米海軍原潜ヴァージニア級4番艦ノースカロライナ、全長114.9m、7800t、水中を32ノット航行可能
トランプ米大統領は韓国の原子力潜水艦(以下、原潜)の建造を承認し、それを米国フィラデルフィアの造船所で建艦するとした。さらに小泉防衛大臣は、11月6日のTV番組でこう発言した。
「今までのようにディーゼルでやるのか、それとも原子力潜水艦なのか。議論をしていかなければいけないぐらい、日本を取り巻く環境は本当に厳しくなっている」
そもそも、韓国に原潜建造許可が下り、アメリカで造ることになったのはなぜなのか。米国防シンクタンクの海軍戦略アドバイザー・北村淳博士はこう言う。
米海軍原潜ノースカロライナの発令所。乗員たちは三ヵ月連続で海中勤務を熟す
「日本の新日鉄がUSスチールを買う買わないと大騒ぎしてる最中、韓国は別の動きをとっていました。韓国の造船業は伸びているのですが、さらに米の造船業界に食い込むため、フィラデルフィアの元米海軍造船廠を韓国企業が買い取っていたのです。
今の米造船業界が作っているのは、主に軍艦だけ。世界のシェアは0.1%とフィリピンの足元にも及ばない有様で、トランプも「MAGA」の一環として造船業をやると宣言しています。そしてさらに、韓国が造船で支える。そのために元米海軍造船廠を買い取ったのです。
米造船・造艦復活のために、韓国造船業界が大幅に援助をするのです。ただし、韓国の風下に立たされることに対するアメリカの反発を避けるため、韓国は原潜建造支援をアメリカに仰いだのです。
韓国海軍ディーゼル潜水艦ソンウォンイル全長1650m、1700t、水中速力20kt、ドイツの輸出用潜水艦214型を韓国で製造
韓国海軍ディーゼル潜水艦パクウィ、全長56m、1100t、水中速力22.ノット、ドイツ輸出用潜水艦209型を韓国で製造
一方、小泉防衛大臣が言うように、日本に原潜は必要なのだろうか――。すでに自民維新連合政権は原潜導入を決めているらしい。自民維新政権の合意文書の中には、こうある。
《長射程のミサイルを搭載し長距離・長期間の移動や潜航を可能とする次世代の動力を活用したVLS搭載潜水艦の保有についての政策を推進する》
VLSとはミサイルの垂直発射システムで、次世代の動力とは原子力推進を意味する。つまり、原潜保有が今の政権与党間で約束されているのだ。海上自衛隊潜水艦「はやしお」艦長、第二潜水隊司令を歴任した元海将で、現在は金沢工業大学虎ノ門大学院教授の伊藤俊幸氏はこう言う。
「原潜の話が出てきたのは、VLS(垂直発射装置)による抑止力の兼ね合いからです。我が国はSSBNすなわち、核弾弾道ミサイル搭載原潜は持てません。しかし今、反撃能力として開発された射程1000kmを超える12式改対艦ミサイルが発射できる「水中発射型垂直発射装置の研究試作」について、防衛装備庁が川崎重工と先月11月に随意契約をしました。つまりVLS搭載型潜水艦を作ることが検討されているということです。
7月に行われた有識者会議の場で、『その場合通常型ディーゼル潜水艦で大丈夫なのか?』と議論になり、次世代動力としての原潜の話が出たということのようです」(伊藤氏)
実際に、日本は原潜を作ることができるのだろうか?
「三菱重工と川崎重工は潜水艦を作っていますから、原潜建造を念頭に置いた技術力はあります。しかし、まず原潜用のコンパクトな原子炉を作らなければなりません。
潜水艦に詳しく、その著書もあるフォトジャーナリストの柿谷哲也氏がこう言う。
「海自の呉基地の隣には、日本製鉄所の広大な跡地があります。多くの障壁を超え、さまざまな手順を踏まないと原潜建造は難しいですが、ここに原潜を造る工場と基地は作れます。
目標は22隻の攻撃型原潜を作ること。大鯨型の建艦があと7年で終わり、8年後から原潜建艦を開始すれば、早くて2035年には1号艦原潜ができます。
米国にとっては、イージスシステムのあとの高額目玉商品として、原潜はいいビジネスになります。さらに、初期必要な訓練については、今、オーストラリアで米国が実施している原潜乗員訓練があります。ここに、日本も参加すればなんとかなります」(柿谷氏)
海中自衛隊、潜水艦部隊の現場から原潜を見るとどうなるのだろうか。元海上自衛隊潜水艦「はやしお」艦長の伊藤俊幸元海将はこう言う。
「今年、太平洋に中国空母艦隊の二部隊が日本南方海域に来ました。6月7日に空母『遼寧』が南鳥島を、6月8日に空母『山東』が沖ノ鳥島周辺で戦闘機の発着訓練をしたのです。太平洋戦争の末期、東京大空襲がありましたが、まさにその中国空母艦隊が航行していた南方海域から米軍爆撃機が飛んできたのです。
あの辺りの太平洋を抑えられると日本本土は南から容易に空襲されてしまいます。しかし、空母二隻が日本の第二列島線を挟んで所在し、しかも海自哨戒機が危険な目にあったが全く話題にならない。防衛省は当然わかっているでしょうが、少々心配ですね」(伊藤氏)
2025年6月、中国空母から発艦する艦載戦闘機に向けてスクランブル発進すべき空自戦闘機は、この両島付近にいた中国空母艦隊には届かなかった。唯一、海自のP1対潜哨戒機だけが中国空母艦隊を追跡したが、要撃(待ち伏せての攻撃)で発艦した中国戦闘機との交戦は不可能だった。
