中国最新兵器の"正しいおびえ方" 軍事のプロも危機感「日本が...の画像はこちら >>

パレードで注目を集めたプーチン、習近平、金正恩のスリーショット
9月3日の「抗日戦争勝利80周年記念軍事パレード」では、習近平国家主席、ロシアのプーチン大統領、北朝鮮の金正恩総書記が並ぶ異例の光景に世界の注目が集まった。

しかし、真に目を向けるべきは中国が披露した最新兵器だ。

軍事のプロたちは、それらをどのように見たのか?

*  *  *

■パレードから読み解く中国軍の"空"の連携

9月3日、中国・北京で行なわれた「抗日戦争勝利80周年記念軍事パレード」。1万2000人の人民解放軍兵士が行進し、20人以上の国家元首・政府首脳が出席する大規模なイベントとなった。

中でも、習近平国家主席、ロシアのプーチン大統領、北朝鮮の金正恩総書記が並んだスリーショットは国際社会の注目を集めた。

だが、軍事のプロたちは別のポイントに視線を注いでいた。それは、現在の中国軍の脅威、すなわち最新の装備と兵器だ。

中国最新兵器の"正しいおびえ方" 軍事のプロも危機感「日本が誇る最新フリゲートですら撃破される可能性が高い」
総勢1万2000人の兵士と最新兵器が並んだ今回のパレード。特に目立ったのは無人機群や情報作戦群、そして一糸乱れぬ行進を見せた兵士の姿だった

総勢1万2000人の兵士と最新兵器が並んだ今回のパレード。特に目立ったのは無人機群や情報作戦群、そして一糸乱れぬ行進を見せた兵士の姿だった
長年、中国の軍事パレードを取材してきたフォトジャーナリストの柿谷哲也氏は今回をこう総括する。

「まず驚いたのはドローン兵器の数と進化のスピードです。ほんの数年前に開発や試験が始まったばかりのものが、すでに実戦配備さながらにパレードに並んでいたのです。

そうした最新兵器をパレードで初披露して驚かせるのは毎度恒例のことなのですが、今回は特に情報作戦群(通信妨害や電子戦、サイバー戦を担う車両部隊)に目を見張るものがありました。専門家ですら名前を知らないような装備も含まれていたのです。

一点、意外だったのは、第5世代の無尾翼戦闘機が出てこなかったこと。大々的な記念パレードの場でも披露されないあたり、その機密性の高さが感じられました」

中国最新兵器の"正しいおびえ方" 軍事のプロも危機感「日本が誇る最新フリゲートですら撃破される可能性が高い」
ジャミング、指揮通信、索敵、情報収集などを行なう多機能レーダーを搭載した情報作戦群の車両。こうした部隊がまとまって登場したのは今回のパレードが初とされる

ジャミング、指揮通信、索敵、情報収集などを行なう多機能レーダーを搭載した情報作戦群の車両。
こうした部隊がまとまって登場したのは今回のパレードが初とされる
初公開された兵器の中で、柿谷氏が特に注目したのは、艦載早期警戒機・空警600。その名のとおり、軍艦に搭載して一定空域をレーダーで監視する航空機だ。

「中国の最新空母・福建の完成に合わせて試験を進めていたのでしょう。これが空母と連携すれば、他国にとって大きな脅威になります。

空警600が艦隊防空の"目"となり、事実上700㎞先まで監視できるためです。日米艦隊は接近することすら困難になるでしょう」

航空自衛隊那覇基地302飛行隊隊長を務めた元空将補の杉山政樹氏も空警600に着目する。

「空警600は米海軍の早期警戒機を模倣する形で2011年に開発が始まり、昨年ついに実戦投入可能な段階に至りました。空母が攻撃力を発揮するには早期警戒機が不可欠。中国にそのピースがそろい始めたことを、今回のパレードは示していました。

とはいえ、空母との緻密な連携には数年の訓練が必要です。実際に実戦上の脅威となるのは、2、3年先になるでしょう」

中国最新兵器の"正しいおびえ方" 軍事のプロも危機感「日本が誇る最新フリゲートですら撃破される可能性が高い」
中国の最新空母・福建に搭載されるといわれる空警600が初めて公開された。米海軍のE-2Cを模した早期警戒機で、艦隊防空の能力を飛躍的に高める

