日本最東端の旅! 市川紗椰が花咲線で見つけた"果て感"の正体...の画像はこちら >>

"絶滅危惧種"のキハ54!

『週刊プレイボーイ』で連載中の「ライクの森」。人気モデルの市川紗椰(さや)が、自身の特殊なマニアライフを綴るコラムだ。

今回は「花咲線」について語る。

* * *

JR北海道の「根室本線」のうち、釧路駅から根室駅までの約135㎞の区間には「花咲線」という愛称がついています。

11月、「花咲線サミット」というイベントにゲストとしてお招きいただいた際に乗りましたが、世界地図の端に自分の指先で触れているような、不思議な気持ちになる路線でした。

この線は日本最東端の駅、根室駅を発着する鉄道。厳密にはアジア最東端だそうで、ロマンが詰まった風景が魅力です。遠くまで来た達成感と、線路の先が海で終わる静かな余韻。根室駅に降りたとき、自分の体の中で何かがスッと整うのを感じました。

線路はここで終わると同時に、ここで始まる......日本の地図の端まで鉄道が踏破した証拠のような線に、心が躍ります。〝JR日高本線ロス(2021年に全路線の大部分が廃止)〟で欲していた〝果て感〟、ここにあり。

途中駅の響きだけでも、胸が膨らみます。「厚岸(あっけし)」「別当賀(べっとが)」「落石(おちいし)」......。「地球の風景そのまま」みたいな実在感がある駅名標を写真に収めるだけで、小さな冒険の証明書が手に入った気分でした。

そして、なんといっても車窓。果てしないスケールの中に、ディーゼルカーがちょこんと生きている。あまりに小さな文明の痕跡が、むしろいとしい。釧路駅を出たら、湖で白鳥たちがお出迎え。

すぐに別寒辺牛(べかんべうし)湿原が大きくステージを広げます。湿原の不思議な地形の中にすらりと立つタンチョウは、完全に地元の重鎮。かわいすぎて、カッコよすぎ。思わず窓(北海道の列車特有の二重ガラス)に額をくっつけて眺めました。

走っているというより、そっと置かれたレールの上を旅しているというニュアンスに近いかも。「地球の自転に合わせて、滑らかに移動しているのでは?」と感じる瞬間もありました。そんな錯覚を起こしてくれる路線は、そう多くないと思います。

やがて落石海岸付近へ入ると、景色は別の表情を見せます。

右側は断崖絶壁からの真っ青な海。左側は、むき出しの地球のようなワイルドな地形。〝地球の始まり〟を感じて、謎の興奮を覚えました。

根室に近づくと不思議な傾き方をしている木々がたくさん生えてました。海風の影響? 太陽の当たり方? そこに霧が相まって、水墨画のような景色でした。外はとんでもなく寒そうな風が吹いてましたが、車内はぬくぬく。暖かい列車に守られながら極寒の地を走る鉄道旅、大好きです。

花咲線の旅にはほかにも、忘れてはならない楽しみが! ご当地グルメ! 厚岸のブランドガキ「カキえもん」、最高。花咲ガニ、サンマ、シシャモ、チーズ、アイス。お酒はウイスキー、地ビール。冬の旅がいいかと思いましたが、どの季節も引かれますね。

ちなみにこれで、私は日本の端っこの駅を全クリアしました。

最北端・稚内(わっかない)駅(北海道)、普通鉄道の最西端・たびら平戸口駅(長崎)、モノレールを含む最西端・那覇空港駅(沖縄)、JR最南端・西大山駅(鹿児島)、そしてモノレールを含む最南端・赤嶺駅(沖縄)、全部降り立ちました!

だからといって何もないですが......勝手に最果てコンプリート証明書を作ります。

●市川紗椰
1987年2月14日生まれ。米デトロイト育ち。父はアメリカ人、母は日本人。モデルとして活動するほか、テレビやラジオにも出演。著書『鉄道について話した。』が好評発売中。根室のVOSTOK laboのオジロワシクッキーがおいしくて取り寄せしそう。公式Instagram【@sayaichikawa.official】

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