「角田選手はマシンに慣れ、調子は明らかに上向き。彼本来のスピードを発揮するまであと一歩のところまで来ている」と語る堂本光一
連載【堂本光一 コンマ一秒の恍惚Web】RACE36
第17戦アゼルバイジャンGP(決勝9月21日)でマックス・フェルスタッペンが優勝し、前戦のイタリアGPに続き2連勝を達成。角田裕毅(つのだ・ゆうき)もレッドブル移籍後のベストリザルトとなる6位でフィニッシュし、レッドブルが復調してきた。
ここまでチャンピオンシップを牽引してきたマクラーレンだが、ポイントリーダーのオスカー・ピアストリは予選と決勝で立て続けにクラッシュを喫し、ノーポイントでレースを終える。ランド・ノリスも7位が精一杯と精彩を欠いた。
今週末には第18戦のシンガポールGP(決勝10月5日)がマリーナベイ市街地コースで開催される。もしレッドブルとフェルスタッペンがシンガポールも制すると、タイトル争いの行方は俄然、わからなくなってくる。果たして、どんな結果が待っているのか!?
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■2戦連続でフェルスタッペンの凄さを見せつけられた!
レッドブルのマックス・フェルスタッペン選手が第17戦アゼルバイジャンでポ-ル・トゥ・ウインを達成し、前戦のイタリアGPから2戦連続の優勝を飾りました。フェルスタッペン選手がトップに立ち、タイヤを楽にマネージメントできる"勝ちパターン"に入ってしまうと、もう誰も太刀打ちできません。
でも今回のレースは予選がすべてだったと思います。予選は風向きがコロコロ変わり、クラッシュやコースアウトが続出、赤旗で6回もセッションが中断するという波乱の展開となりました。
予選中に赤旗が6回出たというのは過去最多で、予選は通常1時間で終わりますが、結果的に2時間近くかかりました。レースよりも長かったですが、最後までちゃんと見ました。
そんな混乱した状況下で、フェルタッペン選手はとてつもないタイムをことも無げに出してしまう。特に予選最後のQ3は風だけでなく霧雨も加わり、マシンがどんな挙動をするのか予想がつかない状況にあったと思います。
でもフェルスタッペン選手は路面の状況とマシンの動きを捉える感性というかセンサーが飛び抜けて優れているのでしょうね。

アゼルバイジャンで圧巻のポール・トゥ・ウィンを達成したフェルスタッペン。シンガポールの結果次第ではチャンピオンシップ争いに加わる可能性は十分ある!
ほかのドライバーはナーバスな挙動をするマシンを操ることに苦しむ中、ズバっとタイムを出して、ポールポジションを獲得しました。前回のイタリアGPと同様に「ホントにすごい!」という言葉しか出てきません。
■焦ってミスを連発。意外な姿を見せたピアストリ
レッドブルと対照的に、チャンピオン争いをリードするマクラーレンは歯車の噛み合わないレースになってしまいました。アゼルバイジャンGPが行なわれたバクー市街地コースは低ダウンフォースのサーキットです。
今年のレースを振り返ると、マシン的にはレッドブルに合っていて、マクラーレンはどちらかといえば苦手なコースになるだろうと予想していました。
ただ、今年のマクラーレンはどんな特性のサーキットでも速い万能マシンなので、まさか2台そろって表彰台に上がることができないとは思いませんでした。特にドライバーズ選手権をリードするオスカー・ピアストリ選手が自らのミスでノーポイントに終わったのは驚きでした。
あの冷静沈着なピアストリ選手が予選で単独クラッシュを喫して9番手に沈み、決勝でもジャンプスタート(フライング)をしただけでなく、1周目にオーバースピードでコーナーに突っ込んで単独クラッシュ......。これまで焦って凡ミスをするピアストリ選手の姿を見たことがなかったので、本当に意外でしたね。
ピアストリ選手とタイトルを争うノリス選手は大量ポイントを獲得したかったところでしたが、予選で7番手に終わったことが響きました。
決勝では前を走るレーシングブルズのリアム・ローソン選手や角田裕毅選手を抜くことができず、7位でフィニッシュ。ピアストリ選手との差を6点しか縮めることができませんでした(ピアストリ選手324点、ノリス選手299点)。
アゼルバイジャンGP終了時点でランキング3位につけるフェルスタッペン選手とポイントリーダーのピアストリ選手との得点差は69点。
フェルスタッペン選手が残り7戦でマクラーレンのふたりに追いつくのは相当難しいですが、もし逆転でチャンピオンになったら、フェルスタッペン選手は伝説になりますよね。
次のシンガポールGPの舞台となるマリーナベイ市街地コースはハイダウンフォース・サーキットで、マクラーレンのマシンに合っていると思います。
でもピアストリ選手やノリス選手に不運が重なるかもしれません。何が起こるかわからないのがF1です。とにかくシンガポールGPはタイトル争いの行方を占う大事なレースになってきますので、目が離せません。
■角田選手がレッドブル移籍後ベストの6位入賞
角田選手はアゼルバイジャンGPでレッドブル移籍後のベストリザルトとなる6位に入賞。今回も角田選手のラップタイムを追いかけながらレースを見ていましたが、開始直後からドキドキする展開になりました。
スタート直後はメルセデスのキミ・アントネッリ選手やジョージ・ラッセル選手とバトルを繰り広げますが、ジリジリと引き離されていきます。
「今回もしんどい展開になるのかなあ......」と心配しましたが、レースが進んで行ってもペースは落ちず、チームから「ペースアップするよ」という指示が出ると、きちんとタイムを上げてきました。
タイヤを戦略的にマネージメントしながら、しっかりと戦うことができていました。

