日本有数の映画ガイド・高橋ヨシキが新作映画をレビューする『高橋ヨシキのニュー・シネマ・インフェルノ』。〈針〉と〈糸〉で運命を切り開く "お裁縫"クライムサスペンス!* * *
『世界一不運なお針子の人生最悪な1日』評点:★3.5点(5点満点)
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© Sew Torn, LLC

針と糸を使った仕掛けの数々が楽しい

「タイムループもの」というとやや語弊があるが、本作は『ラン・ローラ・ラン』や『バタフライ・エフェクト』などに連なるジャンルの作品で、すなわち、物語の展開が主人公の決断によって大きく変わるさまが、事件を反復する形で描かれる。

主人公の若い女性はある日、互いに大怪我を負ったドラッグの密売人と取引相手が人気のない一本道に転がっているのに出くわす。

近くにはコカインの塊と、見るからに大事そうなスーツケースが落ちている。

大金を奪って逃げるか、警察に通報するか、それとも何も見なかったことにしてやり過ごすか。

面白いのは、常識的な判断をしても私利私欲に負けても事態が常に悪い方向にエスカレートするところで、その苦境を脱するために、彼女のお針子としての腕前が活かされることになる。

「針と糸だけを使ってどれだけのことが可能になるか?」というのが本作の見どころで、その仕掛けの数々を見ているだけで楽しくなる。

「サスペンス」の語源は「宙吊りにする」という意味のラテン語だが、本作は糸を使ったトリックで観客を「宙吊りに」し、手繰り寄せた糸の先に何が待ち受けているのか、期待と不安でワクワクさせてくれる作品なのだ。

STORY:スイス⼭中の⼩さな町でお針⼦をするバーバラ。⺟を亡くし、友⼈も恋⼈もいない。ある⽇、店に戻る途中、⿇薬取引の現場に遭遇。売人たちは血まみれで倒れ、道には破れた白い粉入りの袋と拳銃、大金が入ったトランクが落ちていた

監督:フレディ・マクドナルド
出演:イヴ・コノリーほか
上映時間:100分

全国公開中

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