ドヤ顔のトランプ大統領と微妙に恐縮気味の習近平国家主席。米中の首脳会談の本当の勝利国はどっちだ!?
10月30日に韓国で開催された米中首脳会談は、両国とも円満合意の雰囲気。
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【米中首脳会談で中国が有利だった理由とは?】中国大勝利......。
トランプ米大統領と習近平中国国家主席は10月30日、韓国で会談した。交わされた合意は中国勝利と言っていい。
まず、トランプのおはこである関税。今年1月の米新政権発足以来、中国に対して30%の関税が追加されていたが、これが20%に引き下げられる。
ちなみに日本やEU、韓国は15%。台湾の20%。ミャンマーやラオスの40%、スイスの39%、インドの25%など、中国よりも高い国や地域も多い。「トランプ関税は中国封じ込めが主目的」といわれていたのに、気づけばほかの国とさほど変わらない待遇になっている。
また、中国で建造された船舶にかける入港料や、半導体製造装置の輸出制限の拡大など、トランプ政権があれこれ仕掛けていた対中国規制はほぼ凍結され、1年間は新たな規制をかけないことで合意された。
なぜ、アメリカは折れたのか。直接の決め手となったのは中国が10月に発表したレアアース輸出規制だ。これが発動されれば世界経済がガタガタ、株価もボロボロになりかねないとの懸念が広がった。
中国外交の切り札とも言うべきレアアースだが、問題は中国が資源を掌握しているというだけではない。中国のレアアース産出量は世界の70%だが、精錬量は90%を超える。中国以外で採掘されたレアアースも、精錬は中国で行なわれているのだ。
中国に依存しないレアアースサプライチェーンの開発が始まっているが、精錬技術や装置などを含めて、各国が追いつくには10年かかるともいわれている。
これまで、中国の〝武器〟といえば、激安で無限の労働力、公害無視の環境基準、中国共産党の独裁パワーなどがイメージされることが多かったが、今やその技術力こそが最強のカードだ。
【政府が後押しして特許出願件数世界一!】特許出願件数からもその技術力は見て取れる。WIPO(世界知的所有権機関)によると、2023年の中国の特許出願件数は167万件超で断トツ。なんと2位の米国の2.5倍、3位の日本の5倍以上という圧倒的な数を誇る。
中国は14億人の人口大国だから、自然と特許が多くなる......というだけではない。
もっとも、数さえあればいいわけではない。使い勝手ゼロのゴミ特許で数を稼いでいる可能性もある。
中国の特許出願件数は21世紀に入って急増しているが、確かに当初はゴミ特許だらけだったようだ。中国のニュースポータルサイト『網易』に掲載された記事「大量生産された中国の特許、ほとんどはゴミ」(18年)は、中国は珍特許の宝庫だと嘆いている。
例えば、「におい控えめの臭豆腐味のケバブ」「中国風目玉焼きを入れたハンバーガー」といった謎料理にまで特許がある。ガジェットでも、ロボット掃除機と音楽プレイヤーを合体させ、音楽を聴きながら楽しく掃除できるハッピー掃除機などなど。トンデモ特許が爆増した時代もあったのだ。
こうした珍特許には製品の新たな使い方や組み合わせを提案する、いわゆる「実用新案」も含まれている。日本でも意味不明な実用新案はごろごろあるから、その意味では中国と変わらないが、中国語では実用新案を「実用新型専利」と書く。専利とは特許の意味。
つまり、ゆるゆるの実用新案もちゃんとした特許も、同じ「専利」として一緒くたに数えられているという点はある。
だが、それだけではない。技術力を高めたい中央政府が「もっと特許を取れ」と号令すると、地方政府は「補助金出すから特許取って」と地元の企業や研究機関に指示。その結果、国策が生み出したゴミ特許も多い。
維持費を払わなければ特許は失効するが、ゴミ特許の知財をずっと守る必要などないので、ほぼ取り捨て状態ですぐに消滅させてしまう。当時、中国特許の平均存続期間はわずか2~7年で、多くは登録されても実用化されることはなかった。つまりは死人と一緒だとして、中国では「ゾンビ特許」と揶揄されていた。
だが、この状況は一変した。中国の存続特許総件数は23年に500万件を突破し、10年時点の10倍となった。ゾンビ特許が消えたわけではないが、毎年の維持費を支払ってでもキープし、活用したいまっとうな特許の数が増えたことの証しだ。
