『THE SECOND』で優勝したツートライブと、本誌で「オール巨人の劇場漫才師の流儀」を連載しているオール巨人
『THE SECOND』で頂点に立ったツートライブと、50年以上、劇場に立ち続けるオール巨人が語り合う、極めた者だけがわかる漫才論。
* * *
【本当はやりたかった大会がNGを出したネタ】巨人 『THE SECOND』(以下、『セカンド』、25年5月)決勝の1本目のネタ面白かったな~。
周平魂 ありがとうございます!
たかのり わざわざ見ていただいて。
巨人 あのときの295点は決勝史上、最高得点なんやろ?
たかのり 僕らもびっくりしましたね。
周平魂 1本目は最初っからウケすぎて、逆に緊張したんですよ。僕らのネタって、序盤にウケない時間が長いんです。せやのに、ツカミでいきなりウケて。こっからいっぱいウケない話続くけど大丈夫か?と(笑)。
予選でジャルジャルとななまがりを、決勝でモンスターエンジン、はりけ~んず、囲碁将棋を破り、ツートライブが優勝を果たした
巨人 いや、出だしから面白かったんやと思うで。あの1本目の余韻で優勝まで駆け上がった感じがした。3本目は、ちょっと「あれ?」って思ったけどな。
たかのり それはけっこう言われました。「決勝は囲碁将棋がいったと思った」って。
周平魂 後半、鬼スベりしたからな。
巨人 1、2本目が面白かったから、3本目も低い点をつけようとはならなかったんやろな。1本目のネタを最後に持ってこようとか、そういうネタの順番の作戦みたいなのは立てなかったの?
たかのり もう、僕らは一戦一戦だったので。
周平魂 面白いのからぶつけていくしかない感じでした。ただ、ひとつ心残りなのは、この1年間やってきたネタの中で、ウケ始めたら止まらんっていうネタがあって。それを3本目にやりたかったんですけど、番組サイドに候補ネタを提出した段階でコンプラ的にNGが出ちゃったんです。それができたらたぶん、完膚なきまでに相手を......。
巨人 やったらよかったのに。生放送なんやから。
周平魂 いや、正直それも考えましたよ。昭和の大師匠たちやったら、ダメやと言われても、ダメと言われたからこそやらはったやろな、って。
巨人 (西川)のりおさんなんか、むちゃくちゃやっとったから。そのネタ見たかった。
周平魂 「地下相撲」っていうネタで、反社の人とかドラッグ関係のワードが出てくるんですよ。
巨人 それは劇場に行けば、見られるわけやな。
周平魂 はい。「『セカンド』でNG食らったネタなんですけどね」って始めると、バーンと盛り上がります。ただ、正直3本目のネタのときの雰囲気のほうが普段の僕らに近いと思います。僕らは2025年で結成18年目なんですけど、今回まで賞レースはダメダメやったんです。
たかのり 前半でめっちゃウケたと思ったら、後半でめっちゃスベる、みたいな。『M-1グランプリ』のときなんか、ほんまそうやったもんな。
巨人 『M-1』の最高戦績は準々決勝なんやってな。あれだけの漫才ができるコンビがなんでなん?
周平魂 2017年に初めて準々決勝まで行ったんですけど、その頃から周りの芸人は言ってくれてたんですよ。「今年はツートライブがいくんちゃう?」って。その後も、18年、19年、20年、21年、22年、23年と毎年言われて、毎年準々決勝止まりでした。
巨人 なんでやろな(笑)。
たかのり 準々決勝になるとウケないんですよ。無理やり4分に詰め込もうとするから、自分らの間でできてなかったんかもしれませんね。
巨人 漫才って不思議やけど、「この言葉いらんやろ」と思って削ると途端にウケなくなって、次にそれを戻したらウケることってあるよな。
周平魂 あります、あります。あれってなんなんですかね。僕らも言葉を削りまくっていましたから。
たかのり 周りの芸人には「同じネタやのに『M-1』になったらつまんなくなる」とか言われてましたね。あと「硬くなりすぎ」ってよう言われたな。
巨人 『セカンド』のネタ時間は少し長めの6分やろ。それが大きかったんかな。
周平魂 結果的にはそうだと思うんですけど、準備しすぎるとまた削って削ってになるので、今回は選考会の1週間くらい前までなんの準備もしなかったんです。
巨人 練りすぎるのもあかんのやろな。
【新たな工夫が優勝に導いた!】周平魂 あと、もうひとつ勝因かなと思うことがあって。優勝前の1年、初めて試してみたことがあるんです。それをやるようになってからウケが何割か増したんですよ。
巨人 何したん?
