違う。キャラが成長して変わっていく。美樹だって、最初はただのおしゃべりキャラだったんだけど、次第に成長していって。胸もどんどん大きくなるし(笑)。
――キャラクターの成長は「こうしよう」と思って変えてきたのか、それとも連載競争で生き残るために試行錯誤する中で、自然と変わっていったのか、どちらなんでしょう?
真倉 いや、もう勝手に、ですよ。子どもの成長と一緒です。それこそ、初期は生徒たちの性格なんて全然固まってなかったですからね。読切版の背景にいたモブ生徒たちの中から、僕が勝手に選んで各話の内容に合うように性格を作っていったんです。
――キャラクターを作り込んでから連載を始めたわけではなかった。
真倉 でも、そうやって揃った5年3組の生徒たちが、不思議といろんな性格にバラけて、結果的にいい感じになってくれました。初めから計算していたら、また違ったものになったでしょう。

5年3組の生徒である細川美樹(左)と稲葉郷子(右)
――命さんも音楽で作品づくりをしているわけですが、事前に計算したわけではないけど、結果的にいいものになったという経験はありますか?
命 むしろ、そんなことだらけかもしれないですね。ジグザグはたまたま今の3人になったんですけど、メンバーが加入したばかりのときは、彼らがどういう性格だとか知らないわけですよ。でも、やっていくうちにキャラクターが確立してきて、自然と今の〝ジグザグらしさ〟ができていきましたから。
真倉 メンバーもめっちゃ面白い人たちですよね。テレビで観たときに大笑いしましたよ。
命 彼が一番、真面目なんですよ、実は。
真倉 そうなの? かなり面白い人だけど。
命 それは真面目だからこその反動だと思います(笑)。

■「バリバリ最強No.1」を意識した?
――もともと『ぬ~べ~』のアニメ主題歌といえば、FEEL SO BADの「バリバリ最強No.1」が有名で、アニソンランキングでも上位にランクインされるほどの人気曲でした。今シリーズのオープニング主題歌をジグザグが担当するにあたって、過去の曲は意識されましたか?
命 めちゃくちゃ、もうやりすぎなくらい意識しました。
――あ、もうあえて。
命 寄せにいきましたね。
真倉 実際に作ってもらった「P0WER-悪霊退散-」のデモを聞いたとき、「ここまで寄せてくれたんだ」とびっくりしました。それと同時に、「ちょっと、悪いことしたかな」とも思って。
命 いやいやいや。
真倉 僕が主題歌について何か言ったわけじゃないんですけど、ミュージシャンはやっぱり、自分たちの個性を伝えたいわけじゃないですか。だから、変に意識させすぎてしまったのかなって。
命 でも、僕らの個性を殺している曲ではまったくないですし。
真倉 ジグザグにはいろんなタイプの曲があるのはわかっているんだけど、僕はかっこいい感じの曲をイメージしていたんですよ。「忘却の彼方」とか。
命 ああ、なるほど。
真倉 あれが大好きで。そうしたら「バリバリ最強No.1」に近い曲になったから驚いたんです。

――命さんがあえて寄せにいった理由は?
命 自分のためですね。
――自分のため?
命 やっぱり『ぬ~べ~』という作品に思い入れがありますし、僕自身も『ぬ~べ~』のアニメといえば、「バリバリ最強No.1」だよね、という気持ちがあるわけですよ。だから、僕としてもリスペクトを示したかった。誰かのためではなく、自分のためにそうしたかったんです。
真倉 こっちとしては、すごくありがたかったですよ。もし、「ああいう感じの曲は歌いたくないっすね」とか言われたら困っちゃうから(笑)。
命 いや、「バリバリ最強No.1」は本当に大好きなので。あの時代にFEEL SO BADが、当時の流行とはまったく違う方向で子どもたちの心に残る曲を作った。それがすごくいいなと思うんです。で、ジグザグも流行に乗るバンドじゃないから、同じようなことをしたいと思ったんです。
――歴史の継承というか。
命 そうですね。あの頃のイメージは残しつつ、新しいものにもする。そのうえで、自分たちらしさもちゃんと詰め込む。だからまあ、あえて寄せたというか、むしろ子どもみたいにわがままにやった曲ということです(笑)。
真倉 その心意気は本当にうれしいですね。

■新しい世代に『ぬ~べ~』を広げていきたい
――ジグザグは主題歌だけでなく、第7話にゲスト声優出演もされました。
真倉 キャラデザまで3人分用意されて。観ました?
命 観ました。感動ですよ、あれは本当に。
――命さんはバンドマン役として劇中のステージでデスボイスまで披露していました。
命 実はそれ以外にモブキャラの声もちょっとだけやらせてもらいました。ぜひ振り返って探してみてください。
――アフレコは緊張しました?
命 しましたね。人生で初めての体験だったから、終わってみても、「この芝居で良かったんだろうか......」っていう。
真倉 いい声してましたよ。
命 ありがとうございます(笑)。

ジグザグのメンバーが出演した第7話のシーン。ちゃんと3人分のアニメーションも用意された
――しかし、今回の令和版で初めて『ぬ~べ~』を知ったという人もいるでしょうね。
真倉 それが新しくアニメを作った意義ですよ。もちろん、以前からのファンの人たちにも喜んでほしかったですが、連載当時を知らないような世代にこそ、ぜひ観てほしかった。これからも『ぬ~べ~』を続けていくためには、常に新しい世代に作品を届けていかなければならないですからね。
――しかも、今の時代ならアニメは配信、漫画は電子版と入口が広がっていますからね。
真倉 アニメなんて今では世界配信だから、日本だけでなく、さまざまな国に『ぬ~べ~』のファンを広げていきたい。今回はその絶好の機会をいただいたと思っています。
命 今の時代は世界の人が日本のアニメを観ているから、どこの誰に引っ掛かるか予想がつかないですよ。
真倉 だから、ジグザグだってアニメをきっかけに海外から声がかかるかもしれないよ。世界進出だよ。あ、世界征服か。
命 いやいや、僕らは世紀末の悪魔ではなく、みんなに救いの手を差し伸べるために活動しているので、世界進出で大丈夫です(笑)。
――最後に視聴者にメッセージを。
真倉 細かい設定やストーリーは漫画から変わっていますが、アニメもすべて僕ら が監修をしています。正真正銘の新たな『ぬ~べ~』として、皆さん最後まで観てください。
命 『ぬ~べ~』は間違いなく最高に楽しい作品なので、ぜひ主題歌も覚えてもらえたらうれしいですね。

■-真天地開闢集団-ジグザグ
"愚かな者に救いの手を"をコンセプトに、2016年に本格始動した、命 -mikoto-(Vo/Gt)、龍矢 -ryuya-(Ba)、影丸 -kagemaru-(Dr)による3ピースバンド。モダンラウドロックから歌謡曲、ポップで爽快なサウンドまで変幻自在。キャッチーでユーモアあふれる世界観が魅力の、今大注目のバンド。全国各地で"禊"と呼ぶライブを展開し、最新ツアーのファイナルとなった横浜アリーナ公演の模様を、2025年7月2日に映像作品としてリリースした。
■アニメ『地獄先生ぬ~べ~』
毎週水曜よる11時45分~テレビ朝日系全国ネット"IMAnimation W"枠にて放送中!(※一部地域を除く)2026年1月より第2クール目放送予定。
(©真倉翔・岡野剛/集英社・童守小学校卒業生一同)
取材・文/小山田裕哉 撮影/山口康仁