【なぜ海外で中国企業の特許が増えるのか?】特許の「質」が向上した証拠はほかにも存在する。一度に複数の国に出願する「PCT国際出願」という制度がある。各国で特許申請を行なうだけにそれなりの費用がかかり、ゴミ特許は出願しづらいため、ここで出されるのは一定以上のレベルの特許と言っていい。
特許の出願分野を見ると、中国お得意のジャンルがやはり多い。米中の貿易摩擦で規制ターゲットにされることの多いAI、それに関連する半導体やクラウド技術。コンピューターやデジタル通信などのソフトウエア系統、工場での製造をより効率化させるための技術、そしてEVや太陽光発電などの再エネルギー関連など、先進技術に関する特許が集中している。
製造作業をすべてロボットが行ない、工場内の照明は完全消灯状態となるダークファクトリー。写真はシャオミのスマホ工場で、このような製造技術の特許も中国企業は積極的に取得している(写真/Xiaomi YouTube)
特に驚異的なのが再エネだ。太陽光、風力発電、地熱発電、水素エネルギーの4分野で中国の特許件数は不動の世界一。しかも、世界全体の特許の40~50%を保有するほどの圧倒的な位置につけている。
中国が意識しているのは「湾道超車」だ。もともとカーレースの用語で、コースのストレート部分で前の車を追い抜くのは難しいので、カーブで追い抜くという意味。
これを転じて、先進国に蓄積がある技術で中国が追いつき、追い抜くのは難しいが、新興技術ならば〝よーいドン!〟の競争になるのでひっくり返せる、ということだ。
例えば自動車分野なら、ガソリン車では勝てないがEVならば勝てると踏んで、アメリカをはじめとする競合国をリードするべく一歩先の技術に集中投資しているのだ。
日本でも中国企業による特許取得が増加している。日経クロステックの報道によると、直近5年で特許登録件数は87%も増加した。中国企業による日本での特許取得はどのような意味を持つのか? このままでは中国が重要な特許を押さえてしまい、日本企業のビジネスが回らなくなるなんてこともありうるのだろうか?
プロシード国際特許商標事務所代表の鈴木康介弁理士は、「中国企業が正規の手続きを踏んで日本企業に進出する段階に入ったため」と指摘する。
「ファーウェイやBYDなど、技術を持った大企業が日本で本腰を入れてビジネスを行なおうとしている。そのためには特許が必要だという至極当然の流れです」
得意とする先進技術でライバルメーカーより先に特許を取得し、他企業がそれを利用すれば、収益を得ることができるというわけだ。
中国の都市部では一般的になってきた無人配送車。コンピューター、通信、バッテリー、EV技術などなど先進特許の塊。今後、世界に普及する上ではこれらの特許が重要になる
「現在、配送ロボットなど中国企業の製品やサービスを日本企業が導入する事例も増えていますが、提携する日本企業の側が特許を取得しておくよう要請するケースもあります。つまり、アメリカや日本と同等の健全な流れというべきなのです。
もし不安を感じるとすれば、それは特許の前の段階、つまり一部の技術において中国が日本を上回りつつある点でしょう」
00年代初頭まではさんざん他国の技術をパクり尽くしてきた中国だったが、現在では海外で自国の技術を守りつつ、さらにそれを独占するというターンになってきているのだ。
【中国の研究・技術力はなぜ向上したのか?】マシンガンのように特許を取りまくる中国。その裏づけとなっているのが研究力の向上だ。
習近平主席はイノベーション大好きで、「新質生産力」(新しい、高品質な生産力)をキャッチコピーとして、技術開発に全振りするよう大号令をかけている。その結果、異次元のペースで研究者数が増えまくっているのだ。
量だけではなく、質の向上も著しい。自然科学分野の研究論文の本数で研究機関をランキングするネイチャー・インデックスによると、1位は中国科学院、2位が米ハーバード大学、そして3位以降は中国科学技術大学、浙江大学、北京大学......と中国の大学がずらり。10位にようやく独マックス・プランク協会がランクインする。
つまり、世界トップ10の研究機関のうち、8機関は中国なのだ。ちなみにトップ50で見ても中国が27機関を占めているのに対し、日本は1。中国では【論文→技術研究→特許取得→実用化】というルートが、他国とは比較にならない超大規模で行なわれているのだ。
過去に中国で特許出願された強姦防止護身用アーマーショーツ。本体はステンレス製、スパイクで対暴漢攻撃機能も搭載するトンデモ仕様!
