「シンガポールGPで忘れてはならないのはアロンソ選手の活躍です。44歳のアロンソ選手の闘争心はまったく衰えていません。
連載【堂本光一 コンマ一秒の恍惚Web】RACE37
第18戦のシンガポールGPはメルセデスのジョージ・ラッセルがポール・トゥ・ウインを飾り、今季2勝目を挙げた。2位にはマックス・フェルタッペンが入り、タイトル獲得の可能性を辛うじて残した。
ドライバーズ・チャンピオン争いをリードするオスカー・ピアストリは4位、同ランキング2位のランド・ノリスは3位に入り、マクラーレンは27ポイントを獲得。シーズン6戦を残して早くも2年連続のコンストラクターズ・チャンピオンを決めたが、ドライバーふたりの間に不穏な空気が流れ始めている。
次戦はテキサス州のサーキット・オブ・ジ・アメリカズで開催されるアメリカGP(決勝10月19日)。今年4回目のスプリントレースも行なわれ、大量ポイントを獲得できるチャンス。果たして、どのドライバーが勝利を手にするのか!?
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■伏兵メセデスのラッセルがポールを獲得!
シンガポールGPが行なわれたマリーナベイ市街地コースはマクラーレンが得意とするハイダウンフォース・サーキットなので、イタリアとアゼルバイジャンで2連勝中のマックス・フェルスタッペン選手にとっては難しい戦いになるだろうなと思っていましたが、予選は予想外の結果となりました。
メルセデスのジョージ・ラッセル選手がコースレコードを更新する驚異的なタイムを叩き出し、ポールポジションを獲得。チャンピオン争いをリードするオスカー・ピアストリ選手は3番手、ランド・ノリス選手も5番手に終わり、マクラーレンが3戦連続でポールポジションを逃がしたのは驚きでした。
フェルスタッペン選手は2番手に滑り込みましたが、本当に限界ギリギリで走っているように見えました。レッドブルのマシンは、人間の感覚の限界を少し超えたところで走らないと、機能させられないのかもしれない。でも、それはレッドブルのマシンを熟知しているフェルスタッペン選手しかできない領域のように感じました。
角田裕毅(つのだ・ゆうき)選手は、予選ではマシンに苦しみ、15番手に終わります。今回のレースでフェルスタッペン選手とのマシンの違いはフロントウイングだけのようでしたが、セッション後には「グリップが足りない」という言葉を何度も繰り返していました。
全体的にマシンのグリップがないのはなぜなのか......? シンガポールGPの舞台となったマリーナベイ市街地コースは直線と低速コーナーをつないだ"ストップ&ゴー"のサーキットです。高速コーナーがほとんどなく、縦方向の荷重ばかりかかる低速コーナーが多いのでフロントタイヤを温めにくいコース特性でした。
さらにエスケープゾーンが狭いので、少しのミスがクラッシュにつながり大きな代償を支払うことになるので無理もできない。角田選手にとっては厳しい状況だったと思います。それにしても、レッドブルはいつになったらフェルスタッペン選手と同じ同スペックのマシンを角田選手に用意してくれるのか。
レッドブルはコンストラクターズ選手権でメルセデス、フェラーリとランキング2位の座を争っています。角田選手のポイントはすごく重要になっていますので、いい加減になんとかしてほしいと思います。
■マクラーレンが2年連続のコンストラクターズ王者へ
決勝もポールポジションからスタートしたメルセデスのラッセル選手が62周のレースを完璧にコントロールし、トップでチェッカーフラッグを受けます。
レース後にラッセル選手は「メルセデスのマシンが得意とするサーキットではなかった」と話していましたが、危なげない走りで第10戦のカナダGP以来の今季2勝目を挙げました。
マクラーレンはノリス選手が3位、ピアストリ選手は4位にそれぞれ入り、残り6戦を残して2年連続のコンストラクターズ・タイトルを決めました。
ノリス選手はスタート直後にフェルスタッペン選手と軽く接触し、その影響でチームメイトのピアストリ選手のマシンにもぶつかってしまい、フロントウイングを破損。空力的には影響があったと思いますが、ほとんどペースが落ちませんでした。
むしろレース終盤、シフト操作に問題を抱えてペースが落ちていた2位のフェルスタッペン選手に迫りました。
その一方で今回のノリス選手のようにフロントウイングが壊れても速いというシーンも時々見かけるのですが、不思議でならないですね。
■残り6戦。ドライバー王座争いは激戦必至!
