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トヨタが静岡県裾野市に建設を進める実証都市「ウーブン・シティ」で、第1期エリア(約4.7万㎡)の実証がスタート。暮らしとモビリティの"次の形"がここから生まれる

静岡県裾野市に誕生したトヨタの実験都市「ウーブン・シティ」。

その構想が発表されたのは2020年――あれから5年。ついに〝未来の暮らし〟を体感できる街が動き始めた!

現地を訪れた自動車研究家・山本シンヤ氏が、実際に歩き、見て、肌で感じたウーブン・シティの〝真の姿〟とは!?

■実はスマートシティじゃないってマジ!?

静岡県裾野市――。富士山を仰ぐ東富士工場の跡地に、トヨタ自動車の新拠点「ウーブン・シティ」が姿を現した。

発表から5年。2020年1月、米ラスベガスの家電見本市「CES」で豊田章男社長(現会長)が高らかにぶち上げた構想は、いよいよ現実の街として動き出した。

9月25日、正式ローンチイベントが行なわれ、実証実験が本格始動。公開されたのは敷地全体の約6分の1に当たる第1期エリアで、約4万7000㎡に14棟の建物が並ぶ。

8棟は住居棟で、インベンター(発明家)が試作したプロダクトやサービスを、ウィーバーズ(住人)が実際に暮らしながら検証する。

"町内会長"豊田章男が語るトヨタ「ウーブン・シティ」の正体
カーシェアの予約に応じ、自律走行ロボット・ガイドモビがシェアカーを指定場所まで自動搬送。人の手を介さず、クルマが"自らやって来る"新サービスの実証が始まった

カーシェアの予約に応じ、自律走行ロボット・ガイドモビがシェアカーを指定場所まで自動搬送。人の手を介さず、クルマが"自らやって来る"新サービスの実証が始まった

コンセプトは〝永遠に未完成の街〟。第2期の工事もすでに進んでおり、街は改良と進化を繰り返し続けていく。

ただし、その実態はいわゆる〝スマートシティ〟というよりも、〝モビリティのための巨大テストコース〟。日本の公道では規制が厳しく、自動運転やモビリティの実証実験は難しい。

だからこそ閉じられたこの街全体を舞台に、トヨタは挑むのだ。

重点テーマはSDV(ソフトウエアで定義されるクルマ)の基盤「アリーン」をはじめ、自動運転・運転支援技術、AIやクラウド、さらには人やモノ、エネルギーの新しい移動システムまで多岐にわたる。

"町内会長"豊田章男が語るトヨタ「ウーブン・シティ」の正体
電動3輪モビリティによるシェアサービスが実証開始。モノだけでなく、人の移動も視野に入れた新たな都市交通の形が見えてきた

電動3輪モビリティによるシェアサービスが実証開始。モノだけでなく、人の移動も視野に入れた新たな都市交通の形が見えてきた

このプロジェクトを率いるのはウーブン・バイ・トヨタの豊田大輔氏。

「われわれはタグボートのような存在。大きな船を無理やり動かすのではなく、少し方向を変えるきっかけを与えるのが役目だと思っている」

インベンターに名を連ねるのは、トヨタグループ12社と異業種8社。ダイキン工業は「花粉レス空間」、日清食品は「新しい食文化」、UCCジャパンは「コーヒーが集中力に与える効果」、増進会ホールディングスは「最高の教育を体現するスクールの実証」、 インターステラテクノロジズは「宇宙インフラ提供に向けた業務提携」、共立製薬は「ペットと人との共生社会の探求」といった具合に、実証テーマは実に多彩だ。

"町内会長"豊田章男が語るトヨタ「ウーブン・シティ」の正体
自律搬送ロボ・ココモは、衛星測位と障害物センサーで安全走行を実現。買い物かごが収まるスペースも備え、"モノ運び"の未来を担う次世代モビリティ

