石破首相は辞任したが、次の首相はこのトランプ米大統領との良好な関係を築けるかどうかが、焦点となる(写真:時事)
ウクライナ戦争勃発から世界の構図は激変し、真新しい『シン世界地図』が日々、作り変えられている。この連載ではその世界地図を、作家で元外務省主任分析官、同志社大学客員教授の佐藤優氏が、オシント(OSINT Open Source INTelligence:オープンソースインテリジェンス、公開されている情報)を駆使して探索していく!
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――石破茂首相が突然、辞任することになりました。
佐藤 辞める必要はないはずなんですけどね。しかし、それでも辞めたのは、やはり神様と相談して辞める気になったのでしょう。
――それならば納得。信仰の上での結論ですから。
佐藤 それで、辞めた理由は、石破さんが言っている通りなんですよ。
第一に、彼の大きな使命は、あの難しいトランプとの関税交渉にケリをつけることでした。ただし、自民党内部は尋常ではない状況です。
そのまま石破氏が首相を続けていても、野党とはうまくやっていけるし、内政/外政でも一定の安定的な運用はできます。しかし、「このままでは自民党は分裂するな」と、保守派の人たちが危機感を抱いたのでしょう。
おそらく、石破さんは自民党の分裂という形で終わりにしたくなかったのでしょう。党が分裂してしまったら、自民党が比較第一党に留まることができません。だから、今後、政局でいろいろなことがあるとしても、自民党が比較第一党で留まるために、このタイミングで自分が引くべきだと判断したんだと思います。
――すると、自身の進退というよりも自民党に関して神と相談した結果ということですか。
佐藤 私はそう見ています。彼は自民党総裁選で、どうやって自民党を生き残らせるかを考えたはずです。そのためには自分が引かなければ党が割れてしまって政権が二度と取れなくなる、バラバラの集団になると思ったのでしょうね。
――まさに自決。
佐藤 はい。ただし、自暴自棄にはなっていません。
それから、国民は石破氏の辞任に対して、「ざまあみろ」という感じではありません。「なぜ辞める必要があったの?」と、むしろ自民党の党内抗争に嫌気がさしています。結局、裏金議員たちからの圧力で辞めさせられたわけですから。
――国民の皆様はわかっていますからね。
佐藤 国民にはそれが見えています。
――自民党内の裏金組は、それほど力を持っているのですか?
佐藤 清和会(旧安倍派)の人たちが多い。声が大きい政治家が何人かいるし、そこそこ数もいます。でも、右派なんですよね。もっとも右派を好む有権者の選択しは自民党だけに止まらず、百田尚樹さんの日本保守党、それから参政党がありますから。
――唯一の右派でなくなってしまったと。すると、神によって動いた石破さんと同じカルバン派のトランプは、石破さん以外の日本の首相とうまくいくのですか?
佐藤 心配ですよね。まず、高市(早苗)さんとケミストリーが合うかどうかが......。
――トランプは、ブラジルの現政権が自分の好きな元大統領を有罪にしたら、ものすごく不機嫌になりましたからね。
佐藤 それで関税を50%にしました。
――高市さんは大丈夫ですか?
佐藤 会談してからでないと、なんとも言えないですね。
――小泉進次郎さんは?
佐藤 小泉さんは英語を使うと、ゼレンスキーの二の舞になる可能性があります。
――それはヤバい。すると、安全牌は?
佐藤 林(芳正)さんです。これまでの外交の流れもわかっていますし、一番堅実です。ただし、林さんは真面目でしょ。トランプの不真面目さと付き合えるかどうか不安が残ります。
――それは、無理そうです。
佐藤 赤い帽子を一緒に被ることができる、とか......。
――すると、高市さん......。
佐藤 トランプは高市さんと電話で会談して、その時点で印象を決めるでしょう。
――でも、トランプは女性とものすごく相性が悪い。ヒラリー・クリントンに、カマラ・ハリスですからね。
佐藤 石破さんは宗教が一緒だから。
――石破元首相を「トランプ担当特命大使」にするのは?
佐藤 トランプは現職の首相しか相手にしませんよ。
――すると、日本の首相の未来は暗いということですね。
佐藤 暗いですよ。それから、自民党総裁選で勝った総裁が日本国首相、というわけではないですからね。
――衆議院議会で指名されないとダメ。そこで、過半数に足りない自民党は勝てるかどうかわからない。
佐藤 そうです。
――それで決まらなければ、永遠に決まるまで衆議院で投票をやるのですか?
佐藤 2~3回くらいの投票で、立憲民主の野田佳彦あたりになるんじゃないですか。あるいは、国民民主の玉木雄一郎か。ただ、この時点で野田さんも玉木さんも権力を取ろうとはしないと思います。短命になるのが目に見えてますから。
――まさに首相の壁。
佐藤 玉木の根底にあるのは、MMT(現代貨幣理論)です。だから、そうなれば財政規律がなくなりますよね。
――自国通貨を発行する政府は、財政赤字の心配なしにどんどん財政出動をやって、完全雇用を目指す経済学理論。打ち出の小槌で鉄筋コンクリートのビルを作るような無理筋な理論であります。
佐藤 そしてその点では、れいわ新選組と参政党と政策がほぼ一緒です。
――国家の金を使うだけ使って、一瞬だけ国民が幸せになったら、そのあとは借金地獄に真っ逆さまに落ちていく。
佐藤 はい。例えば南海トラフ地震や台湾海峡有事が起きれば、全て吹き飛びます。
もっともその場合、国民の資産が全てフラットになりますから。つまり、金持ちも貧乏もいなくなります。
――1945年8月15日、あの敗戦の日のようになる。
佐藤 いえ、あれよりももっと厳しい状況に陥るでしょうね。
――破壊力抜群!!
佐藤 金、ゴールドも接収になりますよ。だから、金を持っていてはマズいでしょうね。証書を出すから、全て国に預けなさいとなります。
――明るい未来がひとつもない。
佐藤 株価は高いじゃないですか。
――なんで、いま日本の株価が値上がりしているんですか?
佐藤 相対的な話で、日本に国力があるからです。
――どこにそんなモンがあるんですか?
佐藤 要するに、他の国がどれほどひどい状況なのか、日本人は知らないんですよ。ドイツを見てみてください。まるでヨーロッパの病人です。日本は少なくとも病人ではありません。
――すると、日本の未来を明るくしようと思えば、ヨーロッパに比べたらマシだと。
佐藤 比べる対象をヨーロッパやアフリカ、中南米にすれば、まだ恵まれていることがわかります。
――政治は混乱しているが、国民は一生懸命に頑張っている。
佐藤 そういうことですね。
次回へ続く。次回の配信は2025年10月3日(金)予定です。
取材・文/小峯隆生