"令和のたま"の異名を持つソロシンガーはラブホの清掃員!?　2025年最もバズったインディーズアーティスト・古山菜の花「自分がいいと思う音楽を作り続けようという姿勢は、ずっと変わらないです」

幼い頃から楽器に親しみ、音大を卒業。音楽に真っ直ぐ向き合って生きてきた彼女だが、実は、夜はラブホテル清掃員の顔も持つ。「清掃員:N」としてnoteにイラスト付きで勤務日記を更新。『ラブホテルで働くということ。』という楽曲まで作っている。

こんなにも魅力に溢れた彼女だが、バズる前はライブにお客さんを呼べず、自主制作のMVを投稿している自身のYouTubeチャンネルの登録者は100人にも満たなかったのだとか。一体、どこに潜んでいたのか？　週プレNEWSでは、彼女の生い立ちに迫った！

――出場された『音楽深化論 』の動画では、古山さんが歌い出した瞬間、みのさん、Boseさん（スチャダラパー）ら審査員の方々が一気に得点を入れるシーンがスゴく印象的でした。まさに"見つかった"という感じですが、やはり活動状況は大きく変わりました？

古山　そうですね。ありがたいことに、お声がけいただくライブの本数が桁違いに増えました。楽曲のMVを投稿しているYouTubeチャンネルがあるのですが、もともと100人も登録者がいなかったのに、今は5.6万人の方にフォローいただいていて（2025年12月現在）。あまりの変化にまだ気持ちが追いついていないです。

――いきなり注目度があがって、怖さはないですか？

古山　それはないですね。素直にうれしいです。いただいたコメントには全て目を通していますし、励みになっています。1年前には考えられなかった状況に、ただただ頭は混乱していますが（笑）。

古山　とんでもないです。でも、注目されていなかったのも当然です。めちゃくちゃ凝り性なんですよ。小学生の頃から作曲をしているのでストックはたくさんあるのですが、しっかりMVを作って、作品として完成させた状態で発表したいというこだわりが強く、一曲を出すのにかなり時間がかかってしまうんです。でも今年は、YouTubeにいくつかMVも出せたし、ファーストLP『菜の花とかいうらしい。

――今年それだけ動き出せたのは、なぜだったんでしょう？

古山　私、今年で25歳になったんです。年齢的な節目じゃないけど、親も「創作の時間を考えたら就職よりフリーターがいいんじゃない？」と音楽活動を応援してくれているのに、このままじゃいけないなって。25歳は今までと違う形で頑張りたかったんです。『音楽深化論 』に参加したのも、それが主な理由。今まで一度もオーディションに参加したことがなかったので、自分としては新しい挑戦でした。

――20代の折り返しで一念発起し、見事にチャンスを掴んだわけですね。今までオーディションに参加しなかったのは？

古山　怒られるのがいやだったんです（笑）。自分がこだわって作った音楽に対して「ここが物足らないね」なんて言われたら泣いちゃうと思って......。ずるずる避けてきました。初のオーディションに『音楽深化論 』を選んだのは、「ここでなら私の音楽をいいと思う人に出会えるかもしれない」と思ったからです。

――逆に不安はなかったですか？　身近なアーティストが参加しているオーディションで結果が及ばずだったら......みたいな。

古山　もしここで「物足らないね」と言われたのなら、「本当に何かが足らないんだろうな」と素直に受け入れたと思います。そのうえで、たとえ売れなくても、響く人が少なくても、私は自分がいいと思う音楽を作り続けようと、改めて思ったはずです。

――やりたい音楽ができなければ意味がない？

古山　そうですね。売れるに越したことはないけど、やりたい音楽をやるという目標は見失いたくない。逆に言えば、注目していただき目まぐるしく環境が変わった今も、音楽を作る姿勢に変わりはないです。そもそも器用じゃないので、自分がいいと思うものしか作れないのですが（笑）。

