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井上尚弥と中谷潤人。世紀の直接対決を控えた両雄が12月27日、サウジのリングに立つ!

2026年5月、東京ドームでの決戦が予定される絶対王者・井上尚弥と無敗の挑戦者・中谷潤人。

その前哨戦とも言えるリヤドでは、ふたりの闘いのどこに注目すべきか? ボクシング界に吹く新たな風が頂上決戦に与える影響とは? 格闘技に詳しいスポーツライターの布施鋼治氏が斬り込む。

【ふたりの仕上がりに世界が注目】

「中近東のエンターテインメントが盛り上がっていますね。ドバイの観客には、今の日本にはない落ち着きを伴った熱気を感じました」

そう語るのは、2025年10月23日、アラブ首長国連邦(UAE)の都市ドバイで行なわれた寝技格闘技の対抗戦QUINTET(クインテット)で、自ら率いるダンスユニット「WORLD ORDER」のパフォーマンスを披露した元参議院議員の須藤元気氏(現K-1プロデューサー)だ。

もともとUAEでは格闘技が盛んで、総合格闘技団体のUFCが現地のアブダビ文化観光庁と正式なパートナーシップを結び、多くの大会を開いている。

ここ数年は隣国のサウジアラビアも格闘技のビッグイベント開催に熱心。その核になっているのがリヤド・シーズンだ。これは同国の首都リヤドで毎年開催されるエンターテインメントの祭典で、スポーツ、芸術、ゲームなど幅広いジャンルを網羅している。

とりわけボクシングのビッグマッチの開催が目立ち、24年5月には報酬総額が224億3000万円を超えたといわれる興行もあった。

そもそもサウジアラビアは世界第2位の石油生産国。巨額のオイルマネーを背景にした政府主導の投資によって、未曽有のファイトマネーが生み出されているのだ。

24年11月には〝モンスター〟井上尚弥(大橋)が、推定総額30億円でリヤド・シーズンと複数年にわたる大型スポンサー契約を結び、話題を呼んだ。

その契約に現地で試合をしなければならない条項はないといわれているが、軽量級でもほかの海外のプロモーターでは不可能な金額を提示したからなのだろう。

25年12月27日、井上は米ラスベガスに続くビッグイベントの聖地になりつつあるサウジのリングに立つ。

リヤド・シーズンの一環として行なわれる興行で、井上はアラン・ピカソ(メキシコ)を挑戦者に迎え、4団体の世界スーパーバンタム級王座の防衛戦に臨む。

井上尚弥vs中谷潤人を占う"前哨戦"リヤド・シーズンの注目ポイント
2025年1月24日、世界4団体統一王座防衛戦でキム・イェジュン(韓国)に4RKO勝利した井上尚弥。27日にはどんなパフォーマンスを見せてくれるのか

2025年1月24日、世界4団体統一王座防衛戦でキム・イェジュン(韓国)に4RKO勝利した井上尚弥。27日にはどんなパフォーマンスを見せてくれるのか

また、井上との頂上決戦を控える世界3階級制覇王者の中谷潤人(M.T)も同興行で、WBC世界スーパーバンタム級9位のセバスチャン・エルナンデス(メキシコ)とノンタイトル10回戦で拳を交わす。 

中谷同様、エルナンデスは20戦20勝(18KO)といまだ無敗の強豪だ。中谷にとってはスーパーバンタム級転向後の1戦目となるため、そのパフォーマンスに注目が集まる。ボクシングでは1階級違うだけでも、動きの切れ、スピード、パワーに大きな違いが出てくる。

ボクシングアナリストの増田茂氏は「ウエイトの適応力はどんなものなのか」という部分にフォーカスを当てる。「ひと回り大きくなった体をどれだけ操れるのか。

もしかしたらパワーは増強されている一方で、新しい穴(弱点)が見つかるかもしれない。こればかりは実際にリングに立ってみないとわからない」

井上尚弥vs中谷潤人を占う"前哨戦"リヤド・シーズンの注目ポイント
2025年6月8日、WBC・IBF世界バンタム級王者統一戦で西田凌佑(六島)に6RTKO勝利し、頂上決戦への駒を進めた中谷潤人

