【#佐藤優のシン世界地図探索134】多党化した日本、政治風景...の画像はこちら >>

次の与党連合となる予定の、公明党と立憲民主党の首脳会議(写真:時事)

ウクライナ戦争勃発から世界の構図は激変し、真新しい『シン世界地図』が日々、作り変えられている。この連載ではその世界地図を、作家で元外務省主任分析官、同志社大学客員教授の佐藤優氏が、オシント(OSINT Open Source INTelligence:オープンソースインテリジェンス、公開されている情報)を駆使して探索していく!

*  *  *

――多党化する日本の政治。

そんななか実は、野党になった公明党が一番、キャスティングボートを握っているのではないかと思うのですが......。

佐藤 そうだと思いますよ。公明党は与党に26年いました。いまの支持率は8%ですが、これが12~13%になれば完全にキャスティングボートを握ります。公明党は国の仕組みをよくわかっていますからね。

――他の野党が「国の仕組みをわかっていないから教えて下さい」と聞いてくるのですか?

佐藤 そうです。公明は、官僚の誰が何をやっていたのかを把握しています。つまり、国の「取り扱いマニュアル」をよく理解しているんです。

――すると、キャスティングボートの立ち位置から主体に変われる可能性がある?

佐藤 政権交代が起きるときは、公明党が中心的役割を担います。コンビニで言えば、どこの棚に何があり、何が必要か全て知っているようなものです。そうなれば、その店で20年バイトしていたおばちゃんでも、コンビニの運営もできるじゃないですか。

――簡単です。

佐藤 だから、公明党の自民党からの離脱は、「魂の独立」のような感覚だと思います。これまでは自民党に遠慮しないといけないので、心が傷ついていました。

しかし、これからは違います。ようやく思ったことが言えるようになったんです。だから、「魂の独立」なんですよね。

――自民党が今後の選挙で協力を求めても、「お前らいい加減にしろよ」という世界になる。

佐藤 はい。それから「これまでの協力に対する感謝の念がないんじゃないか? これは恩知らずだな」という話になりますよね。

――そうなることを、自民党の方々は理解しているのでしょうか?

佐藤 わかってないと思いますよ。わかっていれば離脱させるような態度は取りません。音痴のカラオケと同じですよ。音が外れてひどいことを歌っている本人だけわかってない状態です。

――それは迷惑です。しかし、公明党は「魂の独立」をしましたが、自民党は魂だけで動いているのですよね。公明党離脱のきっかけとなった裏金問題はどうなったのですか?

佐藤 自民党的には話がついているということなのでしょう。禊(みそぎ)は済んでいて、今後そんな不祥事が起きないように気を付けます、と。

――なんでそうなるんですか?

佐藤 自然体でやっているから、本当に悪い事をしていると思っていません。だから、繰り返すんですよ。意図的にやっていることは矯正できます。しかし、無意識にやっていることは矯正不可能です。

――"ナチュラルボーン・キラー"ですか?

佐藤 いや、"ナチュラル・ボーンヘッド"、天然の愚か者ですね。だから皆、シビれちゃっているのが本当のところなんですね。

――ガチな機能不全。

佐藤 本当に自民党は大丈夫か?というと、おそらく大丈夫ではない状況です。

――多くの頭のいい学生も見てきて、日本の将来は大丈夫かと思っていましたが、社会がダメと。

佐藤 そうです。

――その日本の未来に光があるとすれば、技術者ですよね。佐藤さんは米国にはモノを作る技術者がいなくなったが、日本にはその技術者がまだたくさんいるとおっしゃっています。

佐藤 そう、そこを育てなければなりません。やはり、高度な専門家が必要です。大学も学生たちの質は悪くないんですよ。問題は教師と教育です。

――報道によると、東大に新しい学部を作って、英語で教えるそうですね。

佐藤 英語で教えることには、全く意味がありませんよ。

――えっ、そうなんですか?

佐藤 そもそも、東大が近年、大きな実績を出している結果を見たことがありません。理系で発明しているのはともかく、東大はトレンドに弱いんですよ。

あの大学出身者に向いているのは大学の先生、裁判官です。そして大学、裁判所の両組織に共通するのは、人事が不透明で、親分子分の関係で物事が進むことです。教員と裁判官を作る以外に東大の優位性はありますか?

――自分は東海大卒なので、東大は頭がすごい良いことはわかりますが......。

佐藤 さらに、その裁判官に関しては死刑にすることが怖いから、最近は裁判員制度に押し付けていますからね。

東大卒は、内部の権力闘争と自己保身だけは得意です。だから、東大卒で上場会社の社長は少ないんですよ。「もらい事故」の責任を取りたくありませんからね。

しかし、社長の本来の仕事は、「もらい事故」の責任を取ることです。だから、自分の枠内だけで責任を取る本部長ぐらいが、東大エリートの限界だということです。

――すると、日本は次世代のテクニカルエリート、特定分野の専門家を東大以外で作らないといけない。

佐藤 そうです。話は戻りますが、大学とは関係なく自国語できちんと考えることができる学生を作っていくことが必要なのであって、英語で教育するというのは、間違えているというわけです。

日本人がノーベル賞を取れているのは、日本語で高等教育をしているからです。母国語で高等教育ができることは、希少なことなんです。アジア諸国はもちろん、ちょっと複雑になると中国でもできません。韓国もアメリカ化しているからダメです。しかし、日本語は高等教育が母国語できる環境にあるんです。

――日本語の素晴らしさですね。

佐藤 前にも触れましたが、ロシアはマッハ11のミサイルを作る開発者の年収が800~1000万円です。平均年収が220万円だから、ロシアのエリートとの格差は5倍です。

しかし、アメリカではその差が5000倍。ロシアの年収1000万円の優秀なエンジニアが、アメリカに渡れば年収で10~20億円はもらえるんです。

そして、日本はどちらかというとロシアに近い環境なんですよ。

――筑波大学園都市にある色々な研究所の研究員は、慎ましく国産車に乗っています。

佐藤 そうですよね。

――すると、政界から見ると日本の未来は危ない。しかし、大学教育でテクニカルエリートを大量育成すれば希望は残る。その教育は日本語を使用する、と。少し日本に未来が見えてきました。

佐藤 そういうことになります。日本の若者たちは優れています。

次回へ続く。次回の配信は11月14日(金)を予定しています。

取材・文/小峯隆生

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