中国の大学で働く、ある日本人研究者は、「昔は海外の名門大学で学位を取れば、大手を振って中国で威張り散らせたんですが......。今では帰国組はごろごろいるし、国内組のレベルも高い。中国の一流大学に就職するハードルは上がりまくっています」と明かす。
最近、中国で議論になっているのが「海外組は必要か?」というテーマだ。
これまでは海外に流出した人材をどうやって取り戻すかが中国にとって大きなテーマだった。一時期、話題となった「千人計画」もそれが目的だ。
日本では「海外の研究者を高額で引き抜く人材獲得政策」と報じられていたが、中国が目指していたのは「海外で就職して帰ってこないエリート華人・華僑人材を取り戻す」こと。
そのため「今帰国すると、格安でマンションを買える特典プレゼント」といったニンジンをぶら下げていたのだが、最近は「もう中国国内の人材だけでよくね?」という議論が浮上している。
今年1月、登場して話題になった「ディープシークR1」は、ほぼ中国国内組だけで作り上げた生成AIだ。これがChatGPTをしのぐ世界トップクラスの性能を記録したことで、より〝海外組不要論〟に拍車がかかっている。
【中国人の敵は中国人。商標出願も増加中!】特許や研究論文だけでなく、最も中国が緩かった商標に関しても近年は変化している。
「特許だけでなく、知財保護に関する意識も変化しています。中国では近年、しっかり知財保護をすることでビジネスを効率良く進められることを知り、真剣に取り組んでいます」と前出の鈴木弁理士は言う。同氏のクライアントには中国人も多く、日本に初出店するレストランチェーンであっても、きっちりと商標を出願しているのだという。
「日本では知財に関する訴訟は年間数百件程度と少なく、多少の不備は問題ないと考えている企業も多い。一方、中国では年間数万件規模で知財に関する訴訟があり、しっかりと守らなければ侵害されるリスクが高い。そういった中国の厳しい環境もあり、海外においても中国企業は知財意識を高めてきました」
日本の地名や名産品が中国で勝手に商標登録されているとのニュースは毎年のように流れている。ジェトロが24年に実施した調査によると、地名や南部鉄器、草津温泉、越前焼、美濃和紙、近江牛などなど、多くの商標が中国で登録されている。
だが、被害に遭っているのは日本の商標だけではない。実は、中国の有名ブランドや著名なレストランチェーンをパクった店舗が、日本を含めた海外に上陸することも増えている。筆者自身、「池袋に中国の有名チェーンが出店した!」と喜び勇んで食べに行くと、似ても似つかぬまずい料理にがっかりしたことも......。
在日中国人100万人時代の今、まだ日本に進出しないから......と無策でいると、即、〝海賊店〟が登場してしまう。そのため中国企業には、たとえ日本進出の予定がなくとも、ほかの中国企業による海賊版防止策として商標を登録する必要が生まれているわけだ。
特許、研究論文、知財管理をスマートかつ大規模に行ない、〝完全合法〟でビジネスを展開する現在の中国。アメリカをはじめとする各国には、対抗策がまだ何もないのが現状だ。
取材・文/高口康太 写真/The New York Times/Redux/アフロ VCG/アフロ
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