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11月12日、参議院予算委員会で国民民主党の榛葉賀津也幹事長が走行距離課税を取り上げ、片山さつき財務大臣に質疑

国会で「自動車重税」が俎上に載り、波紋を広げている。ガソリンの旧暫定税率が消えた先で庶民を待つのは、負担軽減か、それとも新たな重税なのか――。

論戦の舞台裏で、今、何が動いているのか。その深層を追った。

【暫定廃止の先にある〝年間1.5兆円の大穴〟】

そもそも1974年、道路財源のための〝暫定措置〟として始まったガソリンの旧暫定税率は、実に51年もの間、価格に上乗せされ続けてきた。だが、今年12月31日――ついにこの長すぎた歴史に幕が下りる。与野党6党が合意し、1Lにつき25.1円の上乗せ分が完全に消えるのだ。

ただし、国はその〝値下げ効果〟をあえて見えにくくする。暫定税率廃止後の価格急落を避けるという名目で、すでに1L当たり10円が交付されていた石油元売りに対する補助金を段階的に積み増し、ガソリン価格の推移をなだらかにする狙いだ。

11月13日から15円、27日から20円、そして12月11日から年末までは暫定税率と同額の25.1円が丸々補填される。来年4月1日に旧暫定税率の廃止が予定されている軽油も同様だ。

「昔より高いとは言うけど、欧州や韓国に比べたら日本のガソリンはまだ安い。せやけど〝暫定〟って言いながら何十年も取り続けてるって、どないやねんって話やな」

こう吐き出すのは、世界を飛び回る関西出身の金髪ラリーカメラマン・山本佳吾氏だ。自動車ジャーナリストの桃田健史(けんじ)氏も苦笑する。

「51年続いた〝暫定〟という言葉に、ユーザーが納得しないのは当然です。一方で気になるのは、廃止で生じる年間1兆5000億円規模の〝巨大な穴〟です。法人税優遇の見直しなどが示されてはいますが、〝おおむね1年をめど(に財源問題を議論する)〟という曖昧な表現が何を意味するのかは不透明です」

つまり、手放しで喜ぶ状況ではないという話なのだ。1兆5000億円もの税収減を政府が黙って放置するはずがないからだ。

ではその裏側で、何が動き始めているのか。

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*表は国や自動車業界の公開データを基に編集部が独自に作成

*表は国や自動車業界の公開データを基に編集部が独自に作成

【国会で飛び出した〝過重課税〟問題】

実は11月12日に行なわれた参議院予算委員会で、国会がざわつくひと幕があった。

「ヘリコプター購入は消費税だけなのに、クルマには9種類もの税金がかかる。総額は9兆円。なぜこれほどクルマから税金を取るのか?」

自動車ユーザーへの〝過重課税〟に斬り込んだのは、国民民主党の榛葉賀津也(しんば・かづや)幹事長。

追及を受けた片山さつき財務大臣は、「取れるところから取ってきた面は否定できない」と率直に認めた上で、「自動車産業は基幹産業。角を矯めて牛を殺してはいけない」と語り、課税全体の見直しに含みを持たせた。

車中泊で日本一周をした漫画家の小田原ドラゴン氏はこう憤る。

「9種類で9兆円って、インパクトありましたね。しかも新車登録から年数がたつほど税金が上がる仕組みや、消費税の二重課税とか......正直、謎で意味がわからない」

山本氏もあきれ顔だ。

「重量税に自動車税、なんでもかんでも税金や。しかも使い道が見えんのが多すぎる」

榛葉幹事長はさらに、かねて噂になってきた〝走行距離課税〟に斬り込んだ。

「アメリカもヨーロッパも自動車からこんな複雑にたくさんの税金を取っている国はないと思います。大臣、これまさか〝走行距離課税〟っていうのがあるんですけど、やりませんよね?」

片山大臣は「検討していない」と断言し、多くのドライバーが胸をなで下ろすとともに、拍手喝采となった。

【火種は消えていない!〝距離〟が狙われるワケ】

とはいえ、片山大臣の発言は信用できるものなのか。

「実は昨年の税制改正大綱では、2026年度から車体課税の抜本的見直しを打ち出しています。自工会(日本自動車工業会)の要望は明確で、環境性能割の廃止と、自動車税・重量税の統合による新税の導入。重量課税をベースに環境性能で増減させる仕組みですが、重量の重いEV(電気自動車)をどう扱うかが最大の課題です」

桃田氏はそう語りながらも、走行距離課税の火種は残り続けていると指摘する。

「名称としては消えても、税制議論の中で〝距離要素〟を入れた案が出てくる可能性は否定できません。年末の税制改正大綱で何が浮上するのか、注意が必要です」

つまり、電動車(HEV[ハイブリッド]、PHEV[プラグインハイブリッド]、EV)の普及でガソリン税収は減り続けている。

その穴埋めとして〝距離〟が国からロックオンされかねないのだ。さらに問題なのは、榛葉幹事長も指摘していたが、国際比較での〝日本だけ突出した自動車課税〟という現実だ。桃田氏が解説する。

「JAF(日本自動車連盟)のまとめによれば、日本の車体課税はイギリスの約1.4倍、ドイツの約3.4倍、フランスの約9.5倍、そしてアメリカの約23.4倍。重量税に相当する税を採用している国もほとんどない。一方、欧州では走行距離課税の議論が進んでおり、日本に波及する可能性はあるのでは?」

小田原氏はこう嘆く。

「僕が見ているYouTuberの40代独身女性は、毎月の少ない給料から車検と自動車税の積み立てをしているんですよ。それを見てて、もうちょっと庶民に優しい制度にならないかと思いますね」

最後に桃田氏が総括する。

「ガソリンの旧暫定税率廃止は、税制見直しの序章に過ぎません。地方の公共交通は構造的赤字、物流は〝2024年問題〟で限界に近い。今後、モビリティ全体をどう支えるのか。その負担を誰が担うのか。

クルマ税制は今、まさに大転換点を迎えています」

旧暫定税率の廃止で生まれた〝年間1.5兆円の大穴〟を、高市内閣はどう埋めるのか。その矛先はどこへ――。

取材・文/週プレ自動車班 写真/時事通信社

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