W杯本大会は空気感も、背負う重圧も規格外!
蘭1部名門アヤックス・アムステルダムで早くも存在感を放っている板倉 滉。代表ではブラジル、パラグアイとのテストマッチを控えている。
■W杯デビューの独戦、なんとも言えない感覚
アヤックスに加入して、リーグ戦初めてのホームゲーム(エールディヴィジ第5節・ズウォレ戦、9月13日。以下すべて日本時間)は後半22分までの出場だったが、3-1で勝利。
18日には、これも僕にとって初となるUEFAチャンピオンズリーグ・リーグフェーズ第1節のインテル戦に出場(0-2●)、21日のリーグ戦第6節はライバルかつ強豪のPSVと早くも激突(2-2△)。過密日程だけど、充実した毎日を送っている。
日本代表では、アメリカへ遠征。メキシコ戦(9月7日)は後半15分まで出場、右足首を少し痛めたので大事を取って下がった。遠征については回をあらためて振り返るとして、今回は来年6月に開幕を控えているW杯北中米大会について語ってみたい。
前回のカタール大会(22年11~12月開催)が人生初のW杯だった。アジア最終予選もめちゃくちゃ緊張感があったけど、本大会は別次元だった。
「どんな感じなの?」と、よく人に聞かれるけど、あの張り詰めた空気、そして熱気というのはなんとも表現しづらい。とにかくすさまじいとしか言いようがない。4年に1度、大会期間中は世界で何十億もの人々が注目する、いわば地球最大規模のビッグイベント。
僕のW杯デビューの相手はドイツだった。それまで決して準備万全というわけではなく、9月の右膝内側側副靱帯部分断裂から間に合うかどうかの瀬戸際で、大会直前のテストマッチ・カナダ戦も後半22分に交代。ケガ明けの中、果たしてフルで戦えるのか、正直不安だった。
いざピッチに足を踏み入れたときは、高揚感と冷静さを保とうとする心がごちゃ混ぜで、なんとなくフワフワした感覚だったことを覚えている。ただ、試合への入り方として、緊張するのは決して悪いことじゃない。厳密に言えば、単にアガってしまうのと、緊張感を持って入るのとでは意味合いが全然違ってくる。
僕の場合、試合が開始すると、まずは守備からという思いで、瞬間的にスイッチをバチンと入れる。その後は、落ち着いて何本かボールタッチをしていく。W杯本番では、そのへんをすごく意識していた。
結果はベスト16、しかも僕は累積警告によって決勝トーナメント1回戦のクロアチア戦に出られなかった。決して満足はしていない。
■本大会メンバー争いに勝ちたい
普段リーグ戦で戦っている選手が、W杯になると〝違うアドレナリン〟を出すというのは正直あることだと思う。僕は所属クラブの試合でもアドレナリンは出ていると感じるし、クラブと代表とで差別化もしていなければ、手を抜いているわけでもない。常に全力だ。
でも......海外の選手の中には、W杯という特別な空間において〝違うパワー〟を発揮するケースがある。実はそれってすごく大事なことだと思う。ここぞという局面で存分に力を出し切れれば、勝負強い選手として長らく記憶されるからだ。
チーム全体でも勝負どころで最大限戦えるというのは絶対的なアドバンテージになる。その点、中南米の国々はすごい。国も、一族すべての生活も、何もかも背負ってのし上がろうとする選手たちの気迫。ハングリーだ。
それはコパ・アメリカ(南米選手権)の中継を見ていても、画面越しに伝わってくる。
日本代表がそれを持っていないわけではない。でも、彼らのような死に物狂いのガッツは僕らにとっても必要不可欠だと思う。何人かではなく、チーム全員が死力を尽くすこと。そういう意味で、10月の親善試合、パラグアイ戦とブラジル戦はさらなる学びになるはずだ。
ここから先、北中米のどこかでW杯の初戦を迎えるまで、僕にとっても日本代表という狭い枠に入るためのサバイバルレースが待っている。前回大会を含め、最終予選もほぼ休むことなく出場してきたからといって、メンバー入りが確定しているとは1ミリも思っていない。若手DFたちも各国リーグで活躍している。負けてはいられない。
新天地アヤックスで、とにかくケガなく結果を出す。常にハングリーでいたい。

板倉 滉
構成・文/高橋史門 写真/アフロ