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この自民党総裁選の投票風景は『菊と刀』に予見されていた......?(写真:共同)
ウクライナ戦争勃発から世界の構図は激変し、真新しい『シン世界地図』が日々、作り変えられている。この連載ではその世界地図を、作家で元外務省主任分析官、同志社大学客員教授の佐藤優氏が、オシント(OSINT Open Source INTelligence:オープンソースインテリジェンス、公開されている情報)を駆使して探索していく!

*  *  *

――明日は自民党総裁選挙の投開票日であります。

しかし、その前にやはり、辞めなくてもよかった石破茂首相の最後の活躍に触れたいです。あのトランプと大喧嘩しているモディ印首相と、石破首相の外交は素晴らしかったです。

佐藤 そうですね。インド高速鉄道に新幹線を導入するため、東北新幹線に乗ってアピールしたのはよかったですね。今回、インドが導入するのは新幹線専用軌道を通る列車です。ただし、インドでは全ての路線に新幹線専用軌道は通せませんからね。

そうなると、牛が電車に当たります。日本で牛が当たって大丈夫な新幹線は、東日本しか持っていません。

――トランプの元で、黙ってインドと日本が仲良くしても何も言われない。

佐藤 そうですね。

それから、石破首相はパレスチナを承認しないと決めました。これは国内政府関係でも非常に勇気のいることです。

しかし、それは正しい判断です。まず、二国制度なんて恐れ多いことをできると思いますか?

――難しいと思います。

佐藤 それに、ヨーロッパの連中がパレスチナを承認しましたが、それはなぜなのか、その本質を見抜かないといけません。

――何をしようと考えているのですか?

佐藤 イギリス、オーストリア、ニュージーランドの旧英連邦、それからフランス、これらは全て植民地を持っていて、そのほとんどがイスラム諸国でした。だから、自分たちの旧植民地における影響力を維持しようとしているのです。

要するに、ヨーロッパは帝国主義的な思想でまだやっているわけです。そのためにイスラエルを切り、パレスチナに良い顔をしているんです。

――日本はその辺りの植民地とは関係ないですよ。

佐藤 そう、ヨーロッパの帝国主義国がやっていたことで、わが国には関係のないことです。だから、そういったことには関しては一切触れないことが大切です。石破さんは安倍政権から続く首相官邸主導の外交をやっていたので、間違いありません。

しかし、これが外務省主導になって高市さんあたりを連れて行けば、滅茶苦茶になりますよ。

そんな本質を見抜けないのかと。

それから、何よりも良かったのはトランプとの関係が良好だったことです。インドと仲良くしても「まあいいか」で全て済みます。ヨーロッパにフラフラ付いて行ったりしませんし、イスラエル非難声明を出しても、その後、アメリカと同じスタンスをとったので、問題にならなかったわけですからね。。

――石破さんが安倍さんのようにカムバックすることはありますか?

佐藤 多分、ないと思います。

――自民党を生き残らせるために石破さんは身を引いた。まさに武士道!!

佐藤 現在の日本の大きな構造として、数党の比較第一党が組織する多党化に向かっています。これは、自民党がやっていた「キャッチオールパーティー」、つまり包括政党がなくなったためですね。

そして、その多党化に向かうなかでは、石破さんは非常に良い人でした。それが分かっていましたから。しかし、高市さんにしても、小泉さんにしても、さらに他の連中も皆、自民党がもう一度、キャッチオールパーティーになることを夢見ています。

――「夢よもう一度」でありますね。

佐藤 はい。だから、いまの自民党の政治家たちには全然、現実が見えていないんです。しかし、高市さんになると、よいことがあります。

――そりゃ、何ですか?

佐藤 公明党が連立から離脱する可能性が出てきます。

――すると、自民党はどことくっつくのですか?

佐藤 参政党、日本保守党と組む可能性が高いです。そうなると、財政規律がなくなります。その結果、経済的大混乱が起きるかもしれません。

――国民が金の所持を禁じられ、隠し持っている国民の家にゴールドマン突入隊が急襲して差し押さえる。そんなすさまじい社会になると......。参政党は大きな勢力になりますかね?

佐藤 なり得ます。日本の大学進学率は約6割。

そして、国会議員のほとんどが超難関大学出身です。その中で、参政党の人たちの学歴は国民に近いんですよ。

――国民に一番距離が近い政党が参政党だと。

佐藤 それから最近、保守に目覚めた開業医、歯科医、弁護士などが参政党を支持しています。彼らが150万円ぎりぎりまで個人献金している例もあります。

――まず、医院にくる患者より日本国を診ないと、となっている。陸上自衛隊の駐屯地では、朝の出勤時間に隊員たちに向かって旗を振って挨拶している参政党の支持者を目撃しました。

