国防の要となるパトリオット(写真:柿谷哲也)
近隣諸国のロシアに対する緊張感が漂うウクライナ国内。元米陸軍情報将校であり、アフガンで実戦を経験した飯柴智亮氏は、仕事でウクライナをたびたび訪れているが、万全な迎撃準備態勢を目にしているという。
一方、いま米軍は全力で対中国との戦争に備えている。ウクライナとその隣国の臨戦態勢は、日本にとっても他人事ではない。現地はどうなっていて、日本はどうすればいいのか――「日本は現実的な兵器配置運用をすべきである」と警告する飯柴氏に聞いた。
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ウクライナへの行き帰り、飯柴氏はたびたび隣国のポーランドを通過している。
「ウクライナ国境に近いポーランドのジェシフ空港は、ウクライナ支援のハブ空港ということで、米空軍のC-17輸送機などもよく飛来します。民間空港なのに滑走路沿いには地対空ミサイル『パトリオット』がズラリと並んでいます。これが本来のパトリオットの配置の仕方です。
しかし、日本では民間空港はおろか、空自基地の滑走路にパトリオットが並んでいるのを見たことがありません。隣国、韓国の鳥山基地ではこんな光景をよく見ました」
そう言って見せてもらったのは、パトリオットと米軍偵察機が写る鳥山基地の光景だ。ポーランドの現場写真ではないのか......。
「撮影ができないんです。なぜなら、今年4月にポーランドで『祖国防衛及びスパイ対策法』が施行されたから。
これは、ポーランドでロシアのスパイがかなり活発に動いている証。ウクライナの隣国、ポーランドの最前線の緊張は爆上りです」

韓国鳥山基地には、滑走路脇にパトリオットが並び、そこには米軍偵察機U2ドラゴンレディが離陸を待っている(写真:柿谷哲也)
パトリオットの配備はどれほど重要なのだろうか。
「飛行場、もしくは空軍基地に戦闘機が50機あったとしても、滑走路を潰せばその50機全機が使えないことになります。だから、その滑走路への攻撃をパトリオットで防げなければ、飛行隊がまとめて潰されたのと同じ効果があるわけです。
日本もそろそろ現実的な兵器配置運用を始めないと手遅れになります。パトリオットを持っているならば当たり前の光景です。常識ですよ。日本が非常識なだけです」
では、具体的には配備に向けてどうすればよいのだろうか?
「私の個人的な考えですが、『1945年8月に進駐軍として日本に来た米軍が、そのまま21世紀の今も占領していたとしたらどうするか』という仮定で考えてみるのはどうでしょうか?」

米軍が現在でも日本に進駐したままならば、あっという間に全国の民間空港、特に先島諸島には地対空ミサイルを配置している(写真:柿谷哲也)
さっそくシミュレーションしてみよう。まず、米軍がそのままいれば全ての民間空港、空自基地に、地対空ミサイルパトリオットが林立するのだろうか。
「そうなるでしょうね。滑走路がやられたら、まずいですから。
与那国空港はウクライナにロシアが攻め込んだように、台湾有事が起きればここは最前線になります。
いま与那国空港は対空ミサイルのない真っ平の状態ですが、ここに中国のミサイルが着弾すれば、一瞬で中国の領土になります。まさにポーランドのジェシフ空港の日本版となる。
しかし、もし米軍が進駐軍としてまだ日本にいたら、与那国空港は真っ平な状態にはなっていません」
日本の平和な島では、自国の領土防衛を放棄している状態といえるのだ。
「中国は先島諸島をひとつずつ獲り、宮古島まで来ます。そうならないようにいち早く、現実的な兵器配置運用をすべきです。敵の中国は待ってくれません。陸自の地対空ミサイル部隊を先島諸島の各空港に今すぐ展開すべきだと思います。
そして米軍の場合、空軍戦闘機が展開可能な空港にはすぐに空軍が来ます。短い滑走路には垂直離着陸可能なF35Bが飛来するでしょう。滑走路改造工事は、米海兵隊工兵部隊が来て、すぐに造成しますからね」
■空港の次の戦場
そうすると日本では空港の次に、どこが戦場になるのだろうか?
「戦場は沿岸、海浜地区です。
米海兵隊はいま、沿岸、離島に緊急配備可能な部隊「沿岸連隊」を持っている。それが、日本沿岸各地、離島に緊急配備される。


舟艇、またはオスプレイで、米海兵隊沿岸連隊は西南諸島、先島諸島の海浜地区に地対空、地対艦ミサイルが無人で発射可能な「ネメシス」を迅速配備する(写真:米海兵隊)
「西南、先島諸島、この海域と島の全てに艦艇や飛行機が通りにくくなる"壁"を作り、中国軍の侵入を防ぎます」
飯柴氏の取材後、9月4日に米軍はネメシスの沖縄配備を発表した。
「私は米軍に在籍していた時代も所属していたのは陸軍でしたが、海軍でも米軍は考えることは同じです。そして、やることは早い」
海浜地区と離島に米海兵隊沿岸連隊を前方配備。しかし、それだけではないらしい。
「その後衛には、沿岸から一山超えた山間部に、中長距離ミサイル部隊を配備します。攻撃用トマホーク巡航ミサイル、防衛用イージスSM6ミサイルを計16発搭載したタイフォンミサイルランチャー、射程2775kmのLRHWダークイーグル中距離ミサイルです。これで空と海、さらに中国本土との間に高い壁が出来ます。
ここに、空から来ればSM6対空ミサイルで、海から来れば地対艦ミサイル。さらにその策源地をトマホークミサイルと極超音速ミサイルダークイーグルで叩きます」

タイフォンシステム。トマホーク巡航ミサイルと、イージス用対空ミサイルSM6が撃てる(写真:米陸軍)

中距離ミサイルダークイーグルの日本国内配備で、布陣は完璧となる(写真:米陸軍)
タイフォンは中国・ロシアが嫌がり、日本に配備されていなかった。
「日本は装備を買っても、前出のように現実的な兵器配置運用していません。米軍はどんどんとやっています」
一方、日本は日米同盟を深化させ、日豪同盟ではオーストラリアに新型駆逐艦12隻を売却、フィリピンに海自の中古護衛艦を格安で売却している。
「日本列島が米中戦争の最前線という意識と自覚を持ってほしい。いまのところ、その意識と自覚は全くありません。非常に危険でヤバいと思います。
今月北京で『抗日戦争勝利80年』を記念する軍事パレードが行なわれました。そして、そこでは習近平、プーチン、金正恩と中国・ロシア・北朝鮮のトップが66年ぶりに天安門楼上に並びました。
彼らが歩調を合わせるのはヤバいですよ。当然、それはアメリカに対抗することが目的であり、その最前線は明らかに日本となるのですから」
取材・文/小峯隆生