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BYD副社長ステラ・リー氏が、IAAモビリティ2025で新型PHEVワゴンを世界初公開し、欧州市場への本格参戦をアピール

9月9~14日、欧州最大級のモーターショー「IAAモビリティ」がドイツ・ミュンヘンで開催された。日本の大手メディアは「EV出展が活況!」とあおったが、現地からは、「目玉は中国BYDのPHEV」という声の嵐! どうなってんの?

■EVシフト失敗の欧州にBYD襲来!

今月、ドイツ・ミュンヘンで開催された欧州最大級のモーターショー「IAAモビリティ2025」。日本の大手メディアは「EV(電気自動車)出展が活況」と報じているが、現地を歩いた専門家たちの注目は意外にも〝EV以外〟の一台に集まっていた。

ズバリ、中国の自動車大手BYDが初披露したステーションワゴン型PHEV(プラグインハイブリッド)・シール6DM-iツーリングである。航続距離は驚異の1300㎞以上! 現地の自動車関係者はこう語る。

「欧州市場ではEV販売が伸び悩む一方で、HEVやPHEVへの需要は大きい」

かつて〝EVシフト〟を声高に掲げてきた欧州メーカーだが、補助金頼みの普及策はすでに限界で、支援縮小とともに需要が急失速。象徴的なのがドイツ自動車大手フォルクスワーゲンの経営悪化だ。

EVへの巨額投資、野心的な目標を掲げたものの、商品力、価格競争力の低下などで販売は低迷。大リストラを発表し、社会的反発を招いた。

加えてエネルギー政策の不安定さ、中国デフレEVの攻勢も加わり、欧州EV勢の競争力は急速にそがれている。

一方で、確かに今回のモーターショー会場にはEVの展示が目立った。このギャップはなんなのか? 自動車ジャーナリスト・桃田健史(けんじ)氏はこう指摘する。

「欧州委員会の〝グリーンディール政策〟の出口が見えない中で、自動車メーカー各社は中長期的なEVシフトを見据えた〝地盤固め〟を進めています。今、市場は踊り場にありますが、中長期的にはEV化が進むとの見方が自動車業界には根強いのです」

欧州のEV事情を肌で感じてきた関西出身の金髪ラリーカメラマン・山本佳吾氏も大きくうなずく。

「ワシ、ラリーの取材でしょっちゅう欧州に行っとるけど、EVは日本より確実に広まっとるな。

高速道路のサービスエリアや街中の充電設備は日本よりずっと整ってる。

北欧なんかではタクシーの大半がEVやし、〝ブロックヒーター〟ゆう設備が昔からあるんや。冬場、駐車中にエンジンを温めるための電源設備でな。そういうインフラがもともとあったから、EVも普及しやすかったんとちゃうかなあ」

さらに山本氏は、モータースポーツの現場でも変化を目の当たりにしたという。

「ドイツでは〝EVだけのラリー〟までやっとるんや。『ADACオペル・エレクトリック・ラリー・カップ』ゆうてな、コルサeをベースにしたEVラリー車で戦う本気のシリーズや。初年度に取材に行ったんやけど、これが想像以上に盛り上がっとった」

「IAAモビリティ2025」で見せた中国BYD「欧州進撃」の本気度
2021年にドイツ自動車連盟(ADAC)とオペルが開始した世界初のEVラリーカーのワンメイクシリーズ。山本氏は初年度戦を現地で撮影

2021年にドイツ自動車連盟(ADAC)とオペルが開始した世界初のEVラリーカーのワンメイクシリーズ。山本氏は初年度戦を現地で撮影

■テスラを直撃した〝脱EV砲〟

ともあれ、目下失速するEV市場にさらに冷や水を浴びせたのが、米国のトランプ大統領。いわゆる〝脱EV宣言〟は、すでに世界の潮流を揺るがし始めている。

手厚い補助金をバックにEV市場の〝絶対王者〟として君臨してきた米テスラは、今年上半期の販売台数で中国BYDに逆転され首位陥落した。

ただしテスラに関していえば、失速の要因はイーロン・マスクCEOの政治的言動にある。トランプ大統領への接近により、テスラの岩盤支持層だったリベラル層が大量離脱。

さらに、マスク氏が率いた米政府機関「DOGE(ドージ/政府効率化省)」による大量解雇は、テスラの企業イメージをも大きく毀損してしまった。

販売低迷は深刻で、今年8月には米国でのEVシェアがついに40%を割り込み、2017年以来の低水準に。9月末の購入支援策終了も追い打ちとなり、各社の攻勢にシェアを急激に奪われている。もちろん、欧州でも苦境だ。

「欧州でよく見かけるEVっていうと、いっときはテスラだったけど、最近はヒョンデやキアの韓国勢で、タクシーなんかでよう使われてる。都会に行くとポルシェのタイカンなんかも見かけるけど、少数派って感じやな」(山本カメラマン)

■中国勢の台頭と〝欧州攻略〟の本気度

そして、欧州自動車市場で今、急速に注目を集めているのが中国EVメーカーの動きだ。関税という高い壁があるにもかかわらず、今回の「IAAモビリティ2025」では中国勢の出展が目立ち、存在感を示した。

中でも話題となったのが、BYDが発表したハンガリー製の小型EV「ドルフィンサーフ」。同社は今年末までにハンガリーに新工場を設立し、このモデルの現地生産を開始するとステラ・リー副社長がプレゼンテーションで明言。欧州市場への本格進出に向けた本気度を鮮明にした。

加えてBYDは今年5月、欧州事業の統括本社をハンガリー・ブダペストに設立。併せて欧州研究開発センターの新設も発表しており、単なる新車展示にとどまらない、継続的な事業展開への意欲がうかがえる。

「IAAモビリティ2025」で見せた中国BYD「欧州進撃」の本気度
BYDは、2028年までに欧州で販売するEV、PHEVをすべて現地生産にすると発表。地域密着型の製造戦略で欧州市場に挑む

BYDは、2028年までに欧州で販売するEV、PHEVをすべて現地生産にすると発表。
地域密着型の製造戦略で欧州市場に挑む

この動きについて、中国現地で取材を重ねてきた桃田氏は次のように解説する。

「中国政府は、自動車産業を国内消費だけでなく、外貨獲得の戦略的事業と位置づけています。関税の存在を前提にしながらも、欧州市場の開拓を積極的に進める構えです。

また、中国車を世界に輸出するにはEUの技術・安全規格を満たす必要があり、その意味でも欧州は極めて重要なターゲットとなっています」

では、中国EVは欧州で本当に売れるのか?

「欧州での中国ブランド浸透はこれから。先物買いやアーリーアダプターが中国EVを購入したとしても、カスタマーサービス体制など継続的な事業として定着するかどうかは未知数。欧州ユーザーが即買いする状況ではない」

今後、EVはどうなるのか。

最後に桃田氏はこう総括する。

「EV普及のカギは、電力需要に対する再生可能エネルギー比率にある。北欧は水力発電が多く、EV利用によるCO2削減効果が大きい。一方、ドイツなど主要国は火力発電依存度が高く、EVシフトが進みにくい背景がある」

EVの未来は、単純な技術だけでなく、エネルギーの選択も重要になってくるのだ。

そして今、世界がEVの踊り場に差しかかる中、中国はEVとPHEVの二刀流で欧州進出に挑む。ニッポンは、果たしてどう動くのか?

撮影/山本佳吾 写真/時事通信社

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