この太平洋戦争末期の国策映画が「脳内戦艦サナエ」の主砲となるか!?(写真:国立映画アーカイブHP)
ウクライナ戦争勃発から世界の構図は激変し、真新しい『シン世界地図』が日々、作り変えられている。この連載ではその世界地図を、作家で元外務省主任分析官、同志社大学客員教授の佐藤優氏が、オシント(OSINT Open Source INTelligence:オープンソースインテリジェンス、公開されている情報)を駆使して探索していく!
* * *
――高市早苗首相の台湾有事を巡る国会答弁を機に悪化している日中関係。
この騒動が始まったころ、最大の敵は国内にあると以前佐藤さんはおっしゃっていましたが、現状でも日本の官僚機構や自民党に「もっとちゃんと仕事して下さい」とお願いすることから始めるのですか?
佐藤 もはやそういう段階ではありません。前回も言いましたが、中国軍機が12月6日に航空自衛隊機へレーダーを照射したことでステージが変わったのです。
戦争にならない様にするにはどうするか?というスピンコントロール(情報操作)が必要です。
――お願い詣(もうで)ではないと。
佐藤 いまの政府には戦略や態勢を整える余裕はなく、目の前に起きていることを払いのけるだけで精一杯だと思いますよ。
――火の粉を払うとは作戦でも戦術でもなく、もはや一番下の戦闘技術の問題ですね。
佐藤 そう、戦技の問題です。塹壕(ざんごう)に突っ込んできた敵兵の銃剣をどう外すか、そんな白兵戦(兵士・歩兵による近接戦闘)のようなものですよ。
――超近接戦闘です。しかし、空戦の場合は50~150kmと長距離からのレーダーによるロックオンから始まります。レーダーミサイルの撃ち合いが発生する危険性を孕(はら)むので、偶発的な空戦からの撃墜もあり得ます。
佐藤 そうしたら否応なく、戦争となってしまうでしょうね。
――その場合、いまは中国と仲良くしたい米国はまず助けてはくれず、日本だけやられて終わりではないですか?
佐藤 はい。そうなる危険も十分あります。
――日本の場合は自衛隊になりますが、一般的になにかあった時は、まずは軍同士の知り合いで連絡を取り合い、「あれ、どうなっているんだ?」と現状確認してから話し合いが始まり、まず戦争にはならない。しかし、いまの日中間にはそれがないんですよね。
佐藤 ありませんね。ホットラインが機能していないと防衛省が漏らしたようですからね。
――外交チャンネルと言われるインテリジェンス世界も機能していないのですか?
佐藤 それは細々とは機能しています。しかし、これだけ事態がグチャグチャになると、なかなか大変なんですよ。
――すると、しばらくは火の粉を避け、本当に戦争にならないように幸運を祈るだけですか?
佐藤 祈りが一番重要です。
――なんだか脳内戦争が、信仰の世界に突入してしまったかのような......。
佐藤 脳内で起きていることなので、ゆえにでき得ることは祈りしかありません。
――念力!!
佐藤 念力でこの戦争を迂回するんです。
――それは自民党が得意ではないですか。全員で念じれば選挙もうまくいくと。自民党全体で「日中が戦争になりませんように」と念じれば、なんとかなるんですか?
佐藤 なるんじゃないですか。
――絶対に違うと思いますが......。先日、この連載記事が首相官邸に到達しました。この記事がもし各国の大使館から母国語に翻訳されて送られた場合、「大変だな、この念力というのは。どうなっているんだ?」となりませんか? 念力という概念は外国でも通じるんですか?
佐藤 アフリカでは日常的にそのような「力」を経験しているので、わかりやすいんじゃないですか。
――いやいや......。
佐藤 アフリカでは「やっぱりな」「確かに念力はあるよ」となるんじゃないですか。
――アフリカで日本が見直されると。
佐藤 一応、念力は英語で「テレキネシス」ですから通じるでしょう。
――それはSF映画の世界です。これ、現実の話ですよ!
佐藤 あとは「サイコキネシス」とか。
――それもアニメやマンガの世界であります!!
佐藤 あとは「ウィルパワー」ですね。
――ああ、もはや世も末です。
佐藤 やっぱりこれは念力ですね。それで解決するしかありません。
――そのですね......日本国内の念力はあるとして、中国側に念力はあるんですか? 孫子の兵法を通読したことがありますが、念力を含んだ戦法はなかったですよ。
佐藤 はい。しかし、日本に関していままでの戦法では無理ですね。念力を入れ込まない限り、解決はしませんよ。
――AIに聞いても『孫子の兵法は、あくまでも人の心の動きを戦略的に利用する方法が中心となっており、念力のような神秘的な力ではありません』と言っています。
佐藤 なるほど、孫子が役に立たないということですね。
――あ、考え方を変えると、中国の孫子の兵法に念力戦法がないのであれば、日本の「脳内戦艦サナエ」は中国に勝てるかもしれない?
佐藤 そうです。だから映画『かくて神風は吹く』の世界ですよ。
――昭和19年に作られた国策映画ですね。
佐藤 はい、敗戦が濃厚になった太平洋戦争末期に製作された作品です。その中で発せられた、元寇(げんこう)で勝利した鎌倉幕府の執権・北条時宗のセリフが参考になります。
《心をもって、皇御国を守らんとする、これらの赤誠、天に通ず。
4000余りの敵舟を一夜のうちに覆滅し候。
これ、皆、伊勢におわします皇祖神霊の御神業。
ただ、有難き御国柄と申すより、他に言うべきことはない。
しかして、万民尽くが、力を合わせ、大君の為に御国のために立ち上がろうとするならば、必ずや、皇神神霊の御加護があり、第二第三の国難
日本国を襲おうとも、何を恐るるに足らん》
――これ、第二の国難が太平洋戦争で、第三の困難がこの日中脳内戦争ということですか?
佐藤 はい。
――つまり、「皆で祈ればその念力で日本は守られる」ということですか?
佐藤 ありがたいことですよね。
――確かにそうなんですが、太平洋戦争は敗戦であります。神風は吹かなかったのでは?
佐藤 え?
――あっ、昭和天皇は退位されずに国体は護持(ごじ)されましたね。神風は吹いたんですね。すると、今回も神風待ちでしばらく事態を眺めるのですか?
佐藤 そうです。事態の鎮静化には、冷却期間が必要です。そのためにはまず、双方の見解が違っているので、実務者協議を申し入れるんです。そこで事実関係について検証するのですが、これはどうせ平行線なります。
しかし、その実務者協議をやっている間は、喧嘩は止まりますよね。だから、それで時間を稼いで、鎮静化を試みるんですよ。その間のエスカレートを防ぐわけです。
――なるほど。そして《必ずや、皇神神霊の御加護があり、第二第三の国難が、日本国を襲おうとも、何を恐るるに足らん》でありますね。
佐藤 そういうことになると思います。
次回へ続く。次回の配信は2026年1月9日(金)予定です。
取材・文/小峯隆生
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