古山　Aho-Electronicsは高校時代の友人と結成した五人組バンドで、2019年頃から活動しています。実はソロよりバンド歴のほうが断然長いんですよね。

――バンド自体はもう8年目になるんですね。古山さんにとって、ソロ活動とバンド活動はどう違うのでしょう？

古山　バンドはメンバー同士スゴく仲がいいですし、とにかく楽しいです。それでも、やっぱりソロ活動は特別です。バンドのメンバーに自分の強いこだわりを押し付けるのは違うと思うし、自分が本当にやりたいことは、ソロでこだわり抜いてやるべきだと考えているので。いずれにせよ、両方できている今がとても幸せですね。

――小学生の頃から曲作りをされているとお聞きしました。かなり早熟な気がするのですが、やはり子供の頃から音楽が身近にあったんでしょうか？ 

古山　そうですね。両親ともに音楽好きなんです。父親は昔バンドをやっていて、今はPA（音響整備）の仕事に就いていて。休みの日は家でよく楽器を演奏していました。実際、家の中では常に音楽がかかっていて、楽器もたくさんありました。

母親も幅広く音楽を聴く人で。それこそ、たまの音楽にハマったのもイカ天（1989～1990年放送の深夜番組『平成名物TV』内のアマチュアバンドコンテストのコーナー『三宅裕司のいかすバンド天国』）世代の母の影響です。

――他にはどんな音楽を？

古山　これも両親の影響なのですが、『魔法使いサリー』や『キューティーハニー』といった昔のアニソンとか。父親が永井豪先生の大ファンなんです。あとは美空ひばりさんや田端義夫さんなどの演歌、フィンガー5なんかも好きでしたね。

とはいえ、昔の音楽ばかり聴いていたわけではなくて。ニコニコ動画世代なので「音MAD（既存の動画や映像を組み合わせ編集された動画）」やボカロ（ボーカロイド）も人並みに触れてきましたし、インターネットを入り口に、マキシマム・ザ・ホルモンやゆらゆら帝国などのバンドにもハマりました。母親がTHE BAWDIESのファンで、一緒にライブを観に行ったこともあります。

――結構幅広いですね。

古山　洋楽はあまり詳しくないのですが、ビートルズは好きです。あと、大好きなバンドであるザ・50回転ズのライブのSEで聴いて以来、ドクターフィールグッドも聴くようになりました。

――MVを拝見すると、古山さんは絵もお上手ですよね。絵を描くのも子供の頃からお好きだったんですか？

古山　好きでしたね。漫画家のゴトウユキコ先生や、イラストレーターのフクザワさんの絵柄には、かなり影響を受けている気がします。そもそも漫画を読むのも好きで。ゆうきまさみ先生の『究極超人あ～る』という作品が大好きです。あと、水木しげる先生も。『ゲゲゲの鬼太郎』はもちろん、個性豊かな妖怪、点描の世界観は堪りません。漫画に関しては、親からの影響もあるけど、インターネットで出会った作品が多いですね。

古山　全く合わなかったです（笑）。千葉県の八街（やちまた）市という田舎で育ったので、そもそも学生の数が少なくて。高校生になるまで、家族以外で音楽が好きな人に出会ったことがなかったです。小・中学校では部活に入らず、学校が終わったらすぐに帰宅して、音楽を聴いたり楽器を弾いたり。全体的に平穏な学校だったので、それが原因で変に浮くこともなかったですけど。

――最初に自分で曲を作ってみようと思ったきっかけは何だったんですか？

古山　好きなアーティストと同じことを自分もやってみたいと思ったのかな。気づいたら曲を作っていたので、具体的な心境は覚えていないです。小学校の文集に「将来の夢はミュージシャンになること」と書いてあったので、子供なりに当時から音楽を仕事にすることを意識していたのかもしれないです。

――「歌手になりたい」と書く子は多いだろうけど、実際に曲まで作っているのは古山さんくらいでは（笑）。子供が自由に絵を描くのと同じ感覚で、目の前に楽器があるから曲を作ってみよう、となったんですかね。

