「てっちゃん(小室哲哉)が音楽活動から引退するなんて、1ミリも思わなかったよ」と語る木根尚登氏
活動42年目に突入したTM NETWORK。12月1日に発売された『電気じかけの予言者たち -再起動編-』(リットーミュージック)は、その近年の歩みをメンバーである木根尚登氏が記した"ドキュメンタリー小説"だ。
さまざまな試練を乗り越え今も精力的に活動する"TM"の過去と今を木根氏がたっぷり語ってくれた!
【売れない時代、小室は悩んでいた】――今年のTM NETWORK(以下、TM)はアツかったですね! 2022年から始まった40周年記念プロジェクトは今年も継続。ドキュメンタリー映画『TM NETWORK Carry on the Memories 3つの個性と一つの想い』が公開され、初の大型エキシビション「TM NETWORK 2025 IP」も開催されました。
木根 そう考えると、今年もいろいろやってたね。もう僕たち60代後半だよ? こんなにがんばっちゃってていいのかな。
――さらに驚いたのが、1988年の楽曲『BEYOND THE TIME(メビウスの宇宙を越えて)』が、今年放送のアニメ『機動戦士Gundam GQuuuuuuX(ジークアクス)』の挿入歌に起用され、各配信チャートで1位を獲得したことです。
木根 ガンダムのことはあまり知らないんですけど、SNSでなんか盛り上がってるなっていうのは知ってて。
でも、まさかこんなことになるとは思っていなかった。昭和、平成を飛び越えて令和に37年ぶりのリバイバル。これが本当の「BEYOND THE TIME」。時を超えて、だよね。
1980年代から絶えず音楽シーンにインパクトを残し続けるTM NETWORK。左から木根尚登(ギター)、宇都宮隆(ボーカル)、小室哲哉(シンセサイザー・キーボード)
――こうして令和もヒットを飛ばし続けるTMですが、結成当初はまったく売れなかったとか。
木根 TMって1984年デビューなんだけど、最初の2~3年はひどいもんでしたよ。ヒットチャートにまったく引っかからない。てっちゃん(小室哲哉、キーボード)、ウツ(宇都宮隆、ボーカル)の3人で地方のレコード店やイベントでプロモーションに行っても怪訝そうな顔で見られたり、追い返されそうになったりもした。
正直、シングル『Come on Let's Dance』(86年)の頃には、これが売れなかったらバンドやめようか?っていうくらいの雰囲気になっていた。てっちゃんは「僕の曲が良くないのか?」って悩んでいたと思う。僕も曲を書くけど、TMのメインコンポーザーもプロデューサーも彼だからね。
そんなタイミングで彼が書いた曲、渡辺美里さんの『My Revolution』(86年)がチャート1位を記録してさ。てっちゃんは冗談交じりにこう言ってたよ。「そっか。(TMが売れないのは)僕のせいじゃないんだ」って。じゃあ僕とウツが悪いのか?っていう(笑)。いずれにせよ、アイツは『My Revolution』で自信を取り戻したんだ。
1984年のデビュー当時のプロモーション用写真より。木根氏いわく「当時からてっちゃん(小室哲哉)はいい曲書いてたんだよ」/©Sony Music Labels Inc.
【『Get Wild』誕生の瞬間に立ち会う】
――そしてTMは『Get Wild』(87年)で大ブレイクを果たします。
木根 てっちゃんがあの曲を作ってるときに、僕、立ち会ってたんだ。彼から「アニメ『シティーハンター』の主題歌を依頼された。一緒にいてくれ」って頼まれて、プロモーションが終わった後の夜の9時か10時くらいに一緒にスタジオに入った。
当時は泣きたくなるくらい忙しかった時期でね。僕は疲れ果てて、「早く帰りたいなぁ」って思ってた。完成した『Get Wild』の歌メロを聴いたときも、「いいじゃん、いいじゃん。じゃあ帰ろう!」ってちょっと適当な返事をしていたくらいだった。
ちなみに、このときの『Get Wild』にはあの印象的なイントロはまだついてないんです。その後、『シティーハンター』のプロデューサーと監督がイントロを加えてくれって言ってきて、てっちゃんがあのメロディをつけ足した。
僕は『Get Wild』が40年近く愛されている理由は、あのイントロがすべてなんじゃないかと思うときがある。
――売れたことで高揚感みたいなものは感じました?