周平魂 相方にどのネタをやるか言わないようにしたんです。相方は僕が舞台でしゃべり出して初めてネタがわかるっていう。
巨人 それって相方からしたらめちゃめちゃ不安やない?
たかのり 「言うてくれよ!」って思いましたね。「どうすんの?」って。
巨人 でも、その緊張感が欲しかったんか。
周平魂 ネタを決めて入ると、出だしのところが硬くなってしまう感覚があって。その感じをなくしたかったんですよね。
たかのり 何がくるかわからないんで、ちゃんと聞いてないと合わせられないんですよ。あと、相方の言葉がよく聞こえんかったら「なんて?」って聞き返すようになったな。前までは聞こえなくてもシナリオが頭に入ってるので、そのまま聞こえたフリをして進めていたんですけど。
巨人 そういうときってお客さんも聞こえてないから、そのまま進めると話に入ってこれないんよ。
たかのり そうなんです。お客さんの心が離れていきますね。どうしても会話がわざとらしくなるし。
周平魂 この1年で、より自然な感じでしゃべれるようになりましたね。さすがに『セカンド』ではやるネタは決めてましたけど、1本目に僕がいきなり噛んで、こいつが「噛んどるやないか!」ってパーンッてツッコんでくれたんです。
巨人 ツッコミはお客さんの代弁者やからな。お客さんがふと思ったことを、反射的に言葉にしてあげなあかん。
たかのり 僕はツッコミ文化があまりない広島で生まれ育ったので、練習してするツッコミは自分の言葉じゃない感じがずっとしていたんです。
周平魂 『M-1』のときから「このツッコミ、言えへんわ」とか言ってたもんな。
たかのり でも、ネタを決めないでやるようになって、言葉に体重が乗るようになったというか、気持ちが入るようになりました。
周平魂 ツッコミというより、リアクションになったよな。
巨人 漫才はどこまでいっても嘘やからな。初めて聞いたわけやないのに毎回「えっ!」って驚いたり。言葉は悪いけど詐欺師みたいなもんやね。いかに上手に嘘をついてお客さんを巻き込むか。それこそ、ふたりは『セカンド』で何度も「本当においしい肉は硬くてまずい!」って言うてたけど、そんなわけないやん。でも、そうかもなと思わせた。
周平魂 だからウケてくれたんですかね。
巨人 そうやろ。嘘でも聞き込ませる迫力があったってことやと思う。
【4月から東京へ!「本音は行きたくない」】巨人 優勝した後の生活はどう? 変わった?
周平魂 優勝したら、帰りの大阪までの新幹線がいきなりグリーン車だったんです。やっぱり吉本興業さんはすごいなと思いましたね。「フットレストがついてる!」って。
巨人 ハーハッハッハ(笑)。仕事はどんくらい増えた?
周平魂 3倍くらいにはなってると思います。量だけでなく、仕事の質というか、内容も変わってきました。この前は新大阪から東京まで新幹線で移動して、そこからバスに乗って、計6時間くらいかけて栃木の営業に行ったんですけど、出番10分だけで帰ってきました。
たかのり 10分のために僕らをわざわざ大阪から呼んでくれるんや!と感動しましたね。
周平魂 あと番組の打ち合わせとかで、いきなり「なんのネタにしますか?」って聞かれるようになりましたね。以前だと、「こういう番組があるんですけど、オーディション参加しますか?」というパターンのほうが多かったのに。
巨人 スタート地点が何段も上がったわけやな。
たかのり 優勝前じゃ考えられないですね。
周平魂 あと『セカンド』の優勝賞金が入ったときは、さすがに震えましたね。いろいろ引かれるんで、410万円ずつだったんですけど。ただ、それはほぼ使い切りました。
巨人 何に使ったん?
