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「脳内戦艦サナエ」の今度の相手は、中国海軍空母「遼寧」と、その艦載戦闘機JT15。非常にヤバい事態になっている(写真:新華社/共同通信イメージズ 「新華社」)

ウクライナ戦争勃発から世界の構図は激変し、真新しい『シン世界地図』が日々、作り変えられている。
この連載ではその世界地図を、作家で元外務省主任分析官、同志社大学客員教授の佐藤優氏が、オシント(OSINT Open Source INTelligence:オープンソースインテリジェンス、公開されている情報)を駆使して探索していく!

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――台湾をめぐる発言が尾を引く高市早苗首相。その発言で、現代では存在しないはずの「戦艦」というワードを使ったことでも話題になりましたが、その「脳内戦艦サナエ」の最前線が風雲急を告げています。

佐藤 だんだん冗談では済まない雰囲気になってきましたね。

――さらに高市首相とトランプ米大統領の電話会談の中での、国家機密に類する内容が報道されていました。これ、完璧にクーデターじゃないですか?

佐藤 そうです。これは、外務公務員法に違反する深刻な秘密漏洩事件として扱われるべき性質の出来事です。

――まずくないですか?

佐藤 まずいですよ。それもそうですが、12月6日に中国軍機が航空自衛隊機にレーダーを照射したところから日中のフェーズが変わったんです。

――中国空母「遼寧」から発艦したJ15艦戦が、スクランブル発進した空自F15戦闘機にレーダー照射してロックオンした件ですね。

佐藤 そうです。

――あれ、レーザー照準してミサイルのロックオンをしています。通常、ロックオンされれば相手機は逃げるのですが、空自F15はそのまま31分もの間、照射が終わるまで飛行し続けました。

まさに命懸けの空自戦闘機パイロットの防衛行動です。

佐藤 ほんとうに「レーザー照準してミサイルのロックオンをした」のでしょうか。その受け止めから疑ってかかる必要があります。他方、12月8日の朝日新聞の記事によれば、日中のホットラインが機能していないと防衛省が言っていたらしい。これは極秘で、それが通じないというのは、非常にヤバい話です。

――どういうことですか?

佐藤 その記事では、こういう表現をしています。

《日中両国政府は2023年3月、自衛隊と中国軍の偶発衝突を避けるため、防衛当局間の専用回線ホットラインを開設したが、これまで実質的に機能していない。
防衛省関係者は、今回の事案でも機能しようとしなかったとして、本来こういう時のホットラインを使いたいが、この状況では難しい。意図が確認できない中で対立が深まりますます危険だと話す》

この防衛省関係者の発言が意味するのは、ホットラインを全くメンテナンスしていないため使えないということです。これは情けない現実の告白で、要するに防衛官僚の不作為でうまくいかないっていうことなんですよ。

――兵器をいつでも使えるようにしておくのが、その方々の仕事かと思いますが?

佐藤 当然です。

さらに問題は別にあります。

このホットラインの話は、表に出しては絶対にいけない話なのにもかかわらず、「日中間で何が起こってもどうしようもない」という状況をペラペラと喋ってしまっているんです。

――それはまずい......。

佐藤 だから、本当にレベルが低すぎて話にならないんですよ。

――なぜこんなことになっているんですか?

佐藤 ボーっとしているからじゃないですか?

それから、《意図が確認できない中、対立が深まり》ということは、中国が嘘をつくかもしれない、そしてそれが判断できないということです。

――情報戦ではすでに中国が有利であります。

佐藤 とにかく、偶発的な衝突が起きたとき、大きな戦争に発展させないためにも合意を形成する最初の手段がホットラインです。それが機能していないし、相手が嘘をつくかもしれないからと、まったくメンテナンスしていない状況なんですよ。

――めっちゃヤバいじゃないですか。

佐藤 だから、何もない状態で、手探りで喧嘩をやっているのに等しいんですよね。以前の連載でも話した、グレゴリー・ベイトソンの「タコの喧嘩」に似てきましたね。言葉でコミニュケーションできないから、動物の喧嘩のようになってきている。

――暗闇の中で牙や爪が偶然相手に当たれば、獣同士はすさまじい大喧嘩になります。

佐藤 そう、いまの日中はそういう状態になっているんです。中国が国連でやっている高市首相発言の国際化よりも大きな話だと思いませんか?

――はい。脳内の話ではなく、リアルな空間の中での事実の話です。中国戦闘機の空自戦闘機へのレーダー照射、そして、ホットラインの不通。これらはリアル世界で起きていること。事態はさらに深刻になっています。

佐藤 それにもかかわらず、高市さんはレーダー照射に対して「冷静かつ毅然と対応する」と言っています。「毅然」は冷静な態度ですか? これ、感情が入っていませんか?

――入っていますよね。情け容赦なく人を殺せるときの人間の状態と同じです。

佐藤 そう、「毅然」と「冷静」が一緒に使われること自体が本来おかしいんですよ。「きれいなウンコ」みたいなことです。

――的外れですね。

それ、国家の運命がかかるやり取りの場合では、銃撃戦が始まってもおかしくないです。なんでこんな発言をしたのでしょうか?

佐藤 中国側は戦略的ですが、日本は現場対応でわからずに対応しているんでしょう。

――なんと。

佐藤 本来は、相反するようなシグナルをこういう時に出してはいけないんです。「事実を実証的に冷静に究明する」でいいじゃないですか。

――はい。

佐藤 ただ問題は、双方がなぜ真相究明を訴えないのか?ということです。お互いに「事実関係を明らかにしましょう」との協議をどうして呼びかけないのか。そこは不思議だと思いませんか?

――はい。それは、ホットラインが不通だからなのか、日本が協議をできないからなのか......。

佐藤 思いつかないんじゃないですか。

――それって、能力がないのに一生懸命動いている人たちの話じゃないですか? 日本維新の会のときの話を思い出しますね。

佐藤 はい、そういうことになってしまいますね。

――なぜ、世界で一番優秀なはずの日本官僚がそうなってしまったのですか?

佐藤 それは私にもよくわかりません。

――戦争になるかならないかの瀬戸際ですよ。

佐藤 だから、普通じゃないことが起きていることだけは確かなんですよ。こういった偶発的な事態が起きたとの処理が、もう全然ダメなんです。

――日本を救うために発進した「脳内戦艦サナエ」。後方の官僚は何も手を出せないというのか......。日本の官僚は基本性能を発揮できないF1カーですか?

佐藤 いや、仮免を取ったばかりの人が、鈴鹿サーキットでレースしている感じですね。

――カーブを曲がり切れずに壁に激突、爆発炎上じゃないですか。

佐藤 そう、ヤバいんですよ。

次回へ続く。次回の配信は2025年12月26日(金)予定です。

取材・文/小峯隆生

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