「絶滅種も含めて、私たちに一番近いのがネアンデルタール人だからです」と答える篠田謙一氏
ひろゆきがゲストとディープ討論する『週刊プレイボーイ』の連載「この件について」。分子人類学者で国立科学博物館長の篠田謙一先生をお迎えしての第4回です。
篠田先生は、なぜネアンデルタール人を研究しているのか? 化石のDNA検査などに間違いはないのか? 化石が捏造される可能性はないのか? 人類学に関する疑問を篠田先生に聞きました!
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ひろゆき(以下、ひろ) これまでネアンデルタール人の話を聞いてきましたが、素朴な質問として、なぜネアンデルタール人を研究するんですか? 普通は自分たちホモ・サピエンスの研究から入りそうじゃないですか?
篠田謙一(以下、篠田) 人類学の最大の命題は「私たちは何者なのか」を明らかにすることです。ただ、その何者かを調べようとすると、必ず何かとの比較が必要になります。例えば、「人間とは何か」を知るためにゴリラやチンパンジーと比べる研究者がいます。「チンパンジーの社会はこうだけど、人間の社会はこうだから、われわれの本質はここにある」というアプローチですね。現生種で私たちに最も近いのが類人猿なので、まずはそこから調べるわけです。
ひろ それが最近はネアンデルタール人になった、と。
篠田 ゲノム解析ができるようになって大きく変わりました。絶滅種も含めて、私たちに一番近いのはネアンデルタール人です。だから「彼らと比較してみよう」ということになったんです。
ひろ じゃあ、遠くない未来に「私たちは何者なのか」という問いの答えがわかるかもですね。
篠田 今後、研究が進めば「ホモ・サピエンスの本質はこれだ」とか「なぜネアンデルタール人は滅び、私たちホモ・サピエンスは今、世界に80億人もいるのか」という説明はできるんじゃないですかね。
ひろ ゲノム解析を使った研究をもっと加速できないんですか? というのも、技術的・理論的にはネアンデルタール人のDNAからオルガノイド(ミニチュア臓器)を作って、最終的にはネアンデルタール人そのものが作れる。
篠田 でも、もしかすると、それがAIでできるかもしれないですよね。
ひろ なるほど! コンピューターシミュレーションでできるかもしれない。
篠田 ゲノム情報をAIに読み込ませて、「この遺伝子配列を持つ生物は、どういう形態になり、どういう脳の働きをするか」を予測させます。現状ではAIに学習させるための基礎データが足りないのでまともな予測はできません。ですが、データを蓄積していけば、そういうシミュレーションは可能になる気がします。
ひろ ひょっとすると人類史が大きく変わる可能性もありますよね。
篠田 ええ。そもそも生物学という学問自体が、この数十年でまったく変わってしまいました。だから20年、30年後には違う人類史が見えてくるかもしれません。
ひろ 新しい研究結果も出てくるでしょうしね。
篠田 実際にそういう動きはあります。
ひろ そんな大発見が、約3ヵ月前に起きてたんですね。
篠田 これが人類学の宿命的なところなんです。重要な化石がひとつ出てくるだけで、それまでの考え方を全部変えなきゃいけない場合がある。
ひろ そう考えると、これまでの定説をガラッと変える新発見は今後も出てきそうですね。ちなみに、今研究を進めるためのカギになっているDNA検査自体が間違ってる可能性ってないですか? 日本でも9月に、警察がDNA検査で嘘の書類を作っていたケースがあったじゃないですか。
篠田 「間違っている」には2種類あります。ひとつはヒューマンエラー。DNA研究はまだ初期段階にあるので、全ゲノムを比較する手法も完璧に確立されているわけではありません。結論にブレが出る可能性はあるでしょうね。
ひろ でも、洞窟で見つかった親指の骨とかでDNA検査をするわけですよね。そういう検査ができる研究者は限られているので、捏造してもバレない可能性はある。バレなければ大発見をした功績で富と名声が手に入るかもしれない。ぶっちゃけ誘惑は強いんじゃないですか?
篠田 人類学でも実際に捏造された例は過去にあるんです。有名なのは「ピルトダウン人事件」です。
20世紀初頭にイギリスで偽造された化石が「人類の祖先」として発表された事件。でも、研究データが増えてくると、捏造された化石だけがほかのデータとの整合性が取れず、全体の説明がつかなくなってくる。そうなると「あの化石はおかしい」と研究者たちが指摘するようになり、最終的には捏造が明らかになっていく。
ひろ 日本でも自分で用意した石器を地中に埋めて、それを掘り起こした捏造事件がありましたよね。
篠田 日本では骨の捏造まではやっていませんが、「旧石器捏造事件」(2000年)は大きな問題になりました。
ひろ マスコミに出る前であれば、自浄作用が働いていたかもしれないんですね。そうすれば、日本中を揺るがすスキャンダルにはならなかったかもしれない。
篠田 そうなんです。これは学界にとって非常に不幸なことでした。研究者同士で「あのデータは明らかにおかしいから、分析対象から外そう」という議論ができたはずなんです。あの事件のダメージはものすごく大きかった。
ひろ あの事件のせいで、「これまでの研究のどれを信用して、どれを信用しちゃいけないのか」という見極めからやり直さなきゃいけなくなりましたからね。
篠田 結果的に、関連する遺跡の成果を全部検証し直すことになった。捏造というのは人類学に限らず、サイエンスの世界全体が抱えている問題ですね。
ひろ なるほど。
篠田 そうなんですよ。だからこそ面白いんです。今、私たちが「こうだ」と言っていることも、10年後には修正されているかもしれない。でも、それがサイエンスの本質です。間違いを恐れずに仮説を立て、検証し、間違っていたら修正する。その繰り返しです。
ひろ その姿勢こそが、科学の信頼性を支えているわけですね。
篠田 そのとおりです。だからこそ、私たちはこれからも「人間とは何者なのか」という問いに、真摯に向き合い続けていかなければならないんです。
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■西村博之(Hiroyuki NISHIMURA)
元『2ちゃんねる』管理人。近著に『生か、死か、お金か』(共著、集英社インターナショナル)など
■篠田謙一(Kenichi SHINODA)
1955年生まれ。分子人類学者。国立科学博物館長。主な著書に『人類の起源』(中公新書)、『日本人になった祖先たち』(NHKブックス)など。2026年2月23日まで、東京・上野の国立科学博物館では特別展「大絶滅展」が開催中
構成/加藤純平(ミドルマン) 撮影/村上庄吾
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