「"ミスタープロ野球"は何がすごかったのか?」15人の証言か...の画像はこちら >>

「〝長嶋茂雄のすごさ〟は、彼のプレーに魅せられた人全員の胸に今もなお息づいているんです」と語る元永知宏氏

2025年6月3日、読売ジャイアンツ終身名誉監督・長嶋茂雄氏が死去した。ありし日の姿が連日テレビで放送され、「ミスタープロ野球」は新語・流行語大賞で選考委員特別賞に選出。

往年のファンは口をそろえて言う、「長嶋はすごかった」と。 

ベストナイン17回、通算444本塁打、生涯打率.305......数々の功績が類いまれな記録であることは論をまたない。しかしいずれの成績も、さらに上をいく選手が存在する。

では、いったい長嶋の〝何が〟それほどすごかったのか? 『長嶋茂雄が見たかった。』は、15人のチームメイトやライバルへの取材を基に、長嶋茂雄の〝すごさ〟の正体に迫る一冊だ。著者の元永知宏氏に聞いた。

* * *

――本書を書かれたきっかけについて教えてください。 

元永 野球は、選手の功績や特徴を、数字でわかりやすく表せるスポーツです。この投手は何が優れていたのか、あの打者はどういった点が秀でていたのかなど、数字からさまざまなことが読み取れる。だからこそ、異なる国や時代のプレーヤーの比較も容易にできますよね。  

長嶋さんの残した数字は確かに素晴らしい。5ツールそろったプレーヤーで、V9という偉業も成し遂げた。

ですが、長嶋さんよりも成績が上の人はたくさんいます。にもかかわらず、古くからの野球ファンは「長嶋はすごかった」と皆さんおっしゃる。

では、いったい何がすごかったのか?と考えたとき、「長嶋さんの〝すごさ〟には、数字で表せないものがあるはずだ」と思い当たったんです。

しかし、1950年代後半から70年代にかけて活躍された長嶋さんは、プレーの映像があまり残されていない。私自身、現役時代の活躍を目にした記憶がない。

そして〝すごさ〟が数字にすべて表れているわけでもない......となれば、〝長嶋茂雄のすごさ〟を解き明かして後世に残すためには、当時を知るチームメイトやライバルに話を聞くしかありません。そこから本書の企画が始まりました。  

――長嶋さんといえば、日本シリーズや球宴での活躍、天覧試合でのサヨナラ本塁打など、大舞台での勝負強さも語り継がれています。これも数字に表れない〝すごさ〟のひとつですね。

元永 長嶋さんのバッティングはよく〝天才的〟と形容されますが、本書でも松岡弘さんや大矢明彦さんが「長嶋さんの頭にはデータベースがあった」とおっしゃっているとおり、実は膨大なデータに裏打ちされたもの。

そして、データを状況に応じて瞬時に引き出す判断力にも長けていました。また、シーズン中だけではなく、日本シリーズなどで初見の相手にも対応できたのは、「構え」「タイミング」「力の入れ方」をいずれも高い水準で実現した打撃フォームがあったからでしょう。

 

――長池徳士(あつし)氏が「長嶋さんならではの感性があればこそできること」と語っていたフォームですね。黄金期阪急の中心打者をして「再現性という意味では本当に難しい打ち方」と言わしめた打法です。

元永 地道なデータの積み重ねと、唯一無二のフォームを使いこなす天性のセンス。そして「必ず期待に応える」と自らを奮い立たせる心構え。それらのかけ合わせが無類の勝負強さを生んでいたのだと思います。  

――長池氏をはじめとする好敵手の証言によって、数字に表れない〝長嶋茂雄のすごさ〟に輪郭が与えられていると感じました。大矢氏や土井淳氏がルールのぎりぎりを突いてまで打ち取ろうと力を尽くすエピソードからも、長嶋さんの〝すごさ〟がうかがい知れます。

元永 おふたりに限らず、昭和の野球ではいろいろな〝駆け引き〟があったと聞きます(笑)。現在は世代別代表が常設され、入団前から選手同士のつながりもある。良くも悪くも、球団間で火花を散らす時代ではありません。