周平魂 24年9月に亡くなった親父の墓と、おかんにヴィトンのバッグをプレゼントしました。バランスをとって、ふたりとも入れ物にしました。
巨人 ハッハッハ(笑)。ええ話でおもろいやん。
たかのり 僕は貧乏性なんで、でかい買い物はしてないですね。6000円の上着が1万5000円になったとか、少しだけ生活がグレードアップした感じです。
巨人 4月に東京に行くんやろ? もう一発、何かで当てないとな。
周平魂 本音を言うと行きたくないんですけどね。もうお互い42歳で、結婚して子供もいて。ただ、僕らは師匠みたいに何十年もずっと漫才をやりたいんで。将来うまくいかなかったときに、あんとき東京行っとけばよかったと後悔するのだけはイヤやったんです。この18年間、東京へ行くタイミングなんてなかったんで、行くなら今しかない。もう行くという選択肢以外はないという感覚です。
巨人 行くしかないやろ。東京で売れたら大阪の何倍も力がつくし、知名度も上がるからな。
周平魂 そうなんですよ。やっぱり有名な漫才師になりたいんです。オール阪神・巨人さんが舞台に出ていったときの拍手の厚みを見ると、やっぱり違うな、と思うんで。
たかのり あの拍手が欲しいんですよね。
周平魂 『セカンド』で優勝しても、舞台に出ていったときに「誰?」っていう状況から始まるのはそんなに変わらないんです。師匠は上方漫才大賞を4回も獲(と)っているじゃないですか。あれは最多記録なんですよね?
巨人 ツートライブもあと2年くらいで獲れるんちゃう?
周平魂・たかのり えーっ!?
巨人 ほかに誰かおる?
周平魂 『セカンド』王者の先輩でいうとギャロップさんとガクテンソクさんが獲ってないですし、あと、『M-1』王者のNON STYLEさんもまだ獲ってないんですよ。
たかのり 何組も先に獲るべき先輩が控えているんで。
巨人 そうか。ほんだら早くても5、6年はかかるかな(笑)。
周平魂 あ、でも師匠が「2年で獲る」って言ってたことにしましょう! そういう流れができるかもしれないんで。
巨人 俺、嘘つきにならん?(笑)。ちなみに僕らはデビュー7年目で1度目の上方漫才大賞、獲ってるからな。
たかのり はやっ!
周平魂 最後に言うの、それ......。
●オール巨人 ALL KYOJIN
1951年生まれ、大阪府出身。75年にオール阪神・巨人を結成。「上方漫才大賞」受賞4回は史上最多。19年には「紫綬褒章」を受章。本誌で『オール巨人の劇場漫才師の流儀』を連載中
●ツートライブ TWOTRIBE
NSC大阪校30期生。兵庫県立大学の同級生で、共にNSC大阪校に入学し、2008年にコンビ結成。2017年『ABCお笑いグランプリ』決勝進出、2019年・2022年・2023年『上方漫才協会大賞』文芸部門賞受賞。『THE SECOND ~漫才トーナメント~2025』で優勝。ミルクボーイ、金属バット、デルマパンゲとユニットライブ「漫才ブーム」を行なっている
●周平魂 SHUHEIDAMASII
1983年生まれ、京都府出身。趣味は料理、ブラックミュージック、釣り、音楽鑑賞。特技はサッカー、京都案内
●たかのり TAKANORI
1984年生まれ、広島県出身。趣味は釣り、旅行、お酒、読書、映画。特技は怪談話、柔道、剣道、料理、DJ
取材・文/中村 計 撮影/矢橋恵一

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