「角田選手にとって重要なのはこれから。来季はワークス勢が優勢...の画像はこちら >>

「26年シーズンで個人的に一番注目しているのはレッドブルです。彼らがどんなPUをつくってくるのかというのは技術者として興味があります」と語る浅木氏

2025年シーズン、日本のF1ファンの大きな注目を集めたのはマックス・フェルスタッペン選手のチームメイトとしてレッドブルから参戦した角田裕毅(つのだ・ゆうき)選手だった。

しかしファンの期待に反して、最高位は6位にとどまった。ドライバーズ・ランキングは17位に終わり、今季限りでレッドブルのレギュラーシートを失うことになった。

2026年シーズンはマシンのレギュレーションが大きく変わり、GMやアウディなど新たなチームが参戦する。新時代に突入するF1で角田選手の今後は? アストンマーティンと組んでワークス復帰を果たすホンダの動向は? 現在のホンダ・パワーユニット(PU)の生みの親である元ホンダ技術者の浅木泰昭(あさき・やすあき)氏に話を聞いた。

* * *

【フェルスタッペン優先は正しいエンジニアリング】

――今年は角田裕毅選手が第3戦の日本GPからレッドブルに移籍しましたが、結果的には過去のフェルスタッペン選手のチームメイトと同様に結果を残せませんでした。浅木さんはレッドブルと一緒に仕事をしてきましたが、なぜレッドブルのセカンドドライバーは本来の力を発揮できないと考えていますか?

浅木泰昭(以下、浅木) フェルスタッペン選手は異様に強いですし、レッドブルはその飛び抜けた能力を持っているドライバーが勝てるマシンを一生懸命につくっています。それはある意味、正しいエンジニアリングだと思います。

それでも角田選手の能力をもってすれば、フェルスタッペン選手に勝てないにしても、マシンを乗りこなして何度か表彰台に上がってくれるんじゃないかという期待はあったわけですが、結果的にうまくいかなかったということだと思います。

とはいえ、トップチームのマシンに乗れたことは角田選手にとって良かったと私は考えています。レーシングブルズに残留したままだったら、もしかしたら表彰台に上がっていたかもしれません。今年のマシンはすごく競争力がありましたからね。

でもレッドブルのマシンに乗るチャンスが目の前にあるのに、「嫌です」という選択肢はないと思います。

なぜなら表彰台の真ん中に立とうとしたら、レッドブルに乗るしかないのは明白だからです。ドライバーとして勝つチャンスを逃すという選択はあり得ません。

チャレンジした結果、ダメだったのは仕方ないと思います。そもそもレッドブルのようなトップチームで走るチャンスすら与えられないドライバーが山ほどいるわけですから。レッドブルでの経験をこれからどう生かしていくのか、ということが角田選手にとっては重要だと思います。

「角田選手にとって重要なのはこれから。来季はワークス勢が優勢か」。元ホンダ技術者・浅木泰昭が2025年のF1を徹底総括!!(後編)
角田裕毅選手はレギュラーシートを失い、レッドブルのテスト兼リザーブドライバーとなる。そのため2026年シーズンのF1は6年振りに日本人不在となる

角田裕毅選手はレギュラーシートを失い、レッドブルのテスト兼リザーブドライバーとなる。そのため2026年シーズンのF1は6年振りに日本人不在となる

――レッドブルは2026年、角田選手に代わってアイザック・ハジャ選手をレギュラードライバーとして採用することを発表しました。角田選手はシートを失い、テスト兼リザーブドライバーを務めることになります。

浅木 角田選手とは長期にわたってつながりがあったので、2026年のレギュラーシートを失ってしまったことはとても残念です。でもシートがなくなったからといって、ドライバー人生が終わりというわけではありません。

かつてレッドブルに在籍していたピエール・ガスリー選手やアレックス・アルボン選手らの活躍を見ると、角田選手も「まだまだやれる」と思っているはず。

それにホンダがF1にいる限り、また声がかかる可能性もないとは言えません。

何らかの形で生き残って、新たなシートを確保することを期待したいですね。

【PUの出来が勝負の鍵を握る】

――2026年は車体とパワーユニット(PU)のレギュレーションが大きく変わります。年が明けて1月下旬から2月中旬にかけて3回のテストが実施され、3月のオーストラリアGP(決勝3月8日)で2026年シーズンが開幕します。各メーカーのPUの開発状況はどんな段階なのでしょうか?

浅木 年内はウインターテストに向けて必要なPUを仕立てている段階だと思います。おそらくホンダの場合はテストで実走する前にアストンマーティンのファクトリーでPUに火を入れて、水回りやオイル回りがきちんと作動するかのチェックを行なうと思います。

それに合わせて何基のPUをいつまでに発送しようかとスケジュールを組んでいる段階でしょう。

――各メーカーは開幕戦で使用するPUをどのタイミングまで開発しているのですか?