そういった背景もあり、本書にあるような〝駆け引き〟を目にすることはなくなりました。しかし、「いかに相手の隙を突くか」「どうやって裏をかくか」といった攻防も、野球本来の面白さだと思います。

 

――昭和プロ野球を象徴するシーンのひとつ、「バッキー事件(68年、阪神のジーン・バッキーによる巨人・王貞治への死球に端を発した乱闘)」でも、長嶋さんは自らのバットで決着をつけていますね。  

元永 当時阪神のショートを守っていた藤田平(たいら)さんが「(長嶋さんは)乱闘に加わるよりもバットで決着をつけようと静かに燃えていたんやろうね。(中略)期待にホームランで応えたというのが本当にすごかった」とおっしゃっている。

今のプロ野球ファンにとっては、巨人監督時代のユーモアあふれる人柄の印象が強いと思いますが、現役時代の長嶋さんが〝燃える男〟と呼ばれたゆえんについてもたくさんの方が語ってくれています。 

――〝長嶋本〟としては珍しく日本人初のメジャーリーガー・村上雅則氏からの視点に紙幅を割かれていたのが印象的です。  

元永 「長嶋茂雄がメジャーに挑戦したら?」というのは、野球ファンなら一度は考えるロマンです。その〝たられば〟を、長嶋さんと同世代で対戦経験もある村上さんを軸にすることで、より説得力のある推察にできるのではないかと考えました。 

――村上氏は本書で「(個人名を冠した賞が複数あるメジャーにならって)『長嶋茂雄賞』を創設すべきだ」とも述べられています。その言葉どおり、来季から「長嶋茂雄賞」が新設されることになりました。選考基準は未発表ですが、どのような選手が選ばれると思われますか?

元永 まず成績でいえば、三冠王に近い数字、あるいはいずれかの打撃部門でシーズン記録を更新するなど、突出したものが求められるでしょう。

また、NPBの発表では「ファンを魅了した野手を表彰」とあります。何をもって〝魅了した〟とするのか、というのが、最も重視されると同時に、選考委員が頭を悩ませる点だと思いますね。

――ファンを魅了した華麗なプレーも、数字に表れない〝長嶋茂雄のすごさ〟のひとつですね。

元永 本書に登場いただいたOBの方々は皆、50年、60年前のことを、まるで昨日のことのように生き生きと語ってくれました。〝長嶋茂雄のすごさ〟は、彼のプレーに魅せられた人全員の胸に今もなお息づいている。

本書でその息遣いに触れた若い野球ファンに、「長嶋ってすごかったんだ」と実感してもらえたらうれしいですね。

●元永知宏(もとなが・ともひろ)
1968年生まれ、愛媛県出身。立教大学野球部4年時に、23年ぶりの東京六大学リーグ優勝を経験。著書に『期待はずれのドラフト1位』『敗北を力に!』『レギュラーになれないきみへ』『スポーツを支える仕事』(すべて岩波ジュニア新書)、『殴られて野球はうまくなる!?』(講談社+α文庫)、『荒木大輔のいた1980年の甲子園』『近鉄魂とはなんだったのか?』(共に集英社)、『プロ野球を選ばなかった怪物たち』(イースト・プレス)など

■『長嶋茂雄が見たかった。』
集英社 2200円(税込)
2025年6月3日に逝去した長嶋茂雄氏。V9巨人の4番であり、今日のプロ野球人気の礎をつくった功労者であることは周知の事実だが、一方で現役時代の活躍を知るファンは少ない。では、長嶋は"何が"すごかったのか? 長嶋を取り巻くチームメイトやライバル15人への取材を通じ、野球ファンが知らない"ミスタープロ野球"の素顔を描き出していく。24年8月から25年9月まで『週プレNEWS』で配信された連載を単行本化

「"ミスタープロ野球"は何がすごかったのか?」15人の証言から再検証する、長嶋茂雄入門書の決定版を刊行

取材・文/結城紫雄 撮影/本田雄士

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