九州、関東などの近海で発生し、すぐ上陸! 豪雨、暴風、さらに竜巻を伴うケースも......
今年は台風の発生場所が異常だ! 日本のすぐ近くで生まれ、あっという間に上陸する!! 「それはなぜなのか?」「どんな台風なのか?」台風の専門家に解説してもらった!
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■10月末くらいまで台風の発生が続く!?
9月4日、鹿児島・奄美大島の東海上で突然、台風15号が発生した。
その後、九州に接近し、5日未明に高知県に上陸。そして5日9時頃には和歌山県に再上陸し、各地に大きな被害を及ぼした。
それ以前の8月3日にも、東京・伊豆諸島近海で突如、台風10号が発生。本州に上陸することはなかったが、房総半島沖を北上している。
台風といえば、フィリピン沖辺りで発生し、ゆっくりと日本に近づいてくるイメージがあるが、今年はどうも違うようだ。
いったい、何が起こっているのか? 気象予報士で台風科学技術研究センター客員准教授の奥村政佳氏に聞いた。
「今年は特に8月以降、とにかく海面水温が高いんです。関東から九州までの海域で30℃以上にもなっています。台風は一般的に27℃以上の海域で発生・発達しますから、日本近海でも発生し、強い勢力を保ったまま近づいてくるわけです」

9月14日の日本近海の海面水温。関東から九州・沖縄地方まで、30℃近い水温になっている。この海域のどこで台風が発生してもおかしくない(気象庁のホームページより)
――じゃあ、日本近海だけでなく、フィリピン沖でもたくさん発生しているということですか?
「フィリピン沖は日本に近づいてくる台風の主な発生場所ですが、実は今年は〝台風の卵(熱帯低気圧)〟が生まれづらい状況なんです。
というのも、フィリピン沖に近いインド洋の海面水温が今年は異常に高かった。するとインド洋で上昇気流を伴う積乱雲が多く発生します。
その上がった空気はどこかに下降しなくてはいけないのですが、下りていく場所がフィリピン沖でした。
――そういえば、今年は台風1号の発生も遅かったですよね。6月11日でした。
「はい。過去50年の記録を見ると、台風1号は3~4月に多く発生しています。しかし、今年は6月中旬ですから、2~3ヵ月ほど遅かった。
また、今年の夏は太平洋高気圧の勢力が強く、9月頃まで日本列島に居座っていたので、台風がなかなか近づけませんでした。しかし、これから秋になると太平洋高気圧の勢力も弱まってくるので、台風が近づいてくる可能性が高くなります」
――ということは、これからは日本近海で台風が発生して、それが日本列島に近づくことが多くなるということですか?
「はい。日本近海でいきなり発生して、すぐに陸地に近づく〝いきなり台風〟が生まれる可能性は今後、高くなると思います。そして、その〝いきなり台風〟は、海面水温の高い関東から九州・沖縄までのどの海域でも起こりえます。
さらに言えば、〝いきなり台風〟の発生は10月末くらいまで続く可能性があります。というのも、昨年は10月中旬くらいまで日本近海の海面水温が27℃以上あったんです。今年は昨年以上の猛暑でしたから、昨年同様かそれ以上に海面水温の高さが続く可能性があります。

■台風だけじゃない。竜巻にも注意が必要!
〝いきなり台風〟は10月末くらいまで生まれるというが、台風そのもの以外にも注意が必要だと奥村氏は言う。
「〝いきなり台風〟と呼ばれた台風15号は、突風によって車が横転したり、家の中にいた人が外に飛ばされるなどの大きな被害をもたらしました。
台風とは、最大風速17m/秒以上になった熱帯低気圧のことです。また、平均風速25m/秒以上の風が吹いている範囲を暴風域と呼びます。
一般的に車が横転するのは、平均風速35m/秒以上の風が吹いたときだといわれています。台風15号は暴風域のない比較的弱い台風でしたが、なぜ、車を横転させるほどの被害を出したのか。それは、台風の中で竜巻が発生したからです。
台風というのは積乱雲の集合体です。その中の一部の積乱雲が竜巻を起こした。気象庁によると、台風15号の起こした竜巻は瞬間風速75m/秒だったとのことです。そんな強烈な竜巻が複数発生したのです。
ですから、弱い台風だから大丈夫だろうと安心していると、台風の中で起こる竜巻によって、大きな被害を受けるかもしれません。ぜひ気をつけてください」


――台風15号の起こした竜巻は、静岡県内で死者1人、負傷者83人を出した国内最強級の竜巻だった。〝いきなり台風〟は時に竜巻を伴うこともある。これからは、いきなり来る〝スーパー竜巻〟への注意も必要だ。
では、どのように注意すればいいのだろうか。〝いきなり台風〟が来るかどうかの判断の仕方などあるのだろうか。
「熱帯低気圧と台風では、ニュースなどでの扱われ方が全然、違います。台風になれば気象庁によって番号がつけられ毎日のように情報が発信されますが、熱帯低気圧はほとんど報道されません。
〝いきなり台風〟は突然、台風になるわけですから、台風になった時点で情報を得ても、すぐに対処ができない場合があります。例えば『そんな予報はなかったのに、出張先にいきなり台風が来る』ということもありえます。
では、どうすればいいのか。一般の人は天気図を見て熱帯低気圧の場所を判断することは難しいと思います。
いきなり発生し、あっという間に日本に上陸、竜巻を伴うこともある〝いきなり台風〟。今後10月末くらいまでは、天気予報をこまめにチェックする必要があるようだ。
取材・文/村上隆保 写真/時事通信社