『有吉の壁』10周年記念座談会 "狂気と本気"の制作現場――...の画像はこちら >>

(左から)横澤俊之プロデューサー、とにかく明るい安村、パンサー尾形貴弘

「TT兄弟」「KOUGU維新」「京佳お嬢様と奥田執事」......数々のヒット作を生み続けてきた『有吉の壁』が、ついに10周年。特番から始まり、コロナ禍を乗り越え、今や芸人たちのホームとなった番組の軌跡を、初回から番組を作り上げてきた、とにかく明るい安村、パンサー・尾形貴弘、横澤俊之プロデューサーが振り返る!

*  *  *

【レギュラー化の収録で「これが続いたら死ぬ」】

――『有吉の壁』が10周年を迎えた今のお気持ちは?

尾形 めちゃくちゃうれしいですよ、そりゃ! まさか10年も続くと思わなかったですもん。

売れっ子芸人ばかりだし、スタッフさんも多いし、準備も大変だし、お金もかかるし。だから俺のギャラが安いんですよね!?

横澤 そんなこと僕に言われても困りますって(苦笑)。先に言っておくと、「10周年」と銘打ってお祭り騒ぎしてるんですけど、特番で5年、レギュラーで5年なんです。

ただ、レギュラー化すること自体がヤバい番組なので、レギュラー放送で5年も続いたのがすごいなと思います。

安村 確かに(笑)。特番なら準備する余裕がまだあるけど、レギュラー放送の5年間は隔週の収録ですからね。

横澤 レギュラー1発目の収録が"聖地"の熱海(初回特番のロケ地)だったのですが、「一般人の壁」「大喜利」「ご本人登場選手権」「ブレイク芸人選手権」の4つを一気に撮影したんですよ。

尾形 うわ~、そうだそうだ。

安村 やりましたね。 

横澤 で、その日にレギュラー出演者の方々に「隔週で収録をお願いします」と伝えたら、帰り際に皆さんに「このメンバー全員、毎回出るんですか......?」って。きっと「これが続いたら死ぬな」って思ったんでしょうね(笑)。

尾形 そりゃ思いますって!(笑)。

特番で年に1、2回やる感じだと思ってましたもん。

初期の頃を思い出すと、俺の中では"全員敵"みたいなバチバチなイメージがありましたね。当時パンサーは競輪番組しかレギュラーがなかった頃で。そんな中、『壁』はめちゃくちゃお笑いだったし、近い年代の芸人も多かったから「絶対(ぜって)ぇ負けねえ!」と思って臨んでいました。

あと、有吉(弘行)さんが「おかわり」って言って俺らを追い込むんです。「次に回ってくるまでに違うネタを考えろ」って。初回の熱海で俺がやった「バッグマン」(全身にバッグをまとったヒーロー)なんて小学生みたいなネタじゃないですか。あれも、急遽(きゅうきょ)その場にあるバッグをかぶったりはいたりして必死にひねり出したネタですから。

安村 有吉さん、そういうの好きだからなあ(笑)。当時の僕は「安心してください、はいてますよ」のネタでテレビに出始めた頃で、めちゃくちゃ忙しかったんですよ。

そういう時期っていろんな番組に行くから髪型を変えたりするべきじゃないんですけど、「逆に今、坊主にしたらウケるんじゃないか?」と思って初回でやったのが、バリカンで自分の髪を刈る「逆モヒカン」なんです。

尾形はよくスタッフさんと揉めてるけど、そのときだけは俺もケンカしましたね。

「これをやりたい」「それだと別の人とかぶるから、ちょっと違う方向で」みたいなやりとりから、「サンシャイン池崎さんに髪を刈られるのはどうですか?」「それだと俺の手柄じゃなくなる!」って揉めて(笑)。でも、揉めたのはそのときだけ。尾形はよく揉めてるけど。

『有吉の壁』10周年記念座談会 "狂気と本気"の制作現場――今なお進化し続ける、その核心とは?「芸人もスタッフも 『有吉さんを笑わせるにはどうしたらいいんだろう?』って必死」
熱海で行なわれた初回の特番ロケで、髪を逆モヒカンにそった、とにかく明るい安村。出演者もスタッフもこのボケで番組の光明が見えたという