古山　そうですね、その感覚が近い気がします。親があまり流行り物を与えてくれなかったので、本当に趣味が音楽しかなかったんですよ。ゲームも、うちにはファミコンしかなかったし（笑）。一度、ねだってDSを買ってもらったことがあるけど、すぐに壊してしまったんです。それ以来、買ってもらえなくなりました。ゲームに関しては、飽きるのも早かった気がしますね。

――まさに"音楽しかなかった"幼少期だったんですね。話は飛びますが、高校卒業後は音大に進学されますよね。曲のストックもあるわけだし、そのままミュージシャンを目指す道もあったと思うのですが、どうしてまた？

古山　親に「大学だけは卒業したほうがいい」と言われたんです。私も、音楽活動するにはもう少し勉強が必要だと感じていましたし、どうせ大学に通うなら興味のある分野を学びたいと思い、音大に進学しました。私が通っていた学科は特殊で、いろんな専門分野の生徒が一緒になって授業を受けられる環境だったんです。ボカロPを目指している子もいれば、オーケストラに所属している子もいる。自分がノーマークだったジャンルの音楽についても勉強できたのは、今の音楽活動にも確実に活きています。通ってよかったです。

古山　もともと昼のバイトもやっていて。金銭的な理由で、ダブルワークとして始めたのがラブホテルの夜勤バイトです。勝手なイメージで、夜勤のホテルのフロント業務はそれほど忙しくないだろうと。色々応募したのですが、ビジネスホテルは英語が必須で全然受からず。唯一受かったのが、流れで応募したラブホテルだったんです。フロントは人が足りていたので清掃業務に回されたのですが、思いのほか楽しくて。昼のバイトは辞めてラブホテルに専念することに。『音楽深化論 』に出るまでは、ガッツリ週5で働いていました。

――ラブホテルの清掃って、かなり大変そうなイメージです。特殊なプレイの跡を掃除したり......。具体的に何が楽しかったんでしょう？

古山　おっしゃる通り、かなり体力仕事です。使用済みのコンドームを触るのも、汚物の処理も、だいぶ慣れました（笑）。楽しいのは一緒に働いているおばあちゃんたちですね。60代から80近い方までいて。芸能ゴシップなどの時事ネタに物申したり、お互いにボケた行動をイジリあったり、とにかく面白いんです。旦那さんが亡くなられて家でひとりという方も多く、ラブホテルが居場所になっているのを感じますね。

――「清掃員:N」としてnoteに勤務日記も更新されています。音楽の話は一切せず、ラブホ清掃員に振り切っているのが面白いですね。

古山　ありがとうございます。「ラブホでバイトしてる」と言うと、みなさん興味津々で聞いてくださるんですよ。書いたら需要がありそうだなと、noteを始めました。ライブに出ると「読んでるよ」と言ってくださる方が意外といて。今の職場が好きすぎるあまり、毎回、イラスト付きで更新しています。イメージ写真だけでは、内部の雰囲気が伝わらないと思ったので。興味がある方は是非、覗いてみてほしいですね。

古山　できる限り、続けたいですね。70代でもバリバリ働いている方がいらっしゃるのを見ると、私も、あと50年はやれるぞって思うんです。勤務中に浮かんだキーワードから曲が生まれることもあるので、意外とあなどれないんですよ。

――50年も働いていたら相当ベテランですね（笑）。音楽活動をどのように広げていきたいですか？

古山　まずは音源のリリースですね。発表するペースをあげて、もっとみなさんに色んな楽曲をお届けしたいです。あとワンマンライブもやりたい。ひっくり返せば色んなものが出てくる、おもちゃ箱みたいなライブを企画したいなと思っています。遠い目標としてはNHK『みんなの歌』に曲を書きたい。やりたいことはまだまだあるので、来年も古山菜の花をよろしくお願いします！

取材・文／とり　撮影／上村 窓