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「田んぼに挟まれたちっちゃい農道とかをあえて走る(笑)」(ピエール瀧)

排ガス規制の強化で50ccバイクが10月をもって生産終了。己の愛する原チャリにまたがり、全国の津々浦々をゆったりと駆け抜けたふたりの50cc LOVERSに、惜別の念を心行くまで語ってもらった!

【50㏄バイク生産終了! かつて〝原チャリ〟として】

人々に親しまれた50㏄バイクが、その姿を消そうとしている。

各メーカーとも10月末で生産は終了。

現在、市場に出回っているものは引き続き売買や乗車はできるものの、50㏄エンジンの小さくとも力強い鼓動はもはや風前のともしびだ。

2段階右折や時速30キロ制限など不便な規制も多い50㏄バイクだが、原チャリには原チャリにしかない良さもあるのではないか......。

今回、そんな50㏄バイクの生産終了に惜別の念を抱く原チャリLOVERの著名人にその愛を語ってもらった。

まず話を聞いたのは電気グルーヴのピエール瀧氏だ。

――最近50㏄バイクに乗って、あちこち回っているのをSNSの投稿で拝見しました。

ピエール瀧(以下、) 50㏄のバイクに乗り始めたのは、ここ5、6年なんだけど、最初はほんとに思いつき。

「昔の(ホンダの)リードとか、誰かのもう乗ってない原付とかあったら、面白いから俺が引き取って直して乗るわ」って、地元(静岡)に帰ったときに飲み屋で同級生に言ったら、「うちに1台あるからあげるよ」って話になったんですよ。

後日、メットとナンバーを持って新幹線で静岡に引き取りに行ったら、それがリトルカブだった。

――静岡から東京まで乗って帰ったんですか?

 車で陸送してもよかったけど、乗って帰ったほうが面白いんで、1泊2日で静岡から下道を走って帰ったんです。2月だったんで「さみぃー」なんて言いながら走ってたら、もう楽しくなっちゃって(笑)。

下道は知らない道ばかりだから、何見ても面白いし。

2月のキンと冷えた空気もなんか良くて。

時速30キロでちょっと速いチャリぐらいの感覚で景色見ながらパタパタ走るってのが、えらい楽しい。

――その空気の感覚、すごくわかります。ほかにどこか行かれましたか?

 瀬戸内海のしまなみ海道が原付でも渡れるって知って、行ってみました。(東京の)有明から徳島まで行くフェリーにカブ載せて、嫁と子供も連れていって。船で1泊。

ピエール瀧&銀シャリ・鰻。さらば原チャリ! 俺たちの50cc愛メモリーズ
以前の愛車(ホンダ・リトルカブ)と上半身だけのモニュメント

以前の愛車(ホンダ・リトルカブ)と上半身だけのモニュメント

――ワクワクしちゃいますね。

 で、徳島に着いてもう1泊したら「君たちは飛行機で帰りな、お父さんはしまなみ海道をバイクで回ってくる」ということで別行動。

――(笑)。ひとりで四国を徘徊したんですね。ナビを使ったりするんですか?

 ナビは普通にスマホのやつですけど、原付だと通れないバイパスとかも、たまに案内してきますよね。それがトラップなんです。

だから、その代わりにナビの案内する幹線道路の200mぐらい脇にある道を行く。

完全に住宅街の道だったり、田んぼに挟まれたちっちゃい農道だったり、そういう道をあえて行きます。

「野焼きやってんな~とかを感じる」

 あとやっぱり、走ってて「おっ」てなるもの、例えば捨てられた初代iMacが草むらの中からチラッと頭だけ見えるとか。そういうのを見つけたとき、車だと戻れないけど、カブだと軽々戻れるんですよ。

――原チャリの時速30キロ制限のメリットですね。

 それからにおい。あ~、野焼きやってんな?とか。今日も来るときに、キンモクセイが咲き始めているのを感じました。車だとわかんないじゃないですか。

――においはかなり感じますね。あ、この近くに畜舎あるなとか......。

 なんらかの工場があるなとかね(笑)。

あとは温度。なんか道路走ってると、「なぜかここだけ暖かい!」とか。

――わかります。トンネルとかも、暖かいトンネルと寒いトンネルがありますよね。

 そうそう。山道とかも急に冷気でひんやりする所がある。「やべ、妖怪が出る所だ」って......で、そういうのがまた楽しくなっちゃう。

ピエール瀧&銀シャリ・鰻。さらば原チャリ! 俺たちの50cc愛メモリーズ
九州で見つけた「はなたれ小僧さま」の石像。「こういう謎のものに出くわせるのが50㏄旅のいいところ」(瀧氏)