中国の最新空母・福建に搭載されるといわれる空警600が初めて公開された。米海軍のE-2Cを模した早期警戒機で、艦隊防空の能力を飛躍的に高める
杉山氏によれば、その連携において重要なピースとなる戦闘機もパレードに出ていたという。
それが、ステルス戦闘機のJ-35と世界初の複座ステルス機とされるJ-20だ。

「J-35は他国に販売するために開発された、小型の戦闘機です。機体がコンパクトなぶん、中国海軍は空母にこれを多数搭載し、空警600と連携させようとしていると考えます。

ただし、アメリカのステルス戦闘機であるF-35と比べると機体自体のレベルは格段に低いので、おびえるほどではないと思います」

一方、J-20には違う意味で注意が必要だという。

「複座式とは、つまりパイロットがふたり乗り込むということ。AIや無人機の開発があれほど進んでいるにもかかわらず、あえて人間を乗せることを選んだのは戦闘が近いというシグナルでしょう。AIの完成を待つよりも、確実に動かせる人を使う判断をしたのです。

人間がふたりいれば判断の幅も広がり、複雑な任務を分担することもできる。中国が台湾を侵攻するとなったら、J-20を投入してくる可能性は高いと考えます」

中国最新兵器の"正しいおびえ方" 軍事のプロも危機感「日本が誇る最新フリゲートですら撃破される可能性が高い」
最新の戦闘爆撃機J-16を先頭に、複座型ステルス戦闘機のJ-20、空軍用と海軍空母への搭載用に開発されたステルス戦闘機J-35Aから成る編隊飛行も行なわれた

最新の戦闘爆撃機J-16を先頭に、複座型ステルス戦闘機のJ-20、空軍用と海軍空母への搭載用に開発されたステルス戦闘機J-35Aから成る編隊飛行も行なわれた
ちなみに、今年7月にはJ-20が台湾周辺や対馬海峡を飛行したが、日本の空自も韓国軍も把握できなかったと報道されている。飛行したのが事実であれば、レーダーで探知できなかったということになる。

「J-20の実際の性能は不明ですが、完璧なステルス機であれば地上レーダーには映りません。

かつて自衛隊が米空軍のステルス戦闘機、F-22と沖縄の海上で異機種空戦訓練を行なった際も、レーダーではまったく探知できなかったそうです」

現代の戦争で、空の脅威となるのは戦闘機だけではない。

中国軍の代名詞となった数百機規模のドローンスウォームもあるが、今回のパレードでは姿を見せなかった。

「もうパレードで見せる必要がないからです。戦闘が始まれば当たり前のように投入されます。何百発もの弾道ミサイルと数千機のドローンによるスウォーム攻撃から戦闘が始まる。それが大前提です」

■兵器はもちろん兵士の質も高い

台湾や日本が中国に標的とされるとき、注意しなければならないのは水中兵器だ。パレードでも大型トレーラーに載った超大型無人潜水ドローン・AJX002や超大型無人潜水艇・HSU100が登場し、その巨大さが話題になった。

海自潜水艦「はやしお」艦長や第二潜水隊司令を歴任した元海将の伊藤俊幸氏は、核魚雷とも噂されているAJX002を「やれるものならやってみろというレベル」と切って捨てる。

「これはきっと、プーチン大統領が『津波を起こす』と喧伝(けんでん)していた核魚雷・ポセイドンでしょう。

しかし、かつてビキニ環礁で行なわれた核実験でも津波は起きなかったように、そもそも核爆発で津波が起こせるかは疑わしい。専門家は誰もが首をかしげています」

中国最新兵器の"正しいおびえ方" 軍事のプロも危機感「日本が誇る最新フリゲートですら撃破される可能性が高い」
全長18~20mといわれる超大型無人潜水ドローン・AJX002が公に披露されたのは初めて。ネットでは「核魚雷か」と物議を醸している

全長18~20mといわれる超大型無人潜水ドローン・AJX002が公に披露されたのは初めて。ネットでは「核魚雷か」と物議を醸している
では、HSU100はどうか。AIが搭載されており、海中の音から潜水艦の位置を特定できるなど、高い監視・偵察能力を持つと噂されているが......。

