トランプ来日で見た"過剰接待の復活"と"コンプラ格差社会の到...の画像はこちら >>

一般論として、企業のガバナンス強化により、特定のキーマンを接待することで取引が有利になるような状況は減りつつある。しかし......(写真はイメージ)

あらゆるメディアから日々、洪水のように流れてくる経済関連ニュース。
その背景にはどんな狙い、どんな事情があるのか? 『週刊プレイボーイ』で連載中の「経済ニュースのバックヤード」では、調達・購買コンサルタントの坂口孝則氏が解説。得意のデータ収集・分析をもとに経済の今を解き明かす。今回は「過剰接待」について。

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「ニダガ? ニダガ?」。

25年前のアジア某国。私は取引先との会食中だった。酔っていたのもあり、おたがい第二言語の英語だったのもあり、それが「Need a girl?」と理解したのは会食後だった。

つまりは女性の斡旋(あっせん)。病気を恐れない男性たちは、吸い込まれていくのだろう。接待する側は、せっかく自国まで来てくれたお礼の意味もあるし、数万円でその数十倍の取引が実現すれば投資対効果は高い。つまりはビジネスだ。

米国のドナルド・トランプ大統領と高官の来日時、日本側の手厚い接待が目立った。

大統領は天皇陛下との面会、赤坂迎賓館での栄誉礼、日本経済界トップとの夕食会など。松山英樹さんのサイン入りゴルフバッグを受け取り、ノーベル平和賞への推薦も取り付けた。

ハワード・ラトニック商務長官は、漫画家で参議院議員の赤松健さんが描いた似顔絵を受け取った。過剰な歓迎を批判する向きもあるものの、日米関係のためにはなんでもやるのが高市早苗政権のリアリズムなのだろう。

ところで、私は企業の仕入れ部門のコンサルティングに従業している。つまりはお金を払う方=買う方だから、接待を受けうる側だ。

さらに、全国に数千人におよぶ企業の調達担当者のネットワークを有し、継続してどのような接待を受けてきたかをヒアリングしてきた。

20年前ならクラブとキャバクラをハシゴしたとか、ときには特殊風俗が含まれたなどの話があふれていた。出張に呼ばれたら昼から飲んで、そのまま温泉に行って、女性コンパニオンと遊んだといったエピソードも聞いた。

しかし、この10年はコンプライアンスを理由に予算が減り、せいぜいスナックでの二次会で常識的に解散、という印象だ。

それでもまだ残っているのはアジアで、いまだに「30人のなかから同伴する女性を選び、翌日までデートできる(だから帰国がなぜか週末をはさんだ月曜日に設定されている)」とか、「取引先の秘書だと思ったら、飲み会後に部屋までついてきた」といった話を聞く。

海外の取引先に弱みを握られることになるが、もはや抗(あらが)うことができない、ということか。

きわめて人間的だ。

ただ、そのアジアなど諸外国でも今後はおなじだろう。接待には「する側」のコンプライアンスだけではなく、「受ける側」=顧客企業のガバナンスが大きく影響する。

近年、ガバナンスの強化により、多くの企業では複数プロセスでの承認が必要となった。つまり接待をしようにも、顧客企業のキーマンを懐柔して人間関係を構築すればそれで終わりではなく、多段階で取引に納得してもらわねばならなくなったのだ。

さらに、こうしたガバナンス強化の流れがアジアにも伝播(でんぱ)している以上、中長期的には過剰接待は減少していくとみて確実......なはずだった。

ところが、逆にいえば独裁的なワンマン経営が復活すれば、過剰接待も復活するということになる。トランプ大統領に対する各国の歓待を見ても、これは正しい。システムではなく個人を説き伏せればいい。

これは接待2.0か、単なる原点回帰か。平民はガバナンス強化で接待が排除されるいっぽう、トップに対する口利きは存在感を増し、過剰接待が重要KPI化する。コンプラ格差社会が到来しようとしている。

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