「異議あり!」ウーバーイーツ組合委員長として人生初の証人審問...の画像はこちら >>

ウーバーイーツユニオン執行委員長として証人審問を受けました

連載【ギグワーカーライター兼ウーバーイーツ組合委員長のチャリンコ爆走配達日誌】第131回

ウーバーイーツの日本上陸直後から配達員としても活動するライター・渡辺雅史が、チャリンコを漕ぎまくって足で稼いだ、配達にまつわるリアルな体験談を綴ります!

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この連載のタイトルに「ウーバーイーツ組合委員長の」とある通り、私はウーバーイーツの配達員で結成したウーバーイーツユニオンという団体の代表(執行委員長)をやっています。

そして現在、ウーバーイーツの運営側と「この団体は労働組合法上の労働組合なので、団体交渉に応じてください」といった趣旨の争いをしています。

労働系の争いごとについてのシステムは以前「『ウーバーイーツユニオン』執行委員長が明かす、ゆるい組合活動の実態」でも書きましたが、とにかく結果が確定するまで時間のかかるシステムです。

現在は中央労働委員会というところで争っているのですが、私が証人として審問を受けることが決まり、12月19日に出頭。あれこれ陳述してきました。

今回は当日の審問の様子や審問前の出来事について書いていこうと思います。

2023年に中央労働委員会での争いが始まってから2年。こちら側と運営側双方で証拠や陳述書などを提出して審査を行なってきました。その中で新たな報酬制度が登場するなど、契約やシステムがいろいろ変わったので、そのあたりを証言しようということで、24年にこちら側が配達員2人の証人申請を、運営側も2人の証人申請を出しました。

そして書面での審査をおおむね出し切った、25年9月29日の中央労働委員会の審査の際、12月19日13時から私の審問を行なうことが決まりました。時間は主尋問と呼ばれる私たち側の弁護士による質問が30分、反対尋問と呼ばれる運営側の弁護士による質問も30分。また、もうひとりの配達員の審問もこの日にあり、時間配分は私と同じとなりました。

自分たちはどんな主張をしたいのか、また、運営側からはどんな質問が来るのかなどをみっちり対策するのだろうなと思いつつ、質問をする弁護士の先生と最初にリモートで打ち合わせをしたのが、審問1ヵ月前の11月18日。

この場でウーバーイーツの働き方やシステムについて話をしたり「『週プレNEWS』というウェブサイトで連載をしていて、そこにシステムや配達員用アプリの画面のスクリーンショットなどを掲載しています」といったことをしゃべったりして、1時間弱で打ち合わせが終わりました。

その後、私の話した内容やこの連載を読み込んだ先生が質問案を作成。12月に入ってから3回ほどシミュレーションを重ねました。興味深かったのは、このシミュレーションは私ではなく、弁護士の先生のためのものであるということ。

30分以内にどれだけ質問が出来るのか、この人はどんな質問をしたらどう答えるのかをあれこれ調整。一方私は聞かれたことを思ったままに答え続けるというものでした。ライターの仕事でインタビューをすることも多いので、弁護士の先生の「質問調整力」は大変参考になるものでした。

そして審問当日。私の審問の前に運営側の証人の審問もあったので、早めに中央労働委員会へ。ちなみに、審問を行なう審査室は法廷のような作りとなっています。

傍聴席でその様子を見ていると、私に主尋問を行なう弁護士の先生が、向こうの証人の発言や弁護士の質問を真剣な表情でメモをとっています。この席での証言は「証拠」となるわけですから、真剣なのは当たり前ですが、こちらは聞かれたことを答えればいいだけなので、のんきなものです。

運営側の審問後、お昼休みに。

時間が30分ほど伸びたので、私の審問は予定より30分遅い14時から始まることになりました。

審査室から出ると、担当の弁護士の先生に「最終調整をさせてください」声をかけられたので控室へ。運営側から審問前日に届いた証拠もあったため、弁護士の先生は忙しいのですが、私は聞かれたことをただ答えるだけ。なんだか申し訳ない感じです。