熱海で行なわれた初回の特番ロケで、髪を逆モヒカンにそった、とにかく明るい安村。出演者もスタッフもこのボケで番組の光明が見えたという

尾形 俺ばっか揉めてるわけじゃないですって!(笑)。いいケンカですよ、いいケンカ。

横澤 前向きな話し合いですよね(笑)。芸人さんもスタッフ側も「有吉さんを笑わせるにはどうしたらいいんだろう?」って必死なので。

【レギュラー化の決め手は「東京ってすごい」】

――放送開始から10年。変わらないことはありますか?

安村 オープニング収録前の寒空の下で、(佐藤)栞里(しおり)ちゃんと有吉さんが来るのを15分ぐらい待つのはずっと変わってないですね(笑)。

尾形 確かに(笑)。

安村 俺、裸だから冬は地獄なんですよ。

尾形 あと、収録の最後に安(村)さんがむちゃぶりをする「エンディングの安村さん」もですよね。あそこのためだけに新しく別のキャラを考えてやるって変態ですよ(笑)。けど、もう皆が楽しみにしちゃってるっていう。

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収録の最後に恒例となっている、とにかく明るい安村がその日の参加芸人にむちゃぶりをする「エンディングの安村さん」はHulu限定だが人気のコンテンツ

収録の最後に恒例となっている、とにかく明るい安村がその日の参加芸人にむちゃぶりをする「エンディングの安村さん」はHulu限定だが人気のコンテンツ

安村 でも、『Hulu』でしか見られないんだよな。エンディングのキャラが一番悩む時間が長いのに(笑)。

横澤 「一般人の壁」が始まると芸人さんが散り散りになるので、最初と最後の集まる時間を重要視してるんです。それこそ、スタッフでロケ地を検討しているときに、どんなに良さそうな施設でも「すみません。ここ、オープニングとエンディングが撮れそうな場所がないです......」って断念することまであって(笑)。

でも、おかげさまでいろんな場所を利用させていただいたので、休みの日に家族で遊びに行くと「ここ『壁』で来たな」ってよくなります。

安村 あるある(笑)。ほかの番組のロケでも「あれ、どっかで......。あ、『壁』か」ってなります。

――10年間で転機となったネタはありますか?

安村 それで言うと「ブレイク芸人選手権」でやった「東京ってすごい」(2019年10月放送。安村が「東京ってすごい♪」と歌って踊るネタ)になるのかな。

朝からいろんなコーナーを収録した日の最後の最後だったから本当にしんどかったんですよ。そのときもバリカンで半端に髪を刈った状態だしね。

尾形 あれ最高でした! 笑いながらちょっと泣けるみたいな。

横澤 その場にいた芸人さんがめっちゃ泣いてましたね。 皆、疲れてたんでしょうね。

安村 放送された後、「あのネタやってください」って何度かほかの番組に呼ばれたんだけど、なんの背景もなくあのネタだけを切り取ってやっても死ぬほどスベるわけですよ。やっぱりあの日の流れが大きかったんだって痛感しましたね。疲労困憊(こんぱい)の中であれをやったっていう。

横澤 あの回は反響も視聴率もすごく良くて。放送のすぐ後に編成部に呼ばれて「水曜19時でレギュラー化どうだ?」と言われてびっくりしたのを覚えてます。

安村さんのネタはそれくらいインパクトがあったんですよ。

尾形 安さんのネタでレギュラーが決まったんですって!

安村 ......はい(照)。

尾形 「そんなことないです。皆の努力です」とか言ってくださいよ! 

