お好み焼き店が苦境に立たされている(写真はイメージ)
お好み焼き店など「粉もん」店の倒産が相次いでいるという。その理由は!? そして店主たちは何を思っている!? 現場の声を聞いてみました!
【お好み焼き店がピンチの理由】東京商工リサーチの発表によると「2025年1~7月のお好み焼き店・焼きそば店・たこ焼き店の『粉もん』店の倒産が前年同期比30.7%増に達し、11年以降の15年間の1~7月では最も多く、年間でも20年を抜いて過去最多を更新する可能性が出てきた」という。
また、倒産した店の都道府県別では、粉もんがソウルフードの大阪府が6件(構成比35.2%)で最多だった。
このデータや独自のアンケート調査から、日本コナモン協会はお好み焼き店が10年後の35年までに半減する恐れがあるとし、〝お好み焼き店2035年問題〟に警鐘を鳴らす事態となっている。日本コナモン協会の熊谷真菜会長に話を聞いた。
「今年に入って全国のお好み焼き店100店舗、そしてインバウンドの方300人に独自アンケートを取ったんです。
すると、名店の経営者の年齢は50代から70代の方の占める割合が高く、後継者がいるかどうかという質問にも約半数がいないと回答。現状のままだと10年後はお好み焼き店が半減して庶民の味、技の継承が途絶えるのではないかと心配しています。
さらに、今お好み焼き店の前に立ちはだかっているのが〝豚玉1000円の壁〟。豚玉1000円というと『お好み焼きなのに、なんでそんなに高いの?』と言われてしまう。それでなかなか値上げができないんです。
根底にあるのが、お店で店員さんが焼いているのを見ると『あんなん誰でもできるやん』とお客さんが思ってしまっていること。けど、食感の良いおいしいお好み焼きを焼くのは難しく、1~3年かかるほど技術と経験が必要なんです」
お好み焼き店が今ピンチの理由を分析してくれた、日本コナモン協会の熊谷真菜会長
この意見に賛同するのは、関西の大手お好み焼きチェーンの経営指導を行ない、支援してきた経験のあるグルメジャパン研究所の森久保成正代表取締役。
「フランス料理、イタリア料理の世界を経験した後、粉もんの世界に飛び込んだ私の経験から言わせてもらうと、粉もんが一番難しかったです。
フレンチやイタリアンはソースをしっかり作っておけばなんとかごまかせる。そんな難しい料理なのに、タイパが悪い(焼くのに時間がかかる)と言われ、昼休みに食べに来たお客さんが『いつまで待ったら出てくるんや』とキレて帰るという悲しいこともあるんですよね」
グルメジャパン研究所の森久保成正代表取締役
さらに熊谷氏が危機の話を続ける。
「若者にとって色や形が地味でインスタ映えしない。また、おいしいお好み焼き体験がないまま育ち、粉50g、キャベツ150g、卵や肉類の黄金栄養バランスの良さも伝わっていない。庶民の知恵が凝縮されたお好み焼きの魅力を海外の人のほうが理解しているので、今こそ日本人に伝え直す最後の好機と考えます」
【お好み焼き店主のため息】というわけで、実際にお好み焼き店の店主たちの声を聞いてみることに。向かったのは飲食店が多く、下町情緒漂う大阪・大正。
1軒目は広島風お好み焼きの店「和らび」。店主の大出勉さんに話を聞いた。
「大正にはお好み焼き屋さんが昔はたくさんあったんです。けど、今は『お好み焼き』の看板は残っているけど、店はやってないみたいなところがあったりしますしね。
やはり後を誰かに継いでもらえるほど、大きな商いではないですから。焼き肉店とかだと人気店になると、ある程度の収益があるので後を継がせようという考えも浮かぶのかもしれませんが、お好み焼きではそんな収益は上がりません。
うちらも年を取るまで夫婦でぼちぼちやろかという感じで、今の20代の子らに『後継いで』なんてとても言えないです」
「和らび」店主の大出勉さん
イカやエビがふんだんに使用される海鮮焼き(1630円)が人気
お好み焼きの価格についても話を続けてくれた。
「物価高がきつくなったここ3年ぐらいは年に1回ペースで値上げさせていただきました。ありがたいことにお客さん自身、物価上昇を肌身でわかってますから『そらそやね』って感じで、文句言うような人はいなかったです。
もうね、万博行ってうらやましかったですわ。1800円のビールが飛ぶように売れている。うちは生ビール480円。50円上げるのに『お客さんが来んようになったらどうしよう』と悩みに悩んでやってるのに」
さらに、今後についてこんな心配も。
「この鉄板がものすごく重くて、職人さん5、6人と私とでやっとこさ店に入れたんです。もし店やめるとき、この鉄板をちゃんと運び出せるかどうか。店のドアを壊さないと出せないと思います。
この先ここで鉄板を使わない飲食店をやれと言われても難しいですね。潰しが利かないというか。なので、くたばるまでずっとお好み焼き店をやらなきゃいけないんです」
続いて、お好み焼き店を閉店後、現在はその場所で喫茶店を営む女性店主にも話を聞くことができた。
「私はもうすぐ70歳。年齢も年齢なので体力的に持たなくなってきたんです。それがお好み焼き店をやめた大きな理由です」
さらにエピソードを続けてくれた。
「開店は今から25年前。最初はお好み焼きだけの店としてオープンしたんです。当時は夜だけでなく、午前中も店を開けてました。
でも、夜のお客さんが中心で午前中のお店は遊んでいるみたいなもの。これはもったいないと、朝にボリュームたっぷりのモーニングが食べられる喫茶店を始めたんです。
