ドジャース「WS連覇」3つのカギ。大谷翔平「三刀流」、夢の日...の画像はこちら >>

6月に投手復帰を果たした大谷。9月は3試合で防御率0.00とサイ・ヤング賞級の圧巻投球を披露

13年連続でポストシーズンを戦うドジャース。

21世紀初のワールドシリーズ連覇へ向け、投打のポイントやキーマンを徹底分析!

■明るい兆しもある今のドジャース

13年連続でPS(ポストシーズン)進出を決め、今世紀初のWS(ワールドシリーズ)連覇を目指すドジャース。ここからどのように勝ち上がっていけばいいのか。まずは今季の戦いぶりを振り返ろう。

「好スタートを切ったものの、先発陣に故障者が続出。救援陣にも負荷がかかり、7月に7連敗と失速。打線はチーム本塁打数リーグ1位と一発はある半面、守備も走塁も細やかさがなく、昨季ほどの完成度や勢いはありません」

こう語るのは、現役投手を指導するピッチングデザイナーで、MLBにも精通する野球評論家・お股ニキ氏だ。厳しい評価だが、明るい兆しもあるという。

「ここにきて先発陣が充実し、野手陣もトミー・エドマンやマックス・マンシーらが復帰するなど戦力がそろいつつある。あとは、昨季も9月以降に調子を上げてチームを牽引した大谷翔平と山本由伸がチームを勝たせられるかどうか。改めて真価が問われます」

本稿では、ドジャースの現状を整理しつつ、PSにおける3つのカギを分析していく。

【カギ1】チームの投打に影響を与える三刀流・大谷

まずは、大黒柱である大谷について。2年連続50本塁打の金字塔を打ち立てた「打者・大谷」の今の状態は?

「9月8日に菅野智之(オリオールズ)から放った2打席連発が契機となったのか、それ以降はグッと良くなりました。特に左投手に対して、オープンスタンスにしすぎていましたが、今は程よいバランスで構えています。いい打撃を続けていけば、必然的に勝負強さも発揮できます」

一方、「投手・大谷」といえば、8月は4、5失点の試合が続いて心配する声も上がる中、「投げている球は素晴らしいので心配ない」と本誌で語っていたお股ニキ氏。

その言葉どおり、9月17日のフィリーズ戦で5回ノーヒット投球を演じて度肝を抜いた。

「フォーシームを軸に、カットボール、斜め下に鋭く落ちるスラッター、以前よりも球速を増したカーブが効果的。来年、仮に投手に専念したらサイ・ヤング賞も間違いなし、という域に達しています」

救援陣が手薄なだけに、大谷のリリーフ起用を推す声も高まっている。

「DHの大谷がリリーフ登板した場合は『DH解除』となるため、降板後は打者として出場不可能。チームの打力低下は明らかで、デーブ・ロバーツ監督も当初はリリーフ起用に否定的でした」

そこで、注目されているのが「三刀流・大谷」。リリーフとしてマウンドに上がり、降板後は外野手として出場する計画だ。大谷自身もその可能性を否定していない。

「試合への貢献度、疲労度などを考慮すると、現状の『1番・投手兼DH』が基本線でしょう。ただ、日本ハム時代にも2016年のクライマックスシリーズでクローザー登板し、当時プロ野球最速となる165キロを連発してセーブを記録。WBC決勝でのクローザー登板も見事でした」

ドジャース「WS連覇」3つのカギ。大谷翔平「三刀流」、夢の日本人リレーはあるのか?
エンゼルス時代に7試合で外野守備を経験。PSでは「三刀流」が見られるかもしれない

エンゼルス時代に7試合で外野守備を経験。PSでは「三刀流」が見られるかもしれない

もちろん、打線は大谷だけが活躍すればいいわけではない。7月のドジャース低迷時はムーキー・ベッツも月間打率.205と絶不調に陥った。

「今季のベッツは受難続きで、東京での開幕シリーズは胃腸炎で欠場。さらに、継父が死去する苦難にも見舞われるなど満身創痍の中、本来のポジションではないショートを守ってきました」

そこから一転、9月は月間打率.337、6本塁打と好調だ。

「勝負の時期に調子を上げてきたのはさすが。間もなく33歳ながらショートを守り、打率2割6分前後、20本塁打は十分立派な数字と言えます」

ドジャース野手陣で気がかりなのは、ベッツをはじめ主力組にベテラン選手が多いこと。昨季WSでMVPのフレディ・フリーマンは36歳、マンシーが35歳、テオスカー・ヘルナンデスは間もなく33歳だ。

「アスリート能力やハングリーさの面では若いほうがいい。年齢が高くなると守備範囲は狭くなり、ケガもしやすい。かといってDHは大谷が占有しているため、休ませながらの起用も難しい。野手陣の高齢化がシーズンで苦しんだ一因とも言えます。短期決戦では〝経験〟という財産をどう生かすかが問われます」

ドジャース「WS連覇」3つのカギ。大谷翔平「三刀流」、夢の日本人リレーはあるのか?
ナ・リーグでは唯一、OPS1.000以上を記録。シーズン終盤に調子を上げてきた

ナ・リーグでは唯一、OPS1.000以上を記録。シーズン終盤に調子を上げてきた

【カギ2】山本、佐々木、大谷による夢の日本人リレー

打の中心が大谷なら、投の中心は間違いなく山本だ。今季はシーズンを通してローテを守っただけでなく、9月6日のオリオールズ戦で9回2死までノーヒットノーランの圧巻投球を披露した。