2025年6月8日、WBC・IBF世界バンタム級王者統一戦で西田凌佑(六島)に6RTKO勝利し、頂上決戦への駒を進めた中谷潤人

一方、井上は23年7月25日のスティーブン・フルトン(米国)戦以降、着実にキャリアを積んでおり、この階級でのファイトでは大きなアドバンテージがあるだろう。「この階級で両者が闘えば」という目線で見れば、リヤドがさらに面白くなることは確実だ。

そして、これまでの両者のファイトスケジュールを振り返ると、リヤド・シーズンの次戦は26年5月の東京ドームが既定路線。井上vs中谷戦はよほどのアクシデントがない限り不動だ。

「ここ数年、井上、中谷共に前年最終試合から少なくとも4、5ヵ月はインターバルを空けて、年間2試合が平均となっていた。井上は25年1月にキム・イェジュン(韓国)戦を行なったが、これは前年12月の試合が延期されたための例外的措置だった」(増田氏)

ということは、26年5月に予定される直接対決を占う意味で、やはり今回の一戦は前哨戦として重要な意味を持つ。ちなみにある海外のブックメーカーの試合予想では、ふたりとも圧勝というデータが出ている。

リアルファイトの世界の一寸先は闇とはいえ、日本のファンが大喜びするような豪華なKOの共演が見られるのか。

【ボクシング業界で起こる新たな動き】

普通に考えたら、闘いの舞台はリヤド・シーズンから東京ドームへということになるだろう。だが、事はそう簡単に運びそうもない。

25年12月11日、総合格闘技では世界最大規模のUFC社長を務めるデイナ・ホワイト氏が手がけるプロボクシングの新プロモーション、「ズッファボクシング」のスタートが発表された。旗揚げは26年1月23日を予定している。

ボクシングの老舗メディアRINGでのインタビューでホワイト氏は、ズッファについて従来のボクシング界の価値観を一変させるような発言をしている。

「最強が最強と闘う。

ランキングを上げていき、誰かがトップ5に入れば、その階級の最強5人が誰なのかは疑う余地がなくなる。

さらに彼らが闘い、勝者がベルトを手にする。そのベルトの前に3文字(団体名)がつく必要はない。それを持つ者が、その階級で世界最強なのだ。これは非常にシンプルなモデルだ」

当然、ボクシング界の既存の組織は反発。WBOはIBFと結託して対抗する趣旨の声明を出した。とはいえ、ズッファの動きは水面下で進行しているようだ。

ズッファ寄りといわれている4団体統一王者・テレンス・クロフォード(米国)は、25年10月上旬の来日時、RIZINの榊原信行CEOとランチを楽しんだ。

引退報道もあるが、彼の行動は何を意味するのか。RIZINは過去にフロイド・メイウェザー(米国)やマニー・パッキャオ(フィリピン)を招聘し、直接対決直前までこぎ着けた手腕がある。そしてUFCとの太いラインもある。

さらに気になるのは、ホワイト氏がタッグを組む人物だ。

その名はトゥルキ・アラルシク氏。サウジアラビア総合娯楽庁の長官で、リヤド・シーズンでボクシングのビッグマッチを実現させたキーパーソンだ。井上がリヤドと巨額の契約を結んだ今、彼がマッチメークに影響力を持つ可能性は十分にある。

結ばれていく点と点。ボクシング業界が様変わりする可能性もあるのか? 5月に予定される東京ドーム決戦までボクシング界の動向から目が離せない。

■「THE RING V: NIGHT OFTHE SAMURAI」Leminoで独占生配信予定!
サウジアラビアで開催されるエンタメの祭典「リヤド・シーズン」が主催するボクシングイベントを、LeminoがPPV(ペイ・パー・ビュー:個別課金をしてライブ作品を視聴するサービス)で配信予定。豪華日本人選手6人が出場する

取材・文/布施鋼治 撮影/ヤナガワゴーッ!

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