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「ブレイク芸人選手権」で披露された「東京ってすごい」は、スタジオにいた芸人全員が泣きながら笑ったという伝説のネタ。このネタがレギュラー化の一因に

「ブレイク芸人選手権」で披露された「東京ってすごい」は、スタジオにいた芸人全員が泣きながら笑ったという伝説のネタ。このネタがレギュラー化の一因に

安村 だって「ブレイクアーティスト」は本当に大変なんだもん。楽曲は番組に作ってもらうけど、「設定」「キャラ」「歌詞」「踊りの振り付け」を考えて、覚えて、歌わなきゃいけない。

でも、そんだけやってクリアしても1ポイント。片や「一般人の壁」で大人数のネタにちょっと参加した芸人も「○(マル)」が出れば1ポイントなんですよ。年間の最多ポイント獲得者を狙うにはコスパが悪すぎる!

尾形 しかも、安さんの出番はいつも最後だしね。

安村 そう。だから毎回、賞レースと同じぐらい緊張する。

尾形 僕もめちゃくちゃ緊張します。

だって有吉さんが見てんだもん。あの人はサボってる芸人を一発で見抜くから。

安村 ほんと怖いよ。ネタを準備しているとき、俺らは子供ウケなんてまったく気にしてなくて、「有吉さん、これ笑うかな」ってことしか考えてないよね。

【有吉さんひとりの力で番組が10年続いた!?】

――スタッフのすごさを感じる瞬間はありますか?

安村 この番組って毎回先を行ってますよね。日本武道館でやった1発目の「ブレイクアーティスト」のライブが盛況で、その後にいろんな番組が大きな会場を押さえてライブをやるようになったイメージがあるんですよ。『ゴッドタン』(テレビ東京系)は別にしても、バラエティの企画を映画化することもそうないじゃないですか。

尾形 確かに! あと「ジャンボ尾形」の人形を作ってくれたりとか、マンネリ化しないようにいろいろ仕掛けてくれるから毎回楽しいですね。

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制作に200万円かけたジャンボ尾形人形も番組の名物。「でも、もう有吉さんは飽きてきているし......」とパンサー・尾形本人は今後の使い方に悩んでいる様子

制作に200万円かけたジャンボ尾形人形も番組の名物。「でも、もう有吉さんは飽きてきているし......」とパンサー・尾形本人は今後の使い方に悩んでいる様子

――逆に不満は?

尾形 不満とかないけどなあ。あ、レゴランド(2023年3月放送の「一般人の壁」)の弁当はヤバかった!

安村 あったね。皆で冬の早朝からレゴランドに行って、そこで出た弁当がもうカッチカチに硬かったんだよね。

横澤 番組史上、最もスタッフが反省している一件ですね......。注文した弁当を誰かが冬の屋外に野ざらしにしていて。芸人さんもスタッフも全員が無言でカチカチのご飯を食べていた記憶があります。

安村 それで有吉さんが「あいつら朝からやってんのに、こんなのを食わすな!」って怒ったんですよ。

尾形 あの人、普段はムチばっかりなのにときどきそういうアメを出してくるんだよなあ。その次の回からガラッと変わって、カップラーメンとかもあったりして。今は皆、ニコニコで食べてます。

『有吉の壁』10周年記念座談会 "狂気と本気"の制作現場――今なお進化し続ける、その核心とは?「芸人もスタッフも 『有吉さんを笑わせるにはどうしたらいいんだろう?』って必死」
『有吉の壁』(日本テレビ系)毎週水曜夜7時~放送

『有吉の壁』(日本テレビ系)毎週水曜夜7時~放送

安村 俺は不満も何も、この番組に救われた身ですから。いろいろあってテレビの仕事がなくなった時期、この番組だけは出してくれて。「お笑いやってる人」でいられたのは『壁』のおかげです。

尾形 今、一番芸人っぽい番組ですしね。この前、とある制作会社のADさんが「自分を含めて同期全員が『壁』に携わりたくて業界に入った」って言ってて。

横澤 えぇ~!

安村 マジで!? すごっ。

尾形 夜中に小道具を準備したりとかいろいろ大変だと思うんだけどなあ。

安村 文化祭の準備みたいなイメージなんだろうね。

尾形 そんな感じでした。けどそれも芸人、スタッフさん、作家さん、全員がワンチームで頑張ってきたからこその反響ですよ。だから、10年も続いたんじゃないですか。

安村 ......いや、有吉さんひとりの力じゃない?