九州で見つけた「はなたれ小僧さま」の石像。「こういう謎のものに出くわせるのが50㏄旅のいいところ」(瀧氏)

――味覚以外の五感すべてをフル活用しますよね。

 走るのが楽しいから、行き先は正直、別にどこでもいいんですよ。きれいな岬があって、カッコいい武家屋敷があるとかじゃなくてもいい。さっき言った農道とか、野良犬いんじゃん!とか、田んぼかと思ってたら一面の麦畑だったって気づいたりとか。

――肩肘張らず、気軽に乗れるのが原チャリの良さですよね。50㏄バイクの生産終了には思うところはありますか?

 まあ、環境のことを考えたら仕方がないのかもとは思います。でも、ガソリン代500円くらいで静岡から東京まで行けるんですよ。そんな燃費のいい乗り物を本当になくしちゃっていいのかなって気持ちもありますね。

まさに50㏄バイクならではの体験そのものへの愛を語ってくれたピエール瀧氏。続いて話を聞いたのは、漫才コンビ・銀シャリの鰻和弘(うなぎ・かずひろ)氏だ。

「13時間かけて広島に行って、1時間見学して帰る」

――今回この記事を書くに当たって、50㏄バイクを愛用する有名人を探したんですが、思った以上に見つからず(笑)。

銀シャリ・鰻(以下、) いないでしょうね(笑)。

――少し前ですが、鰻さんがYouTubeで、50㏄バイクでいろいろと行かれているのを見ました。原付免許はいつ取られたんですか。

 高校生の頃です。それから4台ぐらい原付バイク乗り継いでますが、最初は(ホンダの)ディオだったかな。

それが盗まれて、大阪の大和川って所に投げ捨ててあるのが見つかって......。

ピエール瀧&銀シャリ・鰻。さらば原チャリ! 俺たちの50cc愛メモリーズ
東京から富士山まで行ったときの写真。カーディガン姿の「カジュアルな装いでどこまでも行く」

東京から富士山まで行ったときの写真。カーディガン姿の「カジュアルな装いでどこまでも行く」

――原チャリは盗まれる話多いですよね。

 自転車感覚で盗む人がいますよね。いや、自転車もダメなんですけど。

で、その後、いとこに(ホンダの)カブを譲ってもらって、それにずっと乗ってました。

――どんな所へ行ってたんですか?

 その頃は大阪に住んでたので、取りあえず奈良、和歌山、兵庫、京都、滋賀と全方面に行きましたね。

――じゃあもう1回に100㎞、200㎞は普通に走る感じですね。

 走れますね。それで関西は全部行き尽くして、「あーまだまだ行ける」と思って次は名古屋行って。

――名古屋ですか? 大阪からだと1日で帰ってくる感じにはならないですよね。

 いや、名古屋やったら、片道6時間ぐらいで行けた感じですね。

――鈴鹿山脈を越えて?

 そうです。で、次は広島。

――えぇ、大阪から広島? 岡山越えてですか?

 広島が13~14時間かかりました。

――まあ、かかりますよね、で、広島に泊まって......。

 いや、日帰りです。

――日帰り! 13時間だったらもう、広島着いたらすぐ帰る感じですか?

 着いて、ちょっと1時間ぐらい見学して帰ります。

――かなりハードですね。

 目的地に行くというより、バイクに乗ってる時間が好きなんです。

(目的地は)取りあえずゴールを決めてるっていうだけなんですよ。だから途中のごはんはなんでもいい。腹すいたら、チェーン店ばっか行きますし。あと意外と温泉って日本のあちこちにあるんですよ。もう温泉見つけたらそのままスーッて原付で入る。

ピエール瀧&銀シャリ・鰻。さらば原チャリ! 俺たちの50cc愛メモリーズ
「目線が走ってるときと同じなのがいい」と解説してくれる鰻氏

「目線が走ってるときと同じなのがいい」と解説してくれる鰻氏

――温泉いいですね。

 下道なんで、高速使う人には見つけられないですよ。聞いたこともないような温泉街があったりする。下道の良さってやっぱこれですよね。こんなとこに温泉あんねや!みたいな。知る人ぞ知る、みたいな所にやっぱ出くわすんですよ。原付って。

――原チャリでの長距離移動って今でもできます?

