犬の手は借りる
『週刊プレイボーイ』で連載中の「ライクの森」。人気モデルの市川紗椰(さや)が、自身の特殊なマニアライフを綴るコラムだ。
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とってもとってもどうでもいいのに、頭の中をぐるぐる巡って離れない気づきってありませんか?
私はここ数ヵ月、「よく考えたらおかしい言葉」が妙に気になってしまい、誰かに言うまでもないちまちまとした日本語の違和感たちについて考えすぎています。そんな行き場のない、とりとめのない、言葉に対しての気づき(=イチャモン)を、ここで吐き出させてください。脳の大掃除、2025。
例えば「踏んだり蹴ったり」という慣用句。これは「災難続き」という意味だが、言葉の構造はどう見ても加害者目線。しかもコンボ技。被害を受けてる側の視点で考えると、本来は「踏まれたり蹴られたり」ではないのか。
にもかかわらず、私は平然と「いやー今日は踏んだり蹴ったりでさ」と、自分で自分を踏んで蹴るような表現を使っている。言語の暴走というものは恐ろしい。
同じカテゴリーに「猫の手も借りたい」がある。そもそも猫は手を貸さない。
モノに関する、気になりすぎる名前も多いですね。例えば「ハサミ」。確かにモノを「挟む」道具だから、「挟み」ではあるのだが、日常的には「切る」役目が主力。挟んでいる時間より切っている時間のほうが圧倒的に長いのに、名前は「挟む」のほうを採用している。
もしこの論理でいくなら、包丁は「押すもの」、ノコギリは「引くもの」でもよかったはず。語彙(ごい)の命名会議、どんな基準で決まったのか。会議に参加できるなら、ピンセットの名前を「ハサミ」に変えるべきと発言しよう。
「ぬるま湯」も謎。
衣類部門からは、「靴下」がノミネート。靴の中にはいてるんだから、「靴中」という名前に一票を投じます。
その意味で言うと、「手袋」も似ている。手を「袋」に収めるという発想は納得ですが、指ごとに仕切りがあるやつは、もうそれって袋よりズボン。だから「手ズボン」。五本指が独立して動く袋とは、もはや袋の概念を超えている問題。なぜ袋カテゴリーに押し込んだのか、これも命名者に問い詰めたい。
一度立ち止まって考えてみると、「そのまま受け入れてきた違和感」で満ちている言葉。その理不尽さや突っ込みどころこそが、言葉のチャーミングなところでもあるのかもしれません。
とはいえ、いつまでも考えすぎているより、前に進みたい。
●市川紗椰
1987年2月14日生まれ。米デトロイト育ち。父はアメリカ人、母は日本人。モデルとして活動するほか、テレビやラジオにも出演。著書『鉄道について話した。』が好評発売中。行き場のないどうでもいい気づきを発散する、脳の大掃除!公式Instagram【@sayaichikawa.official】
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