浅木 それは各メーカーの新しいPUの開発度合いによって変わってくると思います。もし競争力が上がる技術が見つかっていたら、それを新しいPUに入れるために開幕の本当にギリギリまで開発を続けるでしょう。

逆にすでに十分に競争力があるPUを開発できていると感じているのであれば、ウインターテストがターゲットになるでしょう。各メーカーはテストでチェックしたい項目は山のようにあるはずなので、そこで致命的な問題が出なければ、そのままの仕様で開幕戦に向けてPUを送り出すことになると思います。

「角田選手にとって重要なのはこれから。来季はワークス勢が優勢か」。元ホンダ技術者・浅木泰昭が2025年のF1を徹底総括!!(後編)
新しいマシンレギュレーションが投入される2026年は新たにGMとアウディが参戦。ホンダはアストンマーティンと組み、レッドブルは自社で開発したPUで参戦するなど、各チームの体制は大きく変わる。写真は最終戦アブダビGPのスタート

新しいマシンレギュレーションが投入される2026年は新たにGMとアウディが参戦。ホンダはアストンマーティンと組み、レッドブルは自社で開発したPUで参戦するなど、各チームの体制は大きく変わる。
写真は最終戦アブダビGPのスタート

――現行のマシンレギュレーションの最終年だった今シーズンは各チームのタイム差がほとんどありませんでした。その状況は新しいマシンレギュレーションが導入される26年はリセットされ、PU開発に成功したメーカーと失敗したメーカーの間に大きなタイム差が生まれることになると言われています。

浅木 そういうイメージを私も持っています。もちろんPUだけじゃなく、車体側の影響も大きいと思います。PUと車体の両方を当てたチームはダントツに速い可能性はあります。

PUだけ当たって車体は外れ、逆にPUは外れだけど車体は当たり、というケースもあるかもしれません。何が起きるのかわからないので、2026年シーズンは面白いですね。

【26年シーズンはワークス勢が優勢か】

――まだテストも始まってないので予想するのは難しいですが、2026年シーズンはどのチームがチャンピオン争いをすると思いますか?

浅木 ワークス勢が強いと思いますが、特にメルセデスですね。現行のPUのレギュレーションが導入された2014年に非常にうまく対応し、彼らは14年から21年までコンストラクターズ・タイトル8連覇を達成した実績がありますからね。その再現を狙っていると思います。

アストンマーティン・ホンダも化けてほしいですが、車体設計を手掛けるエイドリアン・ニューウェイさんが新しいマシンの開発にどれぐらい関わって、ホンダもどんなPUをつくっているのかもまだ見えてないので何とも言えません。でも当然、期待はしますよね。

これまでのニューウェイさんとホンダの実績を見ればそこそこのところに来るはずですが、過去の実績通りにならないのもF1の面白いところだと思います。

――ホンダと別れ、新たにフォードと提携し自社で開発したPUを搭載したマシンで戦うレッドブルはどれぐらい活躍すると予想していますが?

浅木 個人的に一番注目しているのはレッドブルです。彼らがどんなPUをつくってくるのかというのは技術者として興味がありますし、レッドブルがどうなるかってことは、フェルスタッペン選手がどうなるかってこととセットで見る必要があります。

フェルスタッペン選手が引き続きレッドブルに残留してもいいと思えるほどのマシンの出来になるのか、それともアストンマーティン・ホンダやメルセデスなど他チームに移籍したいと思うぐらいの失敗作になるのか。

レッドブルがフェルスタッペン選手を引き止められるかどうかというのは、2026年シーズンの大きな見どころで、チャンピオン争いの行方も左右することになるでしょう。まずは年明けのテストでどんなパフォーマンスを見せてくれるのか、そこを注目したいですね。

●浅木泰昭(あさき・やすあき) 
1958年生まれ、広島県出身。1981年、本田技術研究所に入社。第2期ホンダF1、初代オデッセイ、アコード、N-BOXなどの開発に携わる。2017年から第4期ホンダF1に復帰し、2021年までPU開発の陣頭指揮を執る。第4期活動の最終年となった2021年シーズン、ホンダは30年ぶりのタイトルを獲得する。2023年春、ホンダを定年退職。

現在は動画配信サービス「DAZN」でF1解説を務める。著書に『危機を乗り越える力 ホンダF1を世界一に導いた技術者のどん底からの挑戦』(集英社インターナショナル)がある。集英社のスポーツメディア「webスポルティーバ」でコラム「F1解説・アサキの視点」を毎月2回(10日と25日の前後)配信中。

インタビュー・文/川原田 剛 写真/桜井淳雄(F1) 樋口 涼(浅木氏)

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