喫茶店には近所の人がモーニングを食べに来てくれたり、夜はお好み焼きを近くの高校の生徒が食べに来てくれたり、かき氷もやってたんで子供たちもよく来てくれてました。
けど、月日がたつにつれてこの辺りの子供も減って、近くの高校も夜間制がなくなりました。そして、近くにコンビニや大型ショッピングセンターとかができて、気軽に食べられるものが手に入るようになった。そりゃもうお客さんは減りますよね」
さらにもう1軒向かったのは、同じ大正で創業40年、店主は80歳の高齢という老舗のお好み焼き店「ダックス」。店主が語ってくれた。
「開店した当時、この近所にお好み焼き店は6店ありました。でも、次々やめて今やってるのはうちともう1店、お持ち帰り専門の店の2店だけになってしまいました」
創業40年の「ダックス」
一番大きかったのは価格高騰で、店の経営を圧迫していったという。
「キャベツがものすごく値上がりしました。安いときは1玉100円。それが600円も700円もしたときがありましたから。あとは青のりね。あれも東日本大震災以降、急激に値上がりしました。以前は各テーブルに置いて好きなだけかけてもらってましたけど、今はカウンターの1ヵ所だけに置くように変えました。
昔はマヨネーズとソースの値段はほぼ一緒でした。でも、今はマヨネーズが値上がりして、気づいたらソースの倍の値段になっている。まあ全体的に原料の価格が開店したときのおよそ2倍になってますね」
この店の名物はウルトラジャンボ焼き(3枚分の特大サイズ)だったが、今年に入ってやめたという。
「私が今年1月の初めに倒れてしまいまして入院。それで1月の初めから2月の中ほどまで店を閉めて休みました。これをきっかけに、作るのに体力がいる割に利益が出ないウルトラジャンボ焼きをやめることにしたんです。
さらに、それまで週休2日やったのを週休3日にさせてもらいました。どうせもうからんのやから週休4日でもと思うぐらい。売り上げでいうと今は80年代のバブルの頃の5分の1ぐらいに激減していますし」
ジャンボ焼きは四角い形が特徴
体調も客の入りも芳しくない状態。こんな中いつまで店を続けていくつもりかと、直球の質問をぶつけてみた。
「いつやめてもいいと思ってます。今年1月に続いて、この夏も体調を崩して入院して3週間ほど休んだんです。
見てのとおり一番忙しくないとあかん日曜日の夜やいうのに、1時間以上この取材を受けてる間、ひとりも客来うへんでしょう。こんなんでは店開けててもしゃあないですから。いつ店やめてもいい思ってます」
昔ながらの価格で頑張っているが、店主の体調不良もあり週3回定休日に増えた
ここまでは苦悩するお好み焼き店主のエピソードを紹介してきたが、お好み焼きの明るい未来を思わせてくれる店もあった! 大阪・福島にある「隠れ鉄板酒場 風流」。
お好み焼き店激減のこの時代、なんと4ヵ月前に、より規模の大きな2号店「新橋筋鉄板酒場 風流」を同じ福島にオープンさせたという。
店内はまさに隠れ家風で、カウンターバーとお好み焼き店が合体したような造り。そしてメニューはなんと50種類以上! そもそもお好み焼き店の象徴である「豚玉」のようなメニューがこの店にはない。お好み焼きに羽のようなものが生えていて、いかにもインスタ映えしそうな「ベッピン焼き」など商品名もユニークだ。
まだ40代と若い店主の糀正憲さんに話を聞いた。
「昔のお好み焼き店のメニューはお好み焼きとネギ焼きがあってちょっとゲソ焼きがあるみたいな、品数でいうと全部で十数種類ぐらいやったと思います。ですが、うちはほかにあんまりないようなお好み焼きをメニューにたくさん盛り込んでいます」
お好み焼きに新たな風を吹き込もうとする「隠れ鉄板酒場 風流」店主の糀正憲さん
チーズ、大葉、トマトののったベッピン焼き(1280円)が映えメニュー
ただし、お好み焼きだけでは限界があるという。
「実際、お好み焼きがまったく出ない日もあります。今はお好み焼きだけだと難しい時代だと思います。なので、ほかの鉄板焼き的なメニューもそろえています」
それでも店主が労力を注ぎ込もうとしているのがお好み焼き。それはなぜか。
「お好み焼きの持っている潜在能力はまだまだすごいものがあると思ってます。もっともっと工夫しがいがあるし、いろんなアイデアを発揮できる料理だと思ってるんです。それに海外の人にも今では『okonomiyaki』で通じますし」
店内には50種類以上のメニューが並ぶ
お好み焼きに限界を感じてやめる人がたくさんいるのに、逆に可能性があるとは。
「例えばネーミングひとつ取っても、お好み焼きにはいろんな名前がつけられて可能性がある。豚玉とかはどこにでもあるんですが、『ベッピン焼き』と名前をつけると、それって何?って話題になるでしょう。
これが焼き肉店だとハラミ、タン、カルビとか名前が決まってしまうんで、あまり広がらない気がするんです。
ほかの料理よりも、もっといろんなやり方ができるはずで、それがもしかしたらフランスやイタリアとか世界で勝負できる一品になるんじゃないかなと思っています。それぐらいの潜在能力をお好み焼きには感じています」
新感覚、新スタイルお好み焼きで快進撃を続けるこの店はお好み焼きの希望の光かもしれない。アップグレードされた新しいお好み焼きが世界に広がっていくことを祈りつつ、頑張れお好み焼き! そしてそのお店を守る店主たち!
取材・撮影/ボールルーム 写真/PIXTA(イメージ)
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