佐藤 そうそう、そういう人たちがいるんですよ。

――地道なこともしっかりやっていて、すごいなと思いました。

佐藤 しかも、まだ考え方が決まっていませんからね。だから、左翼から「あいつらは核武装論者だ」とレッテルを貼られるんです。

――レッテルを貼るより、話し合う回路を作れと。

佐藤 はい。例えば、「『核武装が安上がりだ』と言われましたが、どこで核実験をしますか?」と聞くんです。

――やる場所はないですよ。

佐藤 その次に、「原発についてどうお考えになりますか?」と。当然、参政党は賛成ですよね。

――でも、核兵器を作るプルトニウムがありません。

佐藤 それで、「日米原子力協定があるので、核兵器開発を開始すれば核燃料を全てアメリカに返さなければなりません。つまり、原発はなくなります。どうしますか?」と聞きます。

――原発廃絶が可能になる。

佐藤 そうです。核ミサイルの発射基地の問題もありますよね。

――地上基地は無理です。「イージス・アショア」という防衛ミサイル発射基地も作れませんでしたから。

佐藤 イギリス、フランスにも陸上基地はありませんからね。なぜなら、日本国程度の面積ならば、敵の核ミサイルの第一撃で壊滅してしまいます。

その時の第二撃としての抑止力として潜水艦がありますが、原子力潜水艦でなければダメです。しかし、それは売ってもらえません。

――さらに、日本国内で作れる技術はございません。

佐藤 だから、「そういったことをどうやって解決していきますか?」と、閉ざされた扉の中でバカにするのではなく、丁寧に話し合うことが大切です。

そして最後に「先生以外の日本の政治家と官僚は全員、おしゃべりですよ」と言っておけばいいんですよ。

――もし、核兵器開発が始まれば、絶対、地元の後援者の方々に「ここだけの話だけど」と話します。そして、翌日ネットに上げて、話は大拡散します。

佐藤 はい。核開発は核実験が成功するまで、絶対に秘密が漏れてはいけません。だから、「日本にそれができますか?」と。

――無理だと思います。

佐藤 そう。だから、「核武装以外の方法を考えた方がいいんじゃないですか?」と話をもっていけばいいんですよ。

――それならきっとわかりあえます。

佐藤 だから、付き合えるところとは付き合う、付き合わないところとは付き合わないのが正解です。参政党の神谷(宗幣)さんはいろんな人と話ができる人ですから。

――すると、この自民党総裁選、自民党の終わりの始まりか、再生の開始なのか......。

佐藤 それは、「お前はもう死んでいる」です。

――えっ、『北斗の拳』の世界に入っていると!! すると、明日の投票日は自民党の審判の日ではなく命日。

佐藤 『菊と刀』を読まないとダメですよ。

――文化人類学者、ルース・ベネディクトが日本人の心理と行動を分析した本ですね。それは恐ろしい世界に誘われるのでは!!

佐藤 その一節を引用します。

《空中戦が終わってから、日本の飛行機は三機または四機の小編隊に分かれて基地に帰ってきた。
 最初に帰着した数機の中の一機に一人の大尉が登場していた。愛機から降りたこの大尉は、地上に突っ立って双眼鏡で空をみつめていたが、全くしっかりしていた。彼は最後の飛行機が帰着したのを見届けてから、報告書を作成し、司令部に向かった。
 司令部に着いて司令官に報告した。ところが報告を終えるやないなや、突然、崩れるように地上に倒れた。
 その場にいあわせた士官たちは急いで駆け寄り、助け起こそうとしたが、その時はもう、彼はこときれていた。
 死体を調べてみるとすでに冷たくなっていた。そして、胸に一発擲弾を受けており、それが致命傷になったことが分かった。
 今息を引き取ったばかりの身体が冷たくなるわけはない。にもかかわらず大尉の身体は氷のようの冷たくなっていた。
 大尉はずっと前死んでいたに相違ない。報告をしたのはその魂だったのだ。
 戦死した大尉の持っていた厳格な責任感によって、このような奇跡的な事実が成し遂げられたのに相違ない》

この大尉が、今の自民党です。

――もう死んでいるのに責任感で動いている......。

佐藤 自民党はすでに死んでいますが、精神力で頑張っている状態です。そして、こういう伝統を正しく継承している保守政党なんですよ。

――天晴な誉れの下で政治をする。

佐藤 主観的な願望によって、客観情勢を変えることができる。それが大日本帝国の伝統だったんです。元寇の時から念力主義で、それを実現しようとしてきたんです。

――それがいま、潰(つい)えた。

佐藤 自民党では潰えていません。強く念じることで情勢が大きく変わると信じている人たちがいるんですよ。そういう人たちからすれば、念じ方が足りないということです。

――それは、いまの世の中に通じないのでは?

佐藤 自民党内で通じれば。大丈夫なんですよ。

――明日、投票する自民党代議士の先生方は、すでに全員冷たくなっているけれど、魂が一票を投じる。そんな奇跡的な光景が目撃できるわけですね。

佐藤 そういうことです。

次回へ続く。次回の配信は10月10日(金)を予定しています。

取材・文/小峯隆生

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