アゼルバイジャンGP終了後、千葉県の幕張メッセで開催された東京ゲームショウに登場した角田選手。「Red Bull Apex Takeover with Yuki Tsunoda」では、プロゲーマーとともに人気のゲーム『ApexLegends(エーペックスレジェンズ)』をプレイし、イベントを盛り上げた
前を走っていたローソン選手を抜いてほしかったという意見はありますが、僕は非常に巧妙な戦いをしたと思っています。ローソン選手とのポジションをうまく計算しながら、DRSを利用して後ろから迫ってくるノリス選手の追撃を振り切りました。
結果的にフェルスタッペン選手とタイトルを争うノリス選手に最小限のポイントしか与えなかったので、チームとして考えれば、いい仕事をしたと思います。
でも角田選手にとってレッドブルのマシンは相変わらず扱いづらいことには変わらないと思います。新型フロアが前戦のイタリアGPから投入されて多少はましになったぐらいではないでしょうか。
アゼルバイジャンGPではフロントウイングが明らかにフェルスタッペン選手と異なっていましたし、シーズンも終盤戦に入り、そんなに劇的にマシンは変わらないと思います。
もう残りのレースは限られているので、日本のファンとしては、いい加減にフェルスタッペン選手と同じ仕様のマシンを与えてほしいですが、角田選手がF1で生き残っていくためには、与えられたマシンで結果を出すしかないですよね。
■サインツのような光る走りを見せてほしい!
アゼルバイジャンGPで3位表彰台を獲得したウイリアムズのカルロス・サインツ選手がいい例だと思います。サインツ選手は今年フェラーリからウイリアムズに移籍しましたが、フェラーリ時代に比べると、与えられる道具(マシン)はよくありません。
今シーズンはこれまで苦しいレースが多かったですが、バクーではウイリアムズに4年振りの表彰台をもたらしました。トップチームで走るような選手はどんな道具を手にしても、光る瞬間があるんですよね。
サインツ選手はバクーでレースペースが非常に良かった。ウイリアムズのマシンとバクーのコース特性が合っていたこともありますが、予選で2番手を獲得したことが大きかったと思います。
結局、今のF1は接戦で中団グループに飲み込まれてしまうと、DRSトレインの中で身動きが取れず、タイヤのマネージメントにも苦しむことになります。
これまでの角田選手や、今回のノリス選手がまさにそうです。周りをケアする必要があるので自分の走りができず、どうしても後手後手のレースになってしまう。そういう意味では、予選で前につけることがすごく大事になってきます。
もうひとつは週末を通していかに順調にプログラムをこなしていけるのかも改めて重要だと感じました。今回の角田選手は金曜日のフリー走行から決勝のロングランのペースが良かった。
本人はレース後に「フリー走行からいろいろ学んで、マシンを改善してきた」と話していましたが、セッションを重ねるごとに細かい修正をしてマシンを仕上げられたことが大きかったのかもしれません。そうなるとレースペースもよくなり、戦略もいろいろな可能性が広がってきます。
角田選手はマシンに慣れ、調子は明らかに上向きです。彼本来のスピードを発揮するまであと一歩のところまで来ていると思います。

東京ゲームショウで後半戦の戦いについて聞かれた角田選手。「自分のパフォーマンスを出しきれれば自ずと結果もついてくると思うので、今の調子で1つ1つクリアしながら、さらに上達しながら結果を出していきたい」と力強く語った
☆取材こぼれ話☆
料理好きとして知られ、将来はレストラン経営をするのが夢と語る角田選手。この夏、アメリカ・ロサンゼルス発の調理器具ブランドであるHexClad(ヘックスクラッド)のグローバルアンバサダーに就任した。
「角田選手をサポートしているブランドのフライパン、買っちゃいました。ちゃんと正規のオンラインショップで購入して、もう何度か使いました。いろいろ焼いています(笑)」
スタイリング/渡邊奈央(Creative GUILD) 衣装協力/AKM ヘア&メイク/大平真輝
構成/川原田 剛 撮影/樋口 涼(堂本氏) 写真/桜井淳雄 Jason Halayko/Red Bull Content Pool