「黒字リストラ」をする日本の大企業の事情 坂口孝則「ホワイト...の画像はこちら >>

「黒字リストラ」はほとんどの場合、いわゆるクビ切りではなく早期希望退職の募集。その目的はコスト削減と人員の若返り、次世代継承であることが多い
あらゆるメディアから日々、洪水のように流れてくる経済関連ニュース。
その背景にはどんな狙い、どんな事情があるのか? 『週刊プレイボーイ』で連載中の「経済ニュースのバックヤード」では、調達・購買コンサルタントの坂口孝則氏が解説。得意のデータ収集・分析をもとに経済の今を解き明かす。今回は「黒字リストラ」について。

*  *  *

「黒字なのにリストラかよ」。

三菱電機は過去最高益を更新し業績は絶好調。しかし2025年9月、53歳以上の正社員および定年後再雇用者を対象に「希望退職」を募集すると発表した。

若返りと次世代継承が目的だ。募集人数は定めず、退職金割り増しなど条件を提示した。いわゆる「黒字リストラ」として話題になったが、リストラという言葉から想起する「クビ切り」とは違う。従業員が自発的に応募する形であり強制力はない。

ところで、日本では従業員のクビを切りにくいかというと、意外にもそんなことはない。私は著書『日本人の給料はなぜこんなに安いのか』(SB新書)を書いた際、冷静に学術研究を確認したが、クビの切りやすさは世界の中央値くらいだ。

米国は解雇しやすい。IT投資が異常に進んでいて、機械に置き換えた瞬間に解雇し、労務費が浮き、業績が上がる。そうしてドラスティックな経営が実現していく。

日本はその対極にあるわけではなく、解雇のしにくさは欧州各国ほどではない。

たしかに、日本の大企業は従業員を強制解雇しないイメージがある。その大企業勤務者には想像できないかもしれないが、日本の99%を占める中小企業では「バカヤロー」といわれ解雇される例がありふれている。ほとんどは裁判にもいたらない。また、裁判になって勝ったところで職場復帰するわけではない。

強制解雇をしない大企業は、判例よりも評判を気にしている。裁判上等でばんばん解雇したらメディアは騒ぎ、取引や採用にも支障が出るだろう。

だから希望退職、退職金割り増しがスタンダードになっている。私は昔、「2000万円以上も退職金を割り増す対象社員が何千人もいるなんて、えらい支出だ」と思ったものだ。

しかし、従業員をコストと考えてみるとそんなことはない。

以下、三菱電機のケースではなく一般論として。

たとえば、53歳で年収1000万円の従業員が早期退職パッケージに応募してきて、退職金に2000万円を上乗せしたとしよう。

会社が軽減できるのは年収分(1000万円/年)だけではなく、社会保険費もあるし、各種の手当もある。再雇用までの期間を含めて考えると、退職金の上乗せ分などのコストは数年で"ペイ"することになる。

もっともその53歳の従業員が価値や利益を生んでいるとすれば、この計算は単純すぎる。また、優秀な従業員ほど辞め、損失を被るケースもあるだろう。

ただし、現在ではホワイトカラーが余ってブルーカラーが足りない状況だ。前者を減らそうとする圧力は強まるだろう。

正確な統計はないものの、日本では早期退職募集を行なった会社の6割が黒字だったとされる。

これは理解できる。赤字リストラも黒字リストラもコスト削減を主目的とするが、赤字であれ黒字であれ、企業はつねに人材配置の最適化を続けねばならない。

これからも続くだろう。

ところで橘玲(たちばな・あきら)さんがよく説明するように、各種調査で日本人はもっとも会社を嫌っていることが明らかになっている。仕事も嫌いで出世もしたくない。

これからは、その会社から「我が社は黒字です。あなたがいなくなれば、もっと黒字になります」と頻繁にいわれるようになるかもしれない。社員よ、退職後に成功して逆襲せよ。死ぬまで50年あるぜ。

編集部おすすめ