自律搬送ロボ・ココモは、衛星測位と障害物センサーで安全走行を実現。買い物かごが収まるスペースも備え、"モノ運び"の未来を担う次世代モビリティ

そこにミュージシャンのナオト・インティライミ氏も加わり、街の〝音〟の可能性を探っている。

街の地下には、すべての建物を結ぶ物流ネットワークが広がり、自律型ロボットが稼働。地上ではカーシェアや信号連携などの実証が同時進行し、歩行者やモビリティがレーンごとに最適化されている。その光景はまるでSF映画のワンシーンだ。

■仕掛け人・豊田会長が語った〝未来〟

このプロジェクトの〝仕掛け人〟は、豊田会長である。ウーブン・シティは、かつてのトヨタ自動車東日本(旧関東自動車工業)・東富士工場の跡地を活用している。18年、豊田会長は工場閉鎖の報告に訪れた際、役員会の決裁もない中で「この場所を実証都市にする」と初めて構想を打ち明けたという。

9月25日のローンチイベントの3日前には、東富士工場の元従業員125人が招待され、シティツアーと対話イベントが開催された。

最初に打ち明けた人たちに、最初に見てもらう――そんな豊田会長の心配りがあった。そして、豊田大輔氏がこの場で、真っ先に伝えた言葉は「お帰りなさい」だったという。

工場から生まれ変わったウーブン・シティには、当時の面影も随所に残されている。ウェルカムセンターには、東富士工場で生産されていたセンチュリーやスポーツ800も展示され、歴史がつながっていることを感じさせる。

イベントの途中、豊田会長に直接話を聞くことができた。

――やっとここまで来た、というお気持ちですか?

豊田 「そうですね。現場は笑いが絶えず、雰囲気もいい。私はトヨタではマスターテストドライバーですが、ここでは『マスターウィーバー』という役割です」

――その役目とは?

豊田 「世話焼きが好きな『自称町内会長』ですね(笑)。

未来のためのテストコースなので〝コースの管理人〟でもあります。『あれやっちゃダメ』ではなく、『これやってみたい』を誰よりも大きな声で言う人です」

――5年でここまでたどり着きました。

豊田 「コロナ禍で工事が延期され、地下工事では岩盤が硬くて掘削に3年かかるなど、本当に大変でした。途中でくじけそうになりましたが、皆が頑張ってくれました。5年でここまで形にできたのは誇れることです。

あらゆることに〝日本は周回遅れ〟と言われがちですが、実際は違います。富士山の麓から、世界の最先端を示したいと思っています」

"町内会長"豊田章男が語るトヨタ「ウーブン・シティ」の正体
ウーブン・シティの現地で、トヨタの豊田章男会長を山本氏が直撃。自らを「ウーブン・シティの自称町内会長」と笑顔で語る豊田会長の口から飛び出した「未来」とは!?

ウーブン・シティの現地で、トヨタの豊田章男会長を山本氏が直撃。自らを「ウーブン・シティの自称町内会長」と笑顔で語る豊田会長の口から飛び出した「未来」とは!?

――プロジェクトの全体像が見えにくく、報道も混乱しています。

豊田 「私だって未来はわかりません(笑)。でも、ここは『わからないことを知る場所』『やってみようと言える場所』。これまでは足し算の積み重ねでしたが、未来はかけ算。大企業のモノづくりとスタートアップのスピードをかけ合わせれば、化学反応が起きる。

未来を動かすのはそこに尽きる」

――国や規制との関係はどうでしょうか?

豊田 「新しいことをやると既存のルールにぶつかります。でも、対立したいわけではなく、一緒に新しいルールを作りたい。

官僚、政治家、大企業、スタートアップ、それぞれの役割をかけ合わせれば、もっと面白い未来がつくれる。これからは若い人たちがリードして走ってほしい。私は後ろから『頑張れ!』と応援する係です(笑)」

ウーブン・シティは始まったばかり。課題も多いが、確かなのはこの地に新しいモノづくりの〝魂〟が宿り始めているということ。かつて職人たちが自動車を造り続けた場所で、今度は未来の社会が織り上げられようとしている。

撮影/山本シンヤ

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