50th Happy Birthday SEKINE号
個人的なことだが12月22日に50歳になった。気づけばもう後戻りの効かない年齢だ。
【オリジナルヘッドマークは3万円で作成できる】
パッと思いついたのはJR九州の「ななつ星in九州」やJR東日本の「TRAIN SUITE 四季島」といった豪華クルーズトレインだが、1泊2日で軽く50万以上。残念ながらそれに見合う大人にはなれなかった。
あれこれ考えた結果、列車に誕生日祝いのオリジナルヘッドマークを付けてもらうことにした。ヘッドマークとはその名の通り列車の愛称名がデザインされた看板で、昔の特急にはほぼもれなく付いており、小さい頃はヘッドマークのシールをよく集めていたものだ。
機関車の先頭についていた「さくら」と「富士」のヘッドマーク
夢のような企画を叶えてくれるのは静岡県にある天竜浜名湖鉄道。費用はヘッドマークの作成で1枚28,000円。そこに掲示期間がプラスされ、1日だと2,000円、7日で7,700円、30日で33,000円。思っていた以上にリーズナブル。
問い合わせしたのは2ヶ月ほど前。12月22日の当日がOKということで、制作のお願いをする。ただ、デザインはこちらで作らないといけない。
ということで、かつて週プレでマンガ『よんぱち+』を描いていた田辺洋一郎先生にお願いすると二つ返事でOK。さすがフットワークの軽いマンガ家だ。ヘッドマークを印刷するのに2週間から1ヶ月ということで、3週間ほど前にイラストデータを納品。完成イメージを確認し、実際の制作に取り掛かってもらうという流れだ。
完成したヘッドマークは走行前日の車両が休んでいるタイミングで付けるとのこと。せっかくなのでその作業も特別に見学させてもらうことにした。
【天竜浜名湖鉄道はレトロな風景にエヴァンゲリオン?】
天竜浜名湖鉄道の天浜線は掛川から浜名湖の北側をぐるっとまわって新所原までの67.7kmを走る。もともと戦時中に日本の大動脈である東海道本線の万が一を想定し、バイパス路線として日本陸軍の要請で1935年に国鉄二俣線として開業。そんな経緯もあり、沿線住民はあまり多くなく、国鉄が民営化された際に、JRに引き継がれず、地元が運営する第三セクター鉄道として1987年に再スタートをきった。
車両基地にはよく見ればロンギヌスの槍が!
ヘッドマークを付ける車両基地のある天竜二俣駅には、東京から東海道新幹線に乗って掛川駅で下車。そこから1両のディーゼルカーでトコトコ向かう。
揺られること50分、天竜二俣駅に到着。ちょうど隣のホームに停まっていたのエヴァンゲリオンのラッピングトレイン。なぜこんな場所にと思うかもしれないが、天竜二俣駅は「シン・エヴァンゲリオン劇場版」の「第3村」のモデルになった場所。駅にはグッズが売られ、この日もファンらしき人がちらほら。
エヴァンゲリオンのラッピングトレイン
オリジナルヘッドマーク企画の担当者である天竜浜名湖鉄道の五十川さんに話を聞かせてもらった。
「昔からイベントでヘッドマークは作っていたのですが、一般向けにはやってなかったんです。数年前に地元企業からの依頼で貸し切り列車を走らせる際に、ヘッドマークも付けられないかと相談があり、やってみたら好評でした」
もしかしたらヘッドマークだけでも希望する人がいるんじゃないかと、3年ほど前からひっそりとホームページで募集を始めたそう。
「最初の依頼はボーカロイドのファン。
気になるのはヘッドマークのデザイン。依頼者まかせで変なモノになったりしない?
「基本的には鉄道好きな人が依頼するので、ダメなものはわかっているし、今までNGを出したことはないですね」
ヘッドマークを付けられる車両は6両ほどあるが、常に何かしら付いているという人気企画だそう。
事務所で実際のヘッドマークを見せてもらった。直径60センチと聞いてはいたが、思っていた以上に大きい。そして持ったら軽い。ヘッドマークといえば鉄で作られた重いものをイメージしていたが、アルミ複合板でできているとのこと。
車両基地に行って取り付けるシーンを見せてもらう。今回ヘッドマークが付くのはTH2100形の2104号車。ラッピングはされておらず、原色のままというレアなもの。五十川さんが車両正面のドアを開け、紐を通し、ささっとしばりつけていく。手慣れたもので、5分もかからずに完成。
手際よくヘッドマークを付けていく
ついに「SEKINE号」のお披露目だ! といっても、時刻表に載るわけじゃないし、いつもの車両にヘッドマークを付けただけ。
【「SEKINE号」出発進行!】
12月22日の誕生日当日、天竜二俣駅6時53分発、新所原行きが「SEKINE号」の一番列車。駅の近くに宿がなく、この時間に来れる公共交通機関もないので、朝5時に起きて40分ほどかけて浜松からレンタカーでやってきた。この日は冬至ということで、1年でいちばん日が短かく、まだ薄暗い。
出発直前の「SEKINE号」
ホームに着くとすでに入線しているので、写真を撮りまくる。運転士はなぜ平日の早朝から鉄オタがと思ったかもしれないが、そのヘッドマークは自分です。
車内に入ると乗客が2名、自分の誕生日を祝うために集まってくれたと思うことにする。座る場所はもちろん最前! お誕生日席と言っていいだろう。定刻でディーゼルエンジンがうなりをあげ出発。新所原までおよそ1時間半の誕生日パーティだ。
途中駅に到着するたびにお客さんが乗り込んでくる。「パーティへようこそ。
最前席からヘッドマークごしの浜名湖
おもむろに車内を行ったり来たりするが、乗客はスマホを見るか、寝ているか。ちょいと浮かれたおじさんを見る人なんていない。
終点の新所原駅には8時24分に到着。「僕のために運転ありがとう!」心のなかで運転士にお礼を言い下車。何はともあれ大満足だ! すぐに折り返しと思いきや、この日は運用の都合で17時38分までしばらくお休み。
乗車したのは延べ23人。こんなたくさんの人に誕生日を祝ってもらったことないと思い込み、しばし感慨にふけっていると、ベンチには男子高校生軍団。変なイジリをされたら嫌なので、そそくさと改札の外へ出た。
ちなみにヘッドマークは2枚作って前後に付けることもできるが、新所原方面の1枚だけにしておいた。
引上線でのんびり夕方までお休み
取材・文・撮影/関根弘康
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