「7月頃から徐々に投球時のすり足をやめ、左足を上げるフォームに。

その結果、球の力が増し、8月以降の平均球速はそれ以前から3キロほどアップして約155キロに。

以前から、出力が落ちる日は打ち込まれやすいと指摘してきましたが、逆に言えば、力強い球を投げられればこれだけの投球ができる。力強いストレートがあることでカットボール、ツーシーム、スプリット、スライダー、カーブと豊富な球種もより生きます」

その効果は数字でも明確で、今季通算被打率は.183。9月だけを見れば被打率.047だ。

「サイ・ヤング賞を受賞する投手の被打率はおおむね.194以下。今の山本はその数字を上回っています。PSでは大谷と共に先発1、2番手を任されるはずで、エースとしてフル回転が求められます。3、4番手は故障から復帰後、安定した投球を見せるブレーク・スネルとタイラー・グラスノーが務めるでしょう」

さらに、引退を表明したクレイトン・カーショー、6月に復帰したエメ・シーハンも調子を上げている。

「先発は4枚で足りるため、カーショーとシーハンはリリーフに回る可能性が高い。カーショーは球速が143キロ程度ながら2桁勝利を記録。投球で大事なのは球速だけでなく、球の強度、質、制球、技術、球種、経験だと改めて感じます。

サイ・ヤング賞3度、ドジャースひと筋18年というレジェンドの引退の花道にWS連覇を目指そう、というのは起爆剤になりえる。

リリーフとしては球威が心もとないのも確かですが、本人もこの役回りに乗り気のようです」

思い返せば、昨季は先発陣が心もとなく、救援陣が踏ん張って世界一をつかんだ。今季はなぜ逆転現象が起きたのか?

「野球は連綿とつながっています。ドジャースのリリーバーたちは昨季のPSでブルペンデーを何度も経験するほど無理をしましたが、その反動が出た。昨季抑えを務めたエバン・フィリップスやマイケル・コペックらが相次いで故障。

加えて、オフに4年総額約112億円で契約したタナー・スコットを筆頭に、カービー・イェーツやブレーク・トライネンら実績のあるリリーバーが軒並み防御率4、5点台だったのも誤算でした」

そんな救援陣を立て直すべく、白羽の矢が立ったのは、9月末にようやくメジャー復帰を果たした佐々木朗希。PSでは救援起用が濃厚だ。

「今季はドジャースに限らず、各球団でリリーバーが苦戦していて、その多くは球種の少ない投手です。リリーバーには球の速さや強さだけでなく、球種も求められる時代になりました。

佐々木は一時、球速が落ちたと心配されましたが、ここにきて下半身の使い方が改善し、球速も戻ってきた。短いイニングを高い出力と鋭いフォークで抑え込んでほしい、という期待も込められているでしょう。また、先発が早めに崩れた際には、第2先発的なロングリリーフができるのも強みです」

山本、佐々木、大谷という夢の日本人リレーもあるかもしれない。

ドジャース「WS連覇」3つのカギ。大谷翔平「三刀流」、夢の日本人リレーはあるのか?
3Aで中継ぎ登板した佐々木。順風満帆なルーキーイヤーではなかったが、PSでの名誉挽回に期待したい

3Aで中継ぎ登板した佐々木。
順風満帆なルーキーイヤーではなかったが、PSでの名誉挽回に期待したい

【カギ3】覚醒した守備的捕手ロートベット

投手陣の好投を期待する上では、誰が受けるかも重要だ。ただ、ドジャースの捕手事情は終盤戦で激変。正捕手のウィル・スミスが右手を亀裂骨折しPSで復帰できるか微妙な状況に。

さらに第2捕手のダルトン・ラッシングも一時負傷者リスト入りしたことで、7月末に加入したばかりの第3捕手のベン・ロートベットが主戦捕手を務めている。

「捕手としてだけでなく、規定未満ながらチームトップの打率.296を誇るスミスの離脱は悲報のように思われがちですが、ディフェンス面ではメリットも。ロートベットはまず全体的なシルエット、構え方からして良く、投手はものすごく投げやすいと思います。

フレーミングもうまく、キャッチングもブロッキング技術も高いので、投手は大きく曲がったり落ちたりする変化球でも安心して腕を振って投げられる。対して、ラッシングはキャッチングもブロッキングも粗さが目立ち、今季は大谷がいらだちを見せる場面もありました」

ドジャース「WS連覇」3つのカギ。大谷翔平「三刀流」、夢の日本人リレーはあるのか?
山本(左)の"ノーノー未遂"を演出したロートベット(右)。巧みなリードで投手陣を引っ張っている

山本(左)の"ノーノー未遂"を演出したロートベット(右)。巧みなリードで投手陣を引っ張っている

実は投手が投げやすい捕手はMLBでもそこまで多くはなく、日本でいうと坂本誠志郎(阪神)や小林誠司(巨人)らに近いタイプだという。

「ロートベットは配球も優れています。スミスの配球が機械的でそこまで思慮深くなかったことと比べると、ロートベットがマスクをかぶるようになり、明らかに先発陣の好投を引き出しています。ロバーツ監督もその能力を高く評価していると思います」

確かに、上述した山本の〝ノーノー未遂〟も、大谷の5回ノーヒット投球も、受けた捕手はロートベットだった。

「仮にスミスがPSで復帰できるとしても、ロートベットを外すのはもったいない。配球はベンチがやればいい、なんて単純なものではありません。スミスの打撃は相当いいですが、補って余りあるほど捕手の守備力は重要。短期決戦ではより際立ちます」

夢のWS連覇へ。勝負の1ヵ月がいよいよ始まる。

*成績は日本時間9月25日時点

文/オグマナオト 写真/時事通信社 アフロ

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