坂口孝則が振り返る「2025年を象徴する7つの経済トピックス...の画像はこちら >>

クマ被害がこれほどまでに拡大し、それが地域経済にこれほどまでに損失をもたらすことは、数年前には予想さえできなかった

あらゆるメディアから日々、洪水のように流れてくる経済関連ニュース。その背景にはどんな狙い、どんな事情があるのか? 『週刊プレイボーイ』で連載中の「経済ニュースのバックヤード」では、調達・購買コンサルタントの坂口孝則氏が解説。
得意のデータ収集・分析をもとに経済の今を解き明かす。今回は「2025年の7つの経済トピックス」について。

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2025年、さまざまな経済上のトピックスで日本が揺れた。7つのキーワードから振り返りたい。

まずは①サプライチェーンと関税だろう。年初に就任したドナルド・トランプ米国大統領は、貿易赤字を取り戻すとして国ごとに高い関税率をかけた。同盟国にも容赦ない。輸出産業で成り立っている日本は自由貿易時代の終わりを知った。

現代の鎖国か関所か。西側と東側、それぞれの陣営内でサプライチェーンを構築しようとするのは必然となった。

経済はブロック化し、②ナショナリズムが招く「クリティカル・ミネラル(重要鉱物)争奪戦」が生じた。中国は従来以上にレアメタルの輸出許可を厳密化し、政治の道具に使われた。

レアメタルの精製時には放射性物質が出る。歴史的に先進国は、過酷な労働環境を新興国に押し付けてきた。その逆襲がはじまったのだ。

レアメタルは「ポケモンカード」でいえば争奪戦になるレアカードになった。『マインクラフト』でいえば貴重アイテム化した。この問題に関しては米国も口をつぐむ。

理想だけでは食っていけない。それは③円安とエネルギー政策の転換にも色濃く見て取れる。

EUでは「グリーンリアリズム」なる言葉が登場した。環境対策もいいけどコスト負担は勘弁だよ、できる範囲でやっていこうよ、という本音。脱炭素から脱理想へ。日本では新潟県や北海道でも原子力発電所の再稼働に動きはじめた。

電気代高騰を前に、政治家は有権者の生活苦を無視できない。

忌野清志郎は辞めたミュージシャンに「レスポールが重たすぎたんだろ」と歌ったが、政治家もスーツのSDGsバッジが重すぎたんだろう。

国民の叫びは④農政失敗とコメ騒動/おこめ券配布の炎上からも明らかだ。コメが高すぎる。「欲しがりません、安くなるまでは」って、いつの時代よ。

それに政権が代わったら、突然に政策が変わる。高市早苗政権では、市場の需給にまかせて価格はコントロールしない、となった。コメのインフレは許容し、現金の給付もやめ、地方自治体経由での「おこめ券」配布で補助するという。

食費が大変、という叫びは⑤ミニマム化スーパーマーケット革命(「まいばすけっと」等)をもたらした。週末に郊外の大型スーパーでまとめ買いする余裕もない、高頻度で定番商品を安価に買いたい。コンビニよりも徹底的な近便安(近い・便利・安い)が求められている。

ドラッグストアも生鮮食品や加工食品、飲料を揃(そろ)える店舗が多く、もはや「処方箋も出せて医薬品も買えるスーパーマーケット」というほうが近い。

引きこもり志向を加速するのが⑥クマの生息域拡大、獣害リスクだろう。経済損失はすさまじい。"リアルどうぶつの森"状態で、各地で観光収入が激減。東北地方への異動や就職を躊躇(ちゅうちょ)するひともいるようだ。

⑦寿司のシャリだけ商品が人気になった"事件"も印象的だ。具なしラーメン、皮だけの肉まんもあった。そりゃ素材が美味(おい)しいってのはわかるよ。でも、なんだか日本のジリ貧、凋落(ちょうらく)を象徴している。

①~⑦の頭文字は「サナエノミクス」。高市早苗総理、経済浮揚たのんます。期待しています。「美しい国、日本」には具なし寿司とラーメンをほおばる美的センスはないだろうし。

高い値(タカイチ)はなしで。

写真/時事通信社

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