「なぜもっと議論が起きないのが不思議です。なにしろ、あの南方海域には米軍との関係から空自の防空識別圏が設定されていません。つまり、日本自らそのエリアを防空する概念がないのです。『日本は南方空域を自ら守る』という思考過程を根本から変える時期に来たのだと思います。
このように空域を日本が守れないのであれば、第一列島線と第二列島線との間に所在する中国空母艦隊と対応するためには、せめて海中領域を守る必要があり、有識者会議の思考過程とは違いますが、長時間潜航し長距離を高速で活動可能な原潜を保有する必要があると私は考えます」 (伊藤氏)
さらに南鳥島近海には膨大な量のレアアースがあり、中国が見逃すはずがない。広大な西太平洋を防衛するために、日本は原潜が必要なのだ。しかし、米国在住の北村氏は異なる意見を持つ。
「日本近海の海の地形には海峡部がたくさんあり、中国艦艇は全てそこを通ります。
だから、海自の潜水艦を隠れ忍んで待ち受ける"スナイパー"にして、身を晒さず、じっと耐えて待つ。その戦法には、リチウムイオン電池で動くディーゼル潜水艦が最適です。今、海自には22隻ありますが、これを50隻に増やすべきです」(北村氏)
原潜ではなくディーゼル潜水艦を増やし、第一列島線周辺の海峡部で太平洋に抜け出る中国艦艇を待ち伏せするのだ。
海自最新鋭ディーゼル潜水艦「たいげい」。リチウムイオン電池を使用。全長84m、3000t、水中速力20ノット
「たいげい」発令所。全ての機器はデジタル化されているが、秘密保持のために電源は入れられていない
「たいげい」のディーゼル機関室。鮮明な写真を柿谷氏が撮影可能。米原潜で原子力機関室は撮影禁止。公開されている写真も鮮明ではない。秘密度は格段に高い
いまの海中自衛隊のディーゼル潜水艦では、中国空母艦隊に対応はできないのだろうか?
「配備するのに非常に時間がかかりますが、小笠原諸島の父島には海自父島基地分遣隊があり、そこに潜水艦用の物資を置けばディーゼル潜水艦を運用できなくはない。
ただ、待ち伏せだけでは抑止力が弱い。中国からすれば、広大な太平洋地域にいるかもしれないというだけではほとんど影響力がありません。しかしもし原潜ならば、中国空母艦隊を常時追尾し続けることができる。相手からすれば、自分たちの情報を常時取られていると思うと抑止力になる。中国空母艦隊には日本が造った原潜なら探知できないでしょうから。
だから、第一列島線の日本列島周辺を守るだけならばディーゼル潜水艦でいい。しかし、中国艦隊が第一列島線を越えて、第二列島線の間に出てくる場合、そこには日本の拠点(島)がないから原潜で賄うしかないのです」(伊藤氏)
野球の守備に例えるならば、内野の一~三塁のベース=島がある海域は、ディーゼル潜水艦で守る。ベースのない外野=島のない第一列島線と第二列島線の間は原潜に任せるのだ。
その原潜の隻数はどれくらい必要なのか?
「原潜1隻を運用するには、ドックで整備、訓練、実任務、3隻は必要となります。2隻実任務で配備とすると、計6隻の原潜が必要です。
第一列島線は今あるディーゼル潜水艦が担当する。
しかし、北村氏はこう言う。
「原潜は海自の予算と人員を食い潰し、存在を危うくします」(北村氏)
最新の米海軍攻撃型原潜バージニア級は一隻6000億円、乗員125名もの予算と人員が必要だ。一方で海自のディーゼル潜水艦「たいげい」は一隻700億円、乗員70名。つまり、原潜はディーゼル潜水艦の約10倍の経費と2倍の人員が必要となるのだ。
「世界の潜水艦の連中は、リチウムイオンで動く日本のディーゼル潜水艦は最高だと言っています。だから、日本の政治家たちは動力源だけを取り換えれば、原潜ができると思っているのでしょう。しかし、そう簡単に作れるものではありません。
重要なのは『何のために使うのか?』です。北米大陸沿岸に海防は必要ないので、米海軍はディーゼル艦を造らず、原潜だけにしました。もうひとつの目的は、出航してすぐに潜航し、日本近海までそのまま来られるため。つまり、遠くに行くために原潜にしています。
だから、日韓が多数のディーゼルボート潜水艦を持ち、米海軍が原潜と役割分担をしているのです」(北村氏)
確かに、北米を出た米海軍原潜が向かう西太平洋に、日韓の多数のディーゼル潜水艦がスナイパーとして潜伏していれば、心強い。
しかし、日本としては心細い。「原潜」という言葉を発した途端に、原子力→原発のイメージとなり、多方面から「福島原発事故を忘れたのか?」という声が飛来することも容易に想像できる。
伊藤氏は別の角度からこう言う。
「米海軍は、原潜と原子力空母を70年間以上運用して、致命的な事故は一度もありません。それを可能にしたのは『壊れる事を前提に管理する』という安全哲学を制度化し、科学的思考に基づいた管理体制です。その仕組みを作りあげることで、世界最高水準の安全を手に入れました。
日本が失ったのは、まさにこの科学的思考です。しかしいま、日本国内の原発が相次いで再稼働し、日本でも壊れる事を前提に、原子力を管理する体制ができつつあります。その復活の流れが、原潜を持つ、持たないの議論に繋がればいいと思います。
そして、防衛はコストではなく投資です。原潜導入は防衛力の強化だけではなく、科学的思考を取り戻し、安全文化を再構築し、災害対応、産業発展に対する未来の投資なのです」(伊藤氏)
取材/小峯隆生 写真/柿谷哲也





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