森保一監督率いるサッカー日本代表は、今年10月に〝王国〟ブラジル代表を倒し、意気が上がっている。

「史上最強軍団が、来年の北中米W杯で優勝する!」

などとブチ上げて高揚感をあおる人もいる。

日本サッカー界にとって歴史的勝利だったことは間違いない。

しかし、ブラジルはかつての威光を失っている。今回のW杯南米予選も四苦八苦で、前大会の王者アルゼンチンには手も足も出ずに連敗し、途中で監督も代わった。9月には、予選敗退が決まっていたボリビアにも屈した。

そして、日本はW杯でベスト8にもたどり着いたことがない。そのチームが「優勝」を掲げるのは無理がある。プロの世界は、「出るからには優勝!」と安易に夢を託すものとは違う。

キリンチャレンジカップの11月シリーズでガーナ、ボリビアと戦う森保ジャパンのメンツが、そもそも「本当に史上最強か?」を検証した。

欧州各国クラブに在籍している選手たちの数を見た場合は、「史上最強」と言っても過言ではない。80人前後の日本人選手が欧州でプレーしている。

今季はオランダで上田綺世(フェイエノールト)が得点ランキングトップを突っ走り、リーグの主役に名乗りを上げた(11月10日時点。以下同)。

堅固な守りを誇るチームメイトの渡辺 剛も着実に成長している。

また、アメリカのメジャーリーグサッカー(MLS)でも、昨季は吉田麻也(ロサンゼルス・ギャラクシー)が主将として優勝の立役者になり、今季はGK高丘陽平(バンクーバー・ホワイトキャップス)がMLSカップ(優勝プレーオフ)を勝ち上がっている。日本人選手は海外で躍動を続け、新時代が到来した。

欧州名門クラブにも、日本人選手の名前がずらりと並ぶ。イングランドのプレミアリーグには三笘 薫(ブライトン)や遠藤 航(リバプール)、高井幸大(トッテナム)、スペインのラ・リーガには久保建英(レアル・ソシエダ)、ドイツのブンデスリーガには伊藤洋輝(バイエルン・ミュンヘン)、ポルトガルのプリメイラ・リーガには守田英正(スポルティング・リスボン)と、彼らは「史上最強」の象徴だ。

しかしながら現状、彼らはいずれも所属クラブでケガなどに悩まされ、思うように試合に出られていない。

「史上最強」なはずの森保ジャパン、実はケガ人続出などW杯へ不...の画像はこちら >>

三笘は9月末のリーグ戦で負傷交代。当初は「軽傷」と伝えられていたが、それ以降、欠場が続いている

三笘は9月末の試合で負傷交代後、戦列を離れている。遠藤はイングランド王者の熾烈なポジション争いで劣勢に立たされ、プレミアではわずか36分間の出場にとどまっている。高井は移籍入団後、ケガでの出遅れもあって、まだピッチに立っていない。

「史上最強」なはずの森保ジャパン、実はケガ人続出などW杯へ不安山積
9月の代表選で左足首を捻挫し、所属チームで出場と欠場を繰り返していた久保。ブラジル戦で悪化し、数試合を欠場した

9月の代表選で左足首を捻挫し、所属チームで出場と欠場を繰り返していた久保。ブラジル戦で悪化し、数試合を欠場した

久保は主力のひとりだが、最近は代表戦でのケガの影響で振るわず、ブラジル戦で状態を悪化させたため先発から外れた。

伊藤は中足骨の骨折からようやく練習に復帰した状態。

守田はコンディションが上がらず、限定的な出場で、代表からも3月以来遠ざかっている。直近では、正GKの鈴木彩艶(パルマ)が左手を複雑骨折し、長期離脱の可能性も出てきている。

ほかにも、ケガからの完全復活のために無所属(アーセナルを退団)になった冨安健洋のような選手もいる。ポテンシャルは日本サッカー史上最高DFだが、度重なる故障からカムバックできるのか。

また、貴重な左利きのDFである町田浩樹(ホッフェンハイム)も、今年8月に膝の大ケガをしW杯出場の見通しは立っていない。伊東純也(ヘンク)はブラジル戦で負傷後は復帰できず、11月シリーズも招集が見送られている。

ケガ以外にも、移籍の難しさで不安視される選手も少なくない。

例えば中村敬斗は、所属するスタッド・ランスがフランス2部に降格し、移籍の道を探るも残留せざるをえなかった。昨季2桁得点を挙げてステップアップするはずが、思わぬブレーキだ。セルティックでスコットランドリーグMVPに輝いた前田大然も、移籍がこじれて残留し、今季は停滞感が拭えない。

古橋亨梧(バーミンガム)のセルティックからスタッド・レンヌへの移籍は〝失敗〟で、今季はさらなる新天地に移ったが、今も無得点。

セルティックで〝ポスト古橋〟になるはずだった山田 新は、メンバーに入るのも苦戦中だ。

もちろん、海外挑戦する選手の総量が増えていることで、こうした事例が増えるのは必然だろう。しかし昨季と比較しても、活躍の度合いはダウンしている。「史上最強」のおごりは禁物だ。

今の代表はポジション的なばらつきもある。

サイドアタッカーは人材が豊富だし、中盤もブンデスリーガで佐野海舟(マインツ)が台頭、プレミアでは田中 碧(リーズ)が出場機会を増やしている。藤田譲瑠チマ(ザンクトパウリ)、旗手怜央(セルティック)もバックアップとして考えられる。昨今はトップも、町野修斗(ボルシアMG)、小川航基(NEC)など人材が増えてきた。

しかし、サイドバックは苦戦している。菅原由勢(ブレーメン)はセンスも経験も十分だが、森保監督からはあまり重用されていない。

特に左サイドバックは人材難が顕著だが、だからといって力が衰えた長友佑都(FC東京)を選出するのはトリッキーすぎ、このポジションは〝アキレス腱〟と言える。「悪手」と言われることもある森保監督のウイングバックへの執着は、このあたりにも理由があるのかもしれない。

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日本代表の中心的な役割を担う鎌田大地(中央)は、プレミアリーグのクリスタル・パレスでも出場を続けている

日本代表の中心的な役割を担う鎌田大地(中央)は、プレミアリーグのクリスタル・パレスでも出場を続けている

森保ジャパンは、戦術的には鎌田大地(クリスタル・パレス)が中心のチームだろう。鎌田がかじを取って、戦いをアジャストさせられるか。その点、彼が不調でないのは好材料だが......。

史上最強の陣容であることは間違いないが、今季は暗雲が垂れ込めている。それに、欧州チャンピオンズリーグで優勝を争うようなクラブで、主力になっている日本人選手はいない。優勝候補と目されるスペイン、フランス、アルゼンチン、イングランド、ポルトガルには、そうした選手たちがウジャウジャといるのだ。

ブラジル戦の金星でもわかるとおり、日本人は戦勝気分に浸って実力を過信する傾向がある。ブラジルに勝ったら「優勝」と騒ぎ、アメリカに完敗したことは忘れ、ブラジルがボリビアに負けていることも思慮に入れない。W杯は綱渡りの戦いとなるだろう。

取材・文/小宮良之 写真/アフロ

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