急増する「黒字廃業」は「一億総廃業予備軍社会」の到来? 「会...の画像はこちら >>

「倒産」が年に1万件ほどなのに対して、「休業・廃業、解散」は7万件を超えるペース。その約半数は黒字企業だ
あらゆるメディアから日々、洪水のように流れてくる経済関連ニュース。
その背景にはどんな狙い、どんな事情があるのか? 『週刊プレイボーイ』で連載中の「経済ニュースのバックヤード」では、調達・購買コンサルタントの坂口孝則氏が解説。得意のデータ収集・分析をもとに経済の今を解き明かす。今回は「倒産」について。

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テレビ番組で「倒産が増えていますが、廃業も増えているんですよね」と発言したところ、「何を言ってるんだ。おなじだろう」と批判をもらった。しかし通常、両者の意味は異なる。

倒産は法的処理をともなう。いわゆるクビが回らない状態で、民事再生法や会社更生法が適用されたり、破産処理にいたったりすることを指す。

いっぽう廃業は「自主廃業」という言葉があるとおり、事業継承ができなかったり、心が折れたりして、自ら事業をたたむことだ。経営者が健康問題から、これ以上の経営は難しいと断念するケースもある。

私にとって衝撃的な数字が出た。帝国データバンクが発表した2025年1~8月の休廃業・解散件数は、なんと4万7087件。

このままだと年間7万件を超えるだろう。

約7万人の経営者が事業を諦めるわけだ。繰り返すが、これは倒産の数ではない。倒産はおそらく年間1万件ほどだろう。

本来であれば、日本経済のためにもっとがんばってもらいたい。というのも、廃業の約半数は黒字なのだ。事業が黒字ならば、世の中に求められていたといえる。

ただ、経営者には事業を展開する余力がなかったのだろう。帝国データバンクは「円満な廃業」「あきらめ廃業」などの言葉を使った。的確なネーミングかもしれない。

廃業を決めた経営者は70代がもっとも多く、次は80代。人生と事業がリンクしているのだ。

ここで個人的な話をお許しいただきたい。私はコンサルタントを生業(なりわい)にしている。同業には独立した個人のコンサルタントが多い。

考えてみてほしい。みなさんの会社で「ああ、これは困ったな。コンサルに頼もうかな」って場合があるだろうか。たぶんないでしょ。だから中小企業診断士でも、コンサルタントでも、注文なんてこない。独立して生計を立てるなんてほとんど不可能だ。

私なんて大企業から依頼をいただいて生活しているが、もはや奇跡と思っている。みなさんが独立したとして、毎月10万円を払ってくれるクライアント候補はいるだろうか。

実際、独立したものの断念するひとばかりだ。

私の感覚では、独立して5年たって会社員に戻るひとが多い。

ドブ板営業を繰り返して、年間の収益がなんとか100万円。生活費が300万円くらいとすると、5年で1000万円くらいの蓄財を使い果たして精神的に限界がくる。

偶然だろうが、中小企業診断士の資格更新は5年ごとだ。それも5年でやめるという判断に影響しているだろう。

さきほど半数が黒字で廃業と書いたが、裏を返せば残りは赤字か、利益がほとんど出なくてやってられずに廃業。加齢とともに廃業を選ぶひとも多いし、会社員を辞めて独立しやすくなったぶん、そりゃ廃業の数も増えるわけだ。

一億総活躍社会といわれたが、それは同時に「一億総廃業予備軍」社会でもある。

人生100年時代ともいうが、もし会社がうまくいっても、その寿命はだいたい"社長の健康寿命"と同じなのかもしれない。いくら健康経営(従業員の健康を重視すること)が叫ばれても、結局は社長個人の健康しだいというミもフタもない話だ。

資金繰りで眠れず、営業に奔走し、人事に困り、多忙すぎて人間ドックすら受けない社長もいる。決算書に経営者の健康診断書を添付する義務があれば自覚的になるだろうが。

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