開始5分前に審問室の証人席へ。テーブルの右隅には国会で議員の名前が書いてある氏名標のような黒いものに白い文字で「証人」と手書きされたものが置かれ、緊張感が漂います。そして14時から審問が始まりました。

質問が始まる前に住所、氏名の確認ののち、起立してテーブルに置いてある宣誓書の読み上げ、その後着席し、宣誓書にサインをして、中央労働委員会の担当の方に渡します。

そして質問がスタート。まずはこちら側の弁護士の先生が質問する主尋問から。証拠などを示されつつ行なわれる、こちら側の弁護士の先生からの質問は、当日に内容をいろいろ変更したのでシミュレーション通りではありませんでしたが、ただ答えればいいだけなのでスムーズに進み、30分があっという間でした。ただ、私の席で証拠を提示する弁護士の先生の手元からは緊張感が伝わりました。

主尋問が終わると、すぐに運営側からの反対尋問がスタート。当初は30分の予定でしたが、委員長である私にいろいろ聞きたいことがあるのか、私への質問が40分、もうひとりの配達員は20分となりました。

私がこの団体の委員長であること、現在ライターの仕事をしていることなどを確認後、向こうの弁護士の先生が切り出してきたのは......。

「あなた、ウーバーイーツの配達について週刊プレイボーイでいろいろ書かれていますよね」

なんと、私が配達体験をまとめたものを見せてきたのです。

「読んでいただき、ありがとうございます!」

思わず大きな声でお礼を言うと、運営側やこちら側の弁護団の先生方だけでなく、傍聴席や中央労働委員会の職員の方々、そして裁判でいうところの裁判長的なポジションの公益委員の方からも笑い声が。

面白いことを言ったつもりはまったくなかったのですが、中央労働委員会の審問という場、そして反対尋問という、どんな質問が飛んでくるのかわからない状況が極度な緊張状態を生み出しているのでしょう。よく「笑いは緊張からの緩和で起こる」と言われますが、本当にそうなんだと実感しました。

ひと笑いがあった後、記事についてこんな質問が。

「連載記事を毎週掲載しているということは、それなりの生活をしているでしょう」

どうやら、毎週掲載の記事を書いているのであれば、ウーバーイーツの配達なんてネタ集め程度で、この連載の記事を書くだけでかなりの高収入を得ていると考えての質問のようです。

そこで現実を突きつけると、いろいろ用意されていた資料をひっこめて「では、次の質問に行きます」と、質問が変わりました。

証言席で発言したことは記録、公開されるので、ライターの仕事でもらえるお金について公開するのはNGだと思い、公益委員の方に今回の争いに関係ないことから、金額についての発言は伏せるように伝えました。

その後、ウーバーイーツの働き方についての質問が。

「あなたは団体交渉や労災について求めているようですが、ウーバーイーツの働き方が1日8時間労働になることについてどう思いますか?」

の「なることについて」ぐらいのところで、こちらの弁護団からで大きな声が!

「異議あり! 我々は労働基準法に基づく労働組合を求めているものではない!」

その後は、こちら側の弁護団と運営側の弁護士が丁々発止。あまりのエキサイトぶりに私が「あの、今は私にいろいろ質問する時間ですよね」と言って、場を収める動きをしたほどでした。

その後もピリピリした雰囲気が続き、反対尋問は終了しましたが、こちら側からの追加質問で運営側の弁護士から「明らかな誘導尋問だ!」と大きな声が上がり、再び場がピリつきました。ですが、そこは公益委員の方がうまく収めてくれ、公益委員の方をはじめ、各委員からの質問を受けて審問が終了しました。

証人席に座ったら手汗が止まらないほど緊張するのではと心配しましたが、人生初の審問に少しの緊張はあったものの、頭が真っ白になることも、動揺することもなく、冷静に質問に答えることができました。

今年で50歳。人生初となる体験をすることが少なくなる中、このような体験が出来て、とても面白かったです。

ちなみに、審問席にはメモ帳や録音機材を持ち込めないので、ここに記したやり取りは私の記憶に基づくものです。なので、細かいニュアンス、正確なやりとり関しては今後中央労働委員から出される速記録をご確認ください。

文/渡辺雅史 イラスト/土屋俊明

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