尾形 ちょっと! 今、きれいにまとめたのに!

安村 だって、それまで俺とか尾形みたいな芸人はスベった瞬間に「はい、ダメ」って一蹴されてきたんですよ。けど、有吉さんは絶対に見捨てない。それこそパンサーの向井(慧/さとし)をイジる人なんかいなかったじゃん。

尾形 ......確かに。『壁』でイジられてから「向井も面白い」ってなったし、菅(良太郎)の面白さを世間に広めてくれたのも有吉さんだわ。

安村 タイム(マシーン3号)さんもそうだしね。見捨てられてきた芸人の別の一面を引き出して、ことごとく復活させてるんですよ。だからこそ、有吉さんに見られるのが一番緊張感がある。

横澤 有吉さんの「壁」を越え続けようとしてるのはスタッフも同じで。一回やったことは有吉さんにすぐに飽きられちゃうだろうから、必死になってライブだったり映画だったりと新しい何かを仕掛けていくんです。それが結果的に視聴者の方や芸人さんを楽しませるものになると信じて頑張ってます。

『有吉の壁』10周年記念座談会 "狂気と本気"の制作現場――今なお進化し続ける、その核心とは?「芸人もスタッフも 『有吉さんを笑わせるにはどうしたらいいんだろう?』って必死」
Ariyoshinokabe07.jpgあ来年1月16日(金)から3週間限定で全国公開される『有吉の壁 劇場版アドリブ大河「面白城の18人」』(同時上映『京佳お嬢様と奥田執事』)。主演はとにかく明るい安村と蛙亭・イワクラが、監督は有吉弘行が務めあ

Ariyoshinokabe07.jpgあ来年1月16日(金)から3週間限定で全国公開される『有吉の壁 劇場版アドリブ大河「面白城の18人」』(同時上映『京佳お嬢様と奥田執事』)。主演はとにかく明るい安村と蛙亭・イワクラが、監督は有吉弘行が務めあ

――「アドリブ大河」の映画化はまさにその一環ですか?

横澤 そうですね。まだ僕らもどんな内容になるかわかりませんが(苦笑)、おのおのがアドリブで演じたことを基に映画を作る予定です。

安村 僕が主演を勝ち取りました! ただ、オーディションで適当に言った生い立ちとかを「あれってどういう意味なんですか?」って執拗(しつよう)に問い詰められて困ってます。

スタッフさんが「こっちも物語を作らなきゃいけない」と迫ってくるんですけど、勝手にやらせといてそれはないって! ちなみに尾形は過去の「アドリブ大河」で有吉監督に「もうおまえのシーン終わってるから」と強烈なひと言をもらってるので注目です。

尾形 怖いなあ(笑)。けど、めちゃくちゃ楽しみでもあります。この映画に『壁』が詰まってるだろうから。

安村 スパルタ監督の有吉さんの作品だからね。ぜひ楽しみにしていてください!

●パンサー 尾形貴弘 Takahiro OGATA 
1977年生まれ、宮城県出身。特技はサッカーで、仙台育英高校在籍時には背番号10番のレギュラーとして活躍。2008年に菅良太郎、向井慧とパンサーを結成。パンサーは2024年の『有吉の壁』総獲得ポイント第1位に輝いた(95ポイント)

●とにかく明るい安村 Tonikakuakarui YASUMURA 
1982年生まれ、北海道出身。2015年に全裸風ポーズ&決めぜりふ「安心してください、はいてますよ」で一世を風靡。2023年に英オーディション番組『ブリテンズ・ゴット・タレント』で世界的にヒット。同年、『有吉の壁』優勝(有吉が独断と偏見で決定)

●横澤俊之 Toshiyuki YOKOZAWA 
1984年生まれ、埼玉県出身。日本テレビプロデューサー。『有吉の壁』のほかに『ZIP!』『高校生クイズ』など。『有吉の壁』では「ブレイクアーティストLIVE」「カベデミー賞 THE MOVIE」などを企画・プロデュース。「京佳お嬢様と奥田執事」の脚本も担当

取材・文/鈴木 旭 撮影/鈴木大喜

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