木根 あまりなかった。ラジオでかかっているのも一度も聞いたことがなかったし、歌番組に出てもプロモーションの仕事だよね、って感覚。
収録後、ファンの人が出待ちしているのを見ても、レコード会社がサクラでも仕込んだのか?って思ったりしてた。売れない時期があったから、自然とこういう感覚になっちゃうんです。
でも、それが変わる瞬間があってさ。『Get Wild』が売れた年に日本武道館と大阪城ホールでライブをやってね。その大阪のライブの後、てっちゃんから呼び出されたんだ。彼がいたのはホテルの最上階のスイートルーム。
大きな窓から大阪城が見える絶景の場所。そしてテーブルにはルームサービスで、ありったけの料理やワインが置いてあった。
そのときに、初めてこれまでの音楽人生を振り返った。昔はお客さんがいないライブハウスで演奏したこともあったけど、今は大きな箱でライブをしている。チャートにも入った。そういう所にいるって初めて実感して。てっちゃんとウツと一緒にやってきて良かったって改めて思いましたね。
1991年、TMNアルバム『EXPO』当時のフォトセッションより。先行シングル「Love Train」はチャート1位を記録した。/©Sony Music Labels Inc.
――その後、TMは94年に活動を一時休止し、小室さんは安室奈美恵さんやTRF(trf)、globeでプロデューサーとして名をはせます。彼が独り立ちしていくような状況を見て、嫉妬や寂しさはありましたか?
木根 不思議とそんな感情は抱かなかったね。ウツと僕は数字やお金のことにそれほど執着がなくて、自分のやりたいことがやれていればそれでいいっていうタイプ。
――TMはメンバーそれぞれのホームとして、数年に1度、再始動を繰り返しています。そんな中、事件が起きました。18年に小室さんが突然、音楽活動からの引退宣言をします。
木根 当時、てっちゃんはプライベートでいろいろ抱えていたし、週刊誌に追いかけ回されたりもしていた。60歳の節目でモチベーションが見いだせないタイミングもあったんでしょうね。
でも、僕はね、1ミリも不安には思わなかったな。TMの解散なんて選択肢にもなかったよ。「てっちゃんが音楽活動から引退? そんなことするわけないじゃん」って。長い付き合いだからさ、わかるんだよ、そういうことは。
事実、彼は21年にTMを〝再起動〟させますからね。
――復活の決め手は?
木根 当時は新型コロナウイルスが猛威を振るっていた頃で、世の中がガラッと変わっていて、音楽業界も窮地に陥っていたんだ。
――このときばかりは木根さんも宇都宮さんも、小室さんの帰りを待っていた?
木根 うん。僕たちって学生時代からの付き合いなんです。昔からみんなでうちの自宅のスタジオに集まって練習しながらワイワイやって、っていうね。早くそういう状態に戻りたいなっていうのはありました。
てっちゃんに関して言うと、あの人、昔から突拍子もないアイデアを言い出す人でね。で、そのアイデアは僕やウツの中からは絶対に生まれないものなんです。僕たちはいい意味でわかり合えてない。だからこそ、彼の想定外のアイデアが響くんです。
ウツはウツで、ああ見えて実は素直な男だしね。TMが売れる直前、アイツ、てっちゃんから「歌いながらダンスして」って頼まれたの。ロック畑の人間がダンスするなんてありえないのに。
でもウツはしっかり練習してましたからね。柔軟性があるんだよなぁ、アイツは。そんな感じで結果論だけど、僕たち3人は本当に見事なバランスの取れた三角形になっている。不思議なもんです。
2025年、Ginza Sony Parkで開催されたTM NETWORK初の大型エキシビション「TM NETWORK 2025 IP」の映像、音、グラフィック、グッズをひとつにまとめたスペシャルBOXセット『TM NETWORK 2025 IP』(株式会社ソニー・ミュージックレーベルズ)が12月24日にリリース
――来年1月から最新ツアー「TM NETWORK TOUR 2026 QUANTUM」全国13都市18公演が始まります。それに合わせて、新しいアルバムの制作も?
木根 考えたいところですけど、年齢的にいろいろ大変で。前みたいにボンボン出せるわけじゃない。
そもそもTMってそんなに計画的なバンドじゃないんですよ。『Get Wild』のイントロもそうだし、アルバム『CAROL~A DAY IN A GIRL'S LIFE 1991~』(88年)なんて、移動の新幹線の中でてっちゃんから構想を聞かされたからね(笑)。
偶然と偶然が重なり合って、突然、風が起きる。今はそういう風が起きることを期待しています。
●木根尚登(きね・なおと)
1957年生まれ、東京都出身。TM NETWORKのメンバー。ソロの音楽活動のほか、作家、プロデューサー、パーソナリティとして幅広く活躍。著書に『CAROL』『ユンカース・カム・ヒア』など。2026年1月22日の東京・立川ステージガーデンを皮切りにツアー「TM NETWORK TOUR 2026 QUANTUM」を開催
■『電気じかけの予言者たち -再起動編-』
リットーミュージック 3080円(税込)
TM NETWORKの活動をメンバー木根尚登の視点から描いた"ドキュメンタリー小説"、シリーズ7作目。2018年の小室哲哉の突然の引退宣言から幕を開ける本作は、ユニット最大の危機から復活を果たし、2024年5月にファイナルを迎えたデビュー40周年ツアーに至るまでの6年間、メンバー3人の会話や行動、そしてそれぞれの思いを活写する
取材・文/尾谷幸憲

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