11月のボリビア戦で国際Aマッチ100試合目の指揮を執った森保監督。2度目のW杯に挑む
来年6月から開催される北中米W杯の組み合わせ抽選会が行なわれ、グループFに決定したサッカー日本代表。
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【強敵ぞろいのF。出場枠増の恩恵は?】来年6月開幕の北中米W杯。組み合わせ抽選の結果、われらが森保ジャパン(FIFAランク18位)はF組に。強豪オランダ(同7位)、アフリカのチュニジア(同40位)、3月に決まる欧州プレーオフB組[ウクライナ(同28位)、ポーランド(同31位)、スウェーデン(同43位)、アルバニア(同63位)]の勝者、という顔ぶれになった。
アメリカ、カナダ、メキシコという初の3ヵ国共催であること、出場枠がこれまでの「32」から「48」へと増加し、グループ3位でも成績上位8チームまでは決勝トーナメントに進めることなど、新たな注目点も多い今大会。初のベスト8以上を目指す日本にとって、今回の組分けはどう見るべきなのか?
「プラス面がふたつ、マイナス面が3つ。総合評価は『40点』といったところです」
こう答えてくれたのは、森保ジャパンの取材歴も長いスポーツライターのミムラユウスケ氏。そのプラス、マイナス両面をさらに掘り下げたい。
「プラス面のひとつは試合会場の時差がないこと。ふたつ目は日本が苦手な南米勢が不在であること。逆に欧州勢との相性は悪くなく、過去のW杯で決勝トーナメントに進んだ4大会のうち、実に3大会で欧州勢が2チームいるグループでした」
グループリーグでの日本の試合会場は、オランダとの第1戦(日本時間6月15日)が米国中部のダラス。
「ダラスもモンテレイも6月の最高気温が35℃近い点を不安視する声もありますが、ダラスのスタジアムは屋内で空調が効いています。また、モンテレイの試合は現地時間22時開始。この時間帯の平均気温を調べると約26℃で、そこまで酷暑を心配しなくてもよさそうです」
3ヵ国共催による移動距離、特にメキシコの場合は高地順応が大変という事前情報もあったが、その点はどうか?
「ダラスとモンテレイは飛行機で2時間弱。また、メキシコ3会場のうち、モンテレイだけは標高500mほど(ほかの2会場は1500m以上)。特別な高地対策が不要になったのは、大会全体を見据えたコンディショニングの観点からも利点です」
では、3つのマイナス面とは何か?
「ひとつは対戦相手のレベルがどこも高い組に入ったこと。出場枠の増加によって、今大会はFIFAランク80位台のキュラソーやハイチ、ニュージーランドなども参加しますが、こういった国と同組にならず、出場国増加の恩恵を受けられませんでした」
実際、各組のFIFAランク平均順位は、日本のいるグループF(プレーオフ組は最も高い28位のウクライナで算出)が最も高い、すなわち、ハイレベルな組と見ることができる。さらに、決勝トーナメントの組み合わせに関しても不運な点があるという。
「12組中8組の1位通過チームは決勝トーナメント初戦で3位通過のチームと当たりますが、その恩恵のない残り4組に入ってしまった。
仮にグループリーグを突破できても、ラウンド32で当たるのはグループCのブラジル、または前回カタール大会ベスト4のモロッコの可能性が高い。悲願である『ベスト8以上』を目指す日本にとって、これもマイナス面と言えます」
そして、3つ目のマイナス面は対戦順だ。
「初戦が最大の強敵であるオランダ、という対戦順は厳しいです。日本が出場した過去7大会を見ても、初戦で勝ち点を落とした場合、すべてグループリーグで敗退しています。
また、決勝トーナメントで力を発揮する上ではグループリーグで疲弊しすぎないことが重要。今大会は3位でもグループリーグ突破の可能性があるとはいえ、初戦を落とせば残り2試合は勝利がほぼ必須となり、選手を入れ替えて戦う余裕がなくなります」
【強敵オランダ撃破のカギはエース上田】一方、難しい組であることを前提とした上で、「グループリーグ突破の確率は80%」と頼もしい数字を掲げてくれたのは、戦術分析官としてYouTubeで人気を博し、クラブチームの監督も務めるレオ・ザ・フットボール(以下、レオザ)氏だ。
「W杯で簡単な相手はいません。日本のことを研究してくると噛み合わせが悪くなりそうな面倒な国ばかりです。それでも、チームとしての地肩でいえば、オランダ以外は日本のほうが上。今回は3位でも突破の可能性がある点も踏まえると、日本がしっかり実力を発揮できればグループリーグ突破はできるはずです」
日本にとって、噛み合わせが悪い相手とは?
「ひとつは、セットプレーに強いチーム。そして、守りを固めて引いてきた相手を苦手にしがちです。オランダ以外は日本をリスペクトしてしっかり対策を練ってくるでしょうし、オランダだって自分たちのサッカーを貫く可能性が高いとはいえ、初戦は最も相手を研究する時間がある。日本としても、今の調子が非常にいいだけに本大会で戦術を変えにくいのが実情です」
では、対戦別にさらに掘り下げていこう。まずは初戦の相手、オランダについて。
「基本陣形は4-3-3。センターバックのファン・ダイク(リバプール)とデ・リフト(マンチェスター・ユナイテッド)を中心に守備はプレミアリーグ選抜のようで、非常に堅固です」
特に絶対的CBとしてオランダ守備陣を統率するファン・ダイクは要注意だ。
「個としてすごいだけでなく、周りに対してもいい影響を与え、大一番でこそ力を発揮する将軍タイプ。また、セットプレーではヘディングを武器に得点源にもなる。
かといって、彼にマークを集中させるとほかのフリーの選手を飛び込ませることにもなる。ひとりの存在でチームにいくつもの利点を生み出す、〝かけ算になる選手〟と言えます」
10月には王国ブラジルを大逆転で打ち負かした森保ジャパン。「W杯優勝」を実現できるか
また、日本が前回大会でドイツ、スペインを撃破し、今年10月に親善試合とはいえブラジルに勝ったことで、強敵認定されている点も厄介だ。
「8割の確率で、オランダは普段どおりの戦い方をしてくるはず。日本としてはそのほうが戦いやすい。ただ、残り2割の確率で守備的な布陣を敷いてくる可能性も。
むしろファン・ダイクを中心に、ディフェンス能力が高く、中盤のフィジカルも強いオランダに適した戦法と言えます。オランダに先制点を許した後、守備を固められると日本はジリ貧になりそうです」
では、日本が先制点を奪うために必要な方策は何か?