ポイントリーダーのピアストリ選手はスタートでノリス選手の先行を許し、その後のペースもなかった。優勝争いからは蚊帳の外で、4位でフィニッシュします。
ドライバーズランキング2位のノリス選手とのギャップは3ポイント縮まり22ポイントとなりましたが、チャンピオンシップのことを考えれば、それほど悪くない結果だったと思います。

シンガポールGPの結果で、ノリス(写真)とポイント1位のピアストリの差は3ポイント縮まり22ポイントになった。今シーズンは6戦残っているが、マクラーレンの獲得ポイントは650。ランキング2位のメルセデスには325ポイントもの大差をつけ、マクラーレンはシーズンを2年連続でコンストラクターズ・タイトルを手にした
でもピアストリ選手はスタート直後のノリス選手の動きに対して、無線でチームに不満を延々と述べていました。チームが順位を戻さないという判断を伝えると、「それはフェアじゃない」と返答し、ふてくされていた様子もうかがえました。
これまで冷静なレース運びを見せてきたピアストリ選手ですが、タイトル争いが佳境を迎えるにつれて、人間的な部分がだんだん出てきたのかもしれません。いずれにせよ、残り6戦はドライバーズポイントの争いが激しくなりそうです。
角田選手は12位でフィニッシュし、2戦連続の入賞はできませんでした。でもレース中のペースは悪くなく、終盤にはレーシングブルズのイザック・ハジャ選手とポイント獲得を争う場面もありました。
ただ、ハジャ選手を射程圏内におさめたタイミングでトップグループが追いついてきて、角田選手はペースダウンを余儀なくされてしまった。「後ろから来たフェルスタッペン選手の邪魔をしたくなかったので進路を譲った」と角田選手はコメントしていましたが、あまりにも優しい譲り方だったな、と感じました。
それにチームメイトのフェルスタッペン選手だけでなく、ノリス選手やピアストリ選手にポジションを譲るために大きくスローダウンしたことでハジャ選手とのギャップが広がっただけでなく、後ろから追い上げてきたウイリアムズのカルロス・サインツ選手にも迫られてしまった。
結局、サインツ選手が角田選手とハジャ選手を追い抜き、10位でフィニッシュすることになりました。角田選手にとってはシンガポールでポイントを獲得することは大きなミッションだったと思いますので、非常に悔しい結果になりました。
■角田選手の運命を分けたスタート
角田選手のレースをあらためて振り返ると、スタート時にグリップの高いソフトタイヤを履いてスタートしたにもかかわらず、ポジションをいくつか落としたことが運命の分かれ目になりました。ハードタイヤに交換した後はいいペースでラップを重ねていただけに、スタートのミスは本当に痛かった。
ただ、前回6位に入賞したアゼルバイジャンGPと同様にレースペースは確実によくなっています。今シーズンは残り6戦、結果を残してくれることを願っています。
これまで角田選手は節目節目でいいパフィーマンスを見せてくれ、この人はやってくれると期待を抱かせてくれるドライバーです。
これからアメリカのオースティン(決勝10月19日)、メキシコ(決勝10月26日)、ブラジル(11月9日)と南北アメリカ大陸でレースが開催されますが、特に標高約2300mという高地で開催されるメキシコGPは期待しています。
空気が薄いのでダウンフォースは少なくなりますが、レッドブルのマシンとは相性がいい。それにホンダもメキシコGPは1965年(昭和40年)に初優勝を飾るなど、伝統的に得意としているので楽しみです。
最後にシンガポールGPで忘れてはならないのはベテランのフェルナンド・アロンソ選手の活躍です。タイヤ交換の際にピット作業のミスがあり、大きく順位を落としましたが、そこから抜きづらいシンガポールの市街地コースで素晴らしいオーバーテイクを何度も決めて7位入賞。
レース中にチームとの間で交わされた無線を聞いても、44歳のアロンソ選手の闘争心はまったく衰えていません。同世代のドライバーが元気に戦っている姿を見ることができ、うれしかったです!
☆取材こぼれ話☆
シンガポールGP終了時点でマクラーレン、メルセデスに次ぐコンストラクターズランキング3位につけているフェラーリ。シャルル・ルクレールとルイス・ハミルトンという強力なドライバーがそろっているが、今シーズンはいまだに勝利できていない。
「最近のフェラーリはちょっと元気がないですね。9月にモンツァで開催された地元イタリアGPが終わり、やる気を失ってしまったのかなぁ......。まあ、フェラーリはそういうところもあるチームではありますけどね(笑)。
シンガポールGPもフリー走行から厳しかった。そんな中でもハミルトン選手は決勝ですごくいい走りをし、5位を走行していたメルセデスのキミ・アントネッリ選手に迫っていました。
スタイリング/渡邊奈央(Creative GUILD) 衣装協力/AKM ヘア&メイク/大平真輝
構成/川原田 剛 撮影/樋口 涼(堂本氏) 写真/桜井淳雄