「うまく当たれば、ウクライナがロシアの黒海艦隊を沈めたようなことはできるかもしれません。

ただし、AIが正しい判断をするには、膨大で正確なデータが必要です。ところが、海中の音はレーダーの電波と違い、温度や塩分濃度、海底の反射などで屈折して届くため、データには常に揺らぎがある。

加えて中国は潜水艦同士の実戦経験が少なく、持っているデータも大陸棚の浅い海でのものが中心だと考えられます。そうなると、AIに正確な判断をさせるための基礎データ自体が足りていないはずです」

ならば、他国が最もおびえるべき中国の兵器はなんなのか。米海軍系シンクタンク戦略アドバイザーの北村淳氏は「派手な大陸間弾道ミサイルより、YJ-17やYJ-20の対艦弾道ミサイル群こそ厄介です」と強調する。

中国最新兵器の"正しいおびえ方" 軍事のプロも危機感「日本が誇る最新フリゲートですら撃破される可能性が高い」
今回のパレードで初披露されたYJ-20は大型艦艇用の高速対艦弾道ミサイルで、上空から垂直あるいは急角度での突入が可能ともいわれている

今回のパレードで初披露されたYJ-20は大型艦艇用の高速対艦弾道ミサイルで、上空から垂直あるいは急角度での突入が可能ともいわれている
「YJ-20は大型弾頭が搭載されている、空母や強襲揚陸艦を撃沈する専用兵器です。すでに米海軍の常識は『中国近海に空母を差し向けること自体が危険』というものになりつつあります。

実際、米海兵隊もすでに中国相手の強襲作戦は放棄しており、代わりに南西諸島やフィリピンに地対艦ミサイル部隊を展開する方向に転換しています。

中国の対艦ミサイル運用が始まった時点で、米海軍の誇る空母打撃群も東シナ海や南シナ海に入れば全滅しかねないわけです」

当然、日本の海自艦隊も苦戦は免れない。

「脅威は弾道ミサイルだけではありません。YJ-15やYJ-19といった対艦巡航ミサイルは、駆逐艦やフリゲートにも正確に突入します。

しかも亜音速、超音速、極超音速と速度の異なるミサイルが同時に押し寄せる"飽和攻撃"に対処するのは極めて困難です。イージス艦はもちろん、日本が誇る最新フリゲートですら撃破される可能性が高いのです」

今回のパレードに登場したこうした最新兵器は、他国に緊張感を走らせた。しかし、レベルを上げているのは兵器だけではなかった。

中国最新兵器の"正しいおびえ方" 軍事のプロも危機感「日本が誇る最新フリゲートですら撃破される可能性が高い」
パレード冒頭を彩った統制の取れた行進と響き渡るスローガンは、中国軍の規律と士気を示す象徴的シーンとなった。女性兵士部隊による行進も注目を集めた

パレード冒頭を彩った統制の取れた行進と響き渡るスローガンは、中国軍の規律と士気を示す象徴的シーンとなった。女性兵士部隊による行進も注目を集めた
元陸上自衛隊中央即応集団司令部幕僚長の二見龍氏(元陸将補)は兵士の行進に脅威を感じたと語る。

「30人近い横隊が縦横斜め、どの角度から見ても一糸乱れずそろっていました。相当な訓練を積み重ね、団結や規律、士気を高めているのがわかります。個々の癖が一切見られないのは、映像を何度も確認し徹底して矯正した結果でしょう。

この精度の高い行進から、中国軍が質の高い兵士・部隊をつくり上げているとわかる。実戦でも強さを発揮することが読み取れます。

さらに恐ろしいのは、その質の高い兵士とAIが組み合わさること。AIが複雑な操作を肩代わりすることで、熟練兵士を大量に育成しなくても強力な兵器を自在に使いこなすことができるためです」

今回の抗日戦争勝利80周年記念軍事パレードで中国が世界に見せつけたのは、最新兵器のショーというより、実戦に直結する脅威だった。

取材・構成/小峯隆生 写真/時事通信社

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