 今、全然できます。ただね、今は原付二種の免許(小型限定普通二輪免許)を取ったので、125㏄の味を覚えてもうたんですよ......。

――確かに楽ですからね。

 楽さを覚えてしまって。でもね、原付並みのことはしてますよ。こないだもどこにも発信してないですけど、岩手の平泉まで日帰り。

――YouTube配信とかもなしで?

 誰にもなんも言わず。こっそりやって。別に全然趣味なんで。

――125㏄バイクでも岩手往復1日はちょっと尋常じゃないですよ。

 「なんで高速乗れるバイクの免許(普通二輪免許)取らんの?」って言われますけど、取ったら乗る、たぶん。でもあえて取らない(笑)。

――その枷をあえてつけてる。

 あと、カブが好きというのもありますね。カブシリーズは僕が今まで乗ってきた中で一番素晴らしい乗り物やと思いますよ、ホントに。

めっちゃ頑丈で、故障しても部品があるんですよ、いろんなバイク屋に。ネジまでありますもん。最強なんですよ。

ピエール瀧&銀シャリ・鰻。さらば原チャリ! 俺たちの50cc愛メモリーズ
東京から新潟の佐渡島に行こうとして、群馬と新潟の県境で「トンネルの向こうが雪だとわかり断念した」当時の写真

東京から新潟の佐渡島に行こうとして、群馬と新潟の県境で「トンネルの向こうが雪だとわかり断念した」当時の写真

「永久に走れるランナーになった気分」

――YouTubeの動画で、疲れたら立って寝てたって話がありました。

 あー、ありましたね。田舎の山道で、眠すぎてもうアカンってなって、橋の欄干に手をかけてそのまま立って寝ちゃって......。

これ、実を言うとその前に地べたで寝たこともあるんですよ。

――地べたに?

 もう眠すぎて地べたで。当時は紙とペンだけ持っていくようにしてたんですけど。道端で死んでると思われたら大事件になるじゃないですか。
だから紙に「死んでません」とだけ書いて、胸の上に置いて小一時間。全回復しますよね。

ただ、地べたで寝るってあまりにもアカンことちゃうかと思っちゃって、立って寝たというね。

――立って寝るみたいな、50㏄バイクに乗っていて会得した能力みたいなのあります?

 能力、なんでしょうね。どのへんにごはん屋さんあるとか、なんとなくわかります。

僕は〝チェーン店街〟って呼んでるんですけど。ヤマダデンキが見えたら、これはもうごはんチャンス。

――ヤマダデンキが見えたら、ごはん屋さんが多いエリアになると?

 そう。牛丼やら中華やらが、わらわら出てくるのが楽しくて。もう選び放題。なんか山越えた後に出てくる街が好きで、そういうのはわかるようになってきました。

――ナビはどうしています?

 今はナビが便利なんで使ってますけど、20年ぐらい前はコンビニ入ってマップ見て、交差点だけ覚えての繰り返しですよね。

ただ、覚えられるのは3つまでなんですよ。だから、その3つの交差点過ぎたらまたコンビニ入ってマップ見て交差点3つ覚えて......。これ、昔から乗ってる人なら共感してもらえると思いますよ。

――あえて今思う、50㏄バイクの良さってどんなところでしょう。

 原付バイク、特にスーパーカブは、目線が人の立ったときとかなり近いんですよ。

だから、なんか普通に足で走っている感覚でバイクに乗れて......本当に永久に走れている心地よさですよね。息がずーっと持っているランナーみたいな。わかります?

――どこまでも行けそうな感じですね。

 そこなんだよなって思いますね。

* * *

今後は出力が制限された125㏄以下の「新基準原付」が、原チャリの代替品として販売される。われわれが50㏄バイクに感じていた魅力は、新基準原付に果たしてあるのか......。

50㏄バイクが消えゆく今、「バイクでゆっくり走るというぜいたく」まで消えないでほしいところだ。

《50ccバイク》
総排気量が50㏄以下の原動機付き自転車。通称、原チャリ・原付。2段階右折が必要なほか、法定速度は時速30キロ、高速道路乗り入れや2人乗り不可など制限が多い

●ピエール瀧
1967年生まれ、静岡県出身。ミュージシャン、俳優、声優、タレント。「無駄こそ宝なり」が信条。好物はもやしソバ。現在、愛用している50㏄バイクはホンダのスーパーカブ

●銀シャリ・鰻和弘(うなぎ・かずひろ)
1983年生まれ、大阪府出身。ボケ担当。立ち位置は向かって左。身長171㎝、血液型=A型。左利き。趣味はバイク旅。50㏄時代の愛車はホンダのスーパーカブ

取材・文/西村まさゆき 撮影/赤木瞬介

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