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昨年末、愛知県瀬戸市で行われた餅つき行事に参加した六代目山口組の司忍組長(中央)
分裂・離反した神戸山口組との10年抗争への終戦を4月に宣言し、体制強化に乗り出す山口組に新たな動きが出てきた。名古屋に本拠を置く中核組織の弘道会の新体制が発足。
弘道会の一強体制がより顕著になった。

一方で、神戸にあった弘道会の事務所は売却を余儀なくされ、山口組の組行事は三重や静岡での開催が常態化し、中京シフトが加速している。

■強まる弘道会出身者による支配

80年代の山一抗争を契機に、現在の山口組の六代目である司忍組長によって立ち上げられた弘道会。二代目の高山清司会長は今年4月まで約20年にわたって、山口組ナンバー2の若頭として組織をけん引し、内外に影響力を誇った。その後任の若頭に就いたのが三代目の竹内照明会長で、山口組による弘道会支配が決定づけられる中、9月8日付で弘道会の野内正博若頭が4代目会長を襲名。竹内会長は本家・山口組の若頭のまま弘道会の総裁となった。暴力団事情に詳しいA氏が語る。

「野内会長は山口組の直系組長となったことで、これまで叔父貴分だった他の直参と肩を並べ、早晩、若頭補佐に抜擢されて執行部入りするだろう。これで、山口組に司━高山━竹内━野内という弘道会ラインが堅固に敷かれたということだ。

他の直系組織からは、『弘道会でなければ上がり目はないということだ』といったボヤキも聞こえてくるが、今回の分裂抗争において弘道会は多数のヒットマンを駆り出し、中には無期懲役になった者もいる。また、神戸山口組から離脱した組織は、復讐に遭わないためにより強い組織へと移らざるを得ず、その行先となったのが仇敵であったはずの弘道会系列の組織だった。

こうした抗争や一本釣りの陣頭指揮を担ったのが、竹内若頭や懐刀の野内会長だったわけで、他の直系組織は弘道会支配に従うしかないのが現状だ。そもそも、当代の司組長の出身組織というだけでも格が高まる。

弘道会の若頭だった当時の竹内若頭に対して、タメ口をきける山口組の直参は少数だったという」(暴力団事情に詳しいA氏)

■自民党式の組織運営の終焉

2015年の分裂に際して、神戸山口組サイドからは人事面における弘道会支配への不満がぶちまけられた。そして、約10年間の抗争を経て、その傾向はさらに色濃くなった。弘道会への一極集中が進む背景について、暴力団担当の刑事は次のように読み解く。

「戦後の山口組は、自民党と似ていて、5つぐらいの派閥が存在してバランスを重視した人事体制を敷くことで、突出した直系団体が生じないように互いにけん制しあってきた。ただ、そうした弊害で、自民党であれば党内の権力闘争が幾度も繰り広げられ、山口組においても山一抗争や1997年の宅見若頭射殺事件といった内部抗争を生じさせてきた経緯がある。

ヤクザに対する社会や法の風当たりが厳しくなり、公平な人事といったきれいごとを言える余裕はなく、上意下達を徹底したピラミッド体制を築くことで組織の生き残りを賭けたといえる。いわば、組織風土を自民党から共産党へと衣替えしたようなことだ」(暴力団担当の刑事)

■事務所使用禁止で変わる拠点

人事面だけでなく、拠点も移行しつつある。神戸山口組との抗争終結を4月に兵庫県警に通告したものの、阪神エリアを中心とした山口組関連の拠点は特定抗争指定に基づいて使用禁止が解けていない。

分裂抗争終結も新たな火種に!? 六代目山口組の"脱関西"の動きに関東ヤクザも戦々恐々
2019年、山口組総本部事務所に使用制限の本命令の標章を貼る兵庫県警の捜査員

2019年、山口組総本部事務所に使用制限の本命令の標章を貼る兵庫県警の捜査員
このため、12月の恒例行事である「事納め」など組員が大挙して集結する行事は、三重県や浜松市などでの開催が常態化している。また、弘道会の神戸の拠点事務所は使用差し止め訴訟の末、8月に民間に売却されたことが明らかになった。

「終結宣言は、あくまで山口組からの一方的なもの。神戸側が解散するということは現状ありえなく、また絆會や池田組、宅見組など神戸から離脱した組織ものれんを下ろしていないので、捜査当局や地元の公安委員会は、抗争終結の成否を見極めるため、当面は解除に応じない。

ヤクザをやめても銀行を開設するのに5年はかかりますから、同程度の期間は最低でも必要でしょう。

神戸側は発足時、『執行部が、本家を山口組発祥の地の神戸から名古屋へ移転しようとしている』と真偽不明の批判をしていましたが、事務所使用禁止によって皮肉にもそのような事態になっています」(全国紙社会部記者)

中京シフトには、関東の組織も危機感を募らせているようだ。

「神戸・大阪へのこだわりが薄れたのか、新しい拠点を求めて山口組の系列組織が関東に進出するケースが増えている。そのうえ、山口組を牛耳った弘道会ともなれば押し出しがより強く、シノギのバッティングなどで関東の組織が右往左往させられているようだ」(前出刑事)

分裂抗争の終結も束の間、新たな火種とならなければよいが...。

文/武田和泉 写真/時事通信社

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