「9月の(W杯欧州予選の)ポーランド対オランダ戦(1-1)が参考になりそう。
これをそのまま、日本代表では上田綺世(フェイエノールト)を軸に実行できるはず。周りの選手の質で日本は負けていないので、ハマる可能性はある。上田は今、オランダリーグで得点ランク1位と絶好調。オランダを破る立役者がオランダで飛躍した、という展開も痛快です」
【キーマンとラストピースは誰?】最大の関門であるオランダ戦の後、チュニジアと欧州プレーオフ組との戦いも考察したい。チュニジアはアフリカ予選を9勝1分けで無敗突破。10試合無失点の守備陣を誇る。
「今、アフリカ大陸で勢いがあるのは北アフリカ勢。その意味でも侮れない相手です。日本をリスペクトして挑んでくるはず。前回大会で敗れたコスタリカ戦のように、日本がボールを保持しているのに攻めきれず......という展開になりかねません」(ミムラ氏)
レオザ氏も簡単な相手ではない、という認識だ。
「日本がブラジルに勝利して自信を深めたように、チュニジアも11月にブラジルと対戦して1-1の引き分け。
日本を格上と見て同じように守備的戦術を採用されると、前回大会のコスタリカ戦のように攻めあぐねかねない。この相手をどう攻略するか、4年間の森保ジャパンの進化を示す一戦となりそうです」
では、第3戦の欧州プレーオフ組は、どの国がくみしやすいのか?
「どこも厄介な相手なのは間違いない。ウクライナはFIFAランク28位ですが、強豪との試合が多く、なかなかランキングを上げられていないだけ。
ポーランド、スウェーデンは試合の流れと関係なく、個の力で点を奪えるFWがいるのが強み。アルバニアが上がってきたら、モチベーションが相当高いはずで、その勢いは嫌です」(ミムラ氏)
レオザ氏はスウェーデンのタレント性を警戒する。
「前線はアレクサンデル・イサク(リバプール)を筆頭にタレントが豊富で、しかもプレーオフを勝ち上がってくるということは調子も右肩上がりのはず。
また、10月に就任したばかりのグレアム・ポッター監督はブライトン時代に5バックの守備形成と、攻撃でもボールをつないで戦う両軸をチームに浸透させた人物。日本が嫌がる戦術を敷いてきそうです」
いずれにせよ、一筋縄ではいかない国々と戦っていく上で、日本代表の「キーマン」となるのは誰か? ミムラ氏、レオザ氏がそろって挙げた選手がふたりいる。ひとりは鎌田大地(クリスタル・パレス)だ。
「鎌田の使い方がチーム全体へのメッセージになる。ボランチの位置ならば攻撃的にいきたいんだなとわかるし、そこからひとつポジションを上げて2シャドーの位置ならば守備的にいくんだな、試合終盤の締めに入りたいんだな、とチーム全体に伝わるような存在です」(ミムラ氏)
そもそも、今の代表の戦い方のベースは、鎌田所属のクリスタル・パレスを意識したものになっているという。
「鎌田がパレスの守備を代表に落とし込むことで安定してきた上に、鎌田がいるとハイプレスにいくのか、抑えるのかの迷いもなくなっています。もちろん鎌田が不在でもボランチ陣の層は厚く、チーム力がダウンするわけではないですが、鎌田がいるとより臨機応変に対応できるチームになります」(レオザ氏)
もうひとりのキーマンは、現在、左手骨折による長期離脱中で来年2~3月に復帰予定のGK鈴木彩艶(パルマ)だ。
「各ポジションでハイレベルな定位置争いができる選手層となった今の日本代表において、GKだけは彩艶が抜けています。守備だけでなく、ロングキックで攻撃の起点になれるのも魅力で、ブラジル戦でも彩艶のキックをきっかけに得点が生まれていました」(ミムラ氏)
「大会を勝ち進む上ではGKが好調であることが重要。アジア杯で5試合8失点を喫して大きな批判を集めたのも、すべてはこのW杯のためと考えればドラマ性もある。ひょっとすると『鈴木彩艶の大会』になる可能性だってあります」(レオザ氏)
そして、レオザ氏が「最後のピース」として期待するのが、ケガのリハビリで無所属の状態が続く冨安健洋だ。
「僕が監督なら冨安は間に合わないものとしてチームづくりをしますし、森保一監督もそう考えているのでは? それでも、冨安が復帰できればグループリーグ突破の可能性は95%にまで跳ね上がる。それほどチーム全体の能力を押し上げられる存在が冨安なんです」
本大会まで残り半年。初のベスト8進出のさらに先、「優勝」を公言する森保ジャパンはどこまで高みを目指せるのか。W杯本大会メンバーへの生き残りをかけたサバイバルも含め、ますます盛り上がっていきそうだ。
取材・文/オグマナオト 写真/時事通信社



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