ある日、あるとき、ある場所で食べた食事が、その日の気分や体調にあまりにもぴたりとハマることが、ごくまれにある。
それは、飲み食いが好きな僕にとって大げさでなく無上の喜びだし、ベストな選択ができたことに対し、「自分って天才?」と、心密かに脳内でガッツポーズをとってしまう瞬間でもある。
そんな"ハマりメシ"を求め、今日もメシを食い、酒を飲むのです。
* * *
飲み友達でライターのスズキナオさんと一緒に、午前中からとある媒体の取材を受けるという仕事があった。それがつつがなく終了し、まだ昼すぎだがお互いにあとの予定はない。共通の友達であるシンガーソングライターのbutajiさんも合流してくれて、特に目的地もなく気ままに夜まで飲み歩いていいという、ただただ愉快でのんびりとした1日だった。
なんとなく向かってみたのは上野で、天気もいいからまずは不忍池のあたりでも散歩してみる。すると池のほとりで、「上野シタマチ CHRISTMAS」というイベントが開催中。クリスマスとタイトルにつくが、あまりその空気感は強くない。飲食を中心とした屋台がずらりと2列並び、その間に仮設テントが設置され、簡易テーブル席を自由に使っていいようだ。これは楽しそうだと、ひととおり冷やかしてみる。
「上野シタマチ CHRISTMAS」
ほとんどの屋台はよくあるお祭り的な、いわゆるB級グルメを扱っており、値段もそれなりの観光地価格。ただそのなかにひとつだけ、明らかに異質な屋台があった。「Warung Wong Jowo (ワルン ウォン ジョウォ)」という、インドネシアのジャワ料理店らしい。
「Warung Wong Jowo」
保温ケースに並んだ一見ホットスナック風のフードは、ジャワ風の天ぷららしい。その他のメニューもほとんどが初めて見るもので、とても興味がある。しかも、これで出店料の元がとれるの? というくらい値段もお手頃で、酒類も豊富。よし、まずはジャワ飲みだ! とテンションが上がり、頼んでみたひとつ300円の「トウフ」「テンペ」「バナナ」の天ぷらが、どれも異国情緒たっぷりで絶品だった。
不思議に具沢山な「トウフの天ぷら」
その数日後、一緒に「パリコダマ」というYouTubeチャンネルをやっている小玉さんとともに、また上野で飲む機会があった。となればWarung Wong Jowoの良さを布教したい。それに、前回は天ぷらだけだったが、まだまだ食べてみたい料理はある。というわけで、ふたたび不忍池のほとりへ。
酒の壁
酒類は氷水の入ったクーラーボックスで冷やされた、関西の酒場で言うところの"どぶづけ"スタイル。おなじみの缶ビールや缶チューハイ類が400円と、これも他の屋台に比べて安いが、せっかくだからインドネシアのビール「BINGTANG(ビンタン)」の瓶(税込700円)を選んでみた。
豊富な酒類
ビンタンビール
料理は女性店主おすすめの「サテ・アヤム(焼鳥)」(1,000円)、それから写真だけではどんなものかわからないゆえに興味深い、ごはんもののプレート「ナシチャンプル」(1,300円)の2品を。
「ナシチャンプル」と「サテ・アヤム」
サテ・アヤムは、串に刺した鶏肉というスタイルこそ日本の焼鳥と同じだが、香りからして明らかに別の料理。
エキゾチックな香り
さっそく食べてみると、ピーナッツ系の濃厚なコクのあるソースがたっぷりで、いつもの焼鳥を想像していると面食らうくらいに甘い。次に驚いたのが肉の柔らかさで、ただ焼いただけでなく、なんらかの下処理がしてあるようで、口のなかでほろほろとほどける。ひと口目は違和感があるけれど、食べるほどにクセになってきて、さっぱり爽快なビンタンとの相性は、さすがインドネシア同士のタッグだ。
知らないものだらけのプレート
続いてナシチャンプル。ナシが「ごはん」で、チャンプルは「混ぜる」を意味し、数種類のおかずを少しずつごはんに混ぜて食べる料理らしい。のっているおかずの大半が知らないものなのが楽しすぎる。
牛肉のなにか
メインはインパクトのある肉で、旨味がぎゅぎゅっと凝縮され、そこに僕の知る限りの表現で言うならば、優しいスパイスカレーのような風味がついている。ごはんの上にのったあげだまのような見た目のものはなんだろう? と思って店主さんに聞いてみると、ずばりジャワ天ぷらを作った際に出るあげだまらしい。そのサクサク食感が楽しいごはんと肉がよく合う。
謎の形をした、お菓子のようにカラフルな物体は、どうやらえびせんのようで、これがプレートにのる意図はよくわからないけれど、酒のつまみにとてもいい。固ゆでの玉子はほんのりとスパイシーで、見たこともない野菜らしきものは、芋的な根がタピオカの原料となることでも知られる、キャッサバの葉っぱ部分らしい。
焼鳥ものせてみよう
あっちこっちをごはんと混ぜつつ、ビールをぐびぐびと飲みながら野外で食べるジャワ料理。クリスマスまでの期間中、まだ何度か行きたいくらいに気に入ってしまった店との出会いだった。ちなみにWarung Wong Jowoは小岩に実店舗があるらしく、近いうちに必ずそちらにも行ってみなければ。
取材・文・撮影/パリッコ
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