思った以上に立派な驫木駅
2026年が始まった。恒例となっている干支の駅に行ってみるシリーズ、今年は午年だ。
ということで選んだのが、五能線の驫木(とどろき)駅。車が3つならんだ轟木はけっこう知られているかもしれないが、こちらは馬が3つ。まず読めないし、紙の時刻表に印刷できるのが不思議なぐらい画数が多い。
驫木があるのは青森県の最西端で、世界遺産にもなっている白神山地のふもとにある深浦町。五能線は秋田県の東能代と青森県の弘前間の150キロほどを、日本海まわりでぐるっと4時間かけて走る。沿線の人口は少なく、1本逃すと次は2~3時間後という、これぞローカル線。
窓から見える日本海
年の瀬の平日、東能代7時22分発、弘前行きのディーゼルカーに乗り込む。車窓には風力発電所の風車がたくさん。風が強いエリアなのだろう。
2時間あまりで驫木駅に到着した。ホームの向かいは日本海。気温は4度で潮風が痛い。無人駅ながら幸いなことに立派な駅舎があるので入らせてもらう。壁にそってベンチがあり、無人駅には定番の来訪者が記録を残す駅ノートも置かれている。
旅行者たちの記録がたくさん、列車で来る人はどれだけいるのか?
頭上にある時刻表を見ると、次の列車は2時間40分後。さあ驫木の探索を始めよう! サッシをガラッと開くと駅前は何もない......。人の気配すらない。
この企画は基本的に下調べせず、駅にある観光情報などを見て出かけるのだが、唯一の情報は「驫木速報 危険 熊出没」の貼り紙のみ。ヤバイじゃん。
どうにもならないので、ウィキペディアを見ると、夕陽がすごくきれい、映画『男はつらいよ』に出たことがあると......。これはどうしたものか? もう一度駅を出てぐるり見渡すと、遠く丘の上に住宅らしきものが見える。そこに向けて歩き出すことにしよう。
駅前広場
改めて駅の周りを見ると、草むらに家の土台っぽいものがある。そして何かの小屋。壁に消えかけた文字でラーメンとある。家はなく車も走っていないし、こんな場所にラーメン屋があったの?
ゆるやかな坂道を登っていくと車が止まっており、三脚を立てたおじさん。撮り鉄だ。「何か来ますか?」と聞くと、五能線の人気列車『リゾートしらかみ』が15分後に来るそう。
15分後、青森方面から『リゾートしらかみ』が走ってきた。パシャパシャ連写。今の場所だと望遠レンズを持っていればよかったけど、トリミングすればどうにかなるだろう。
いい感じに撮れたぞ
おじさんに礼を言って再び歩き出す。10分ほどで驫木の集落に到着。広い道路の両側にはたくさんの家が立ち並び、思ったより大きな集落だった。近くには美容室と何かの商店。のぞいたら自販機しかなかった。
集落の外側にあるバイパス的な道路へ行くと、駐在所や消防団の詰所に郵便局もある。これだけ揃っているということは、まあまあの街なのだろう。
駅から少し歩くが大きな集落
集落の端まで歩いて、ようやく開いている店を見つけた、佐藤源商店。佐藤源さんが始めたお店だろうか? 「こんにちわー」と声をかけ店内へ。パンにお菓子、飲み物といった食料品から、歯ブラシやローソク、洗剤にタバコ。いわゆる「よろずや」、元祖コンビニだ。せっかくなので青森らしいものを買おうと見ていると、青森のソウルフード、工藤パンのイギリストーストが売っている! 北東北デザインのジョージアも追加しておばちゃんのところへ。
集落唯一の佐藤源商店
「旅行で来たんですけど、このへんも熊が出るんですか?」駅で見た情報をぶつけると、「近くで歩いていてねー」と。いるんだ! ここらへん住宅街なのに。
駅前に何もなかったことを話すと、かつては駅関係者の住む家があり、ラーメン屋も営業していたそう。今は若者が驫木から出てしまい、高齢化が進んでいることも教えてくれた。
ちなみにこの集落で営業している商店はここだけ。ただなんと朝6時からやっていて年中無休。本当にコンビニじゃん! 朝は出勤がてら、パンにタバコ、コーヒーを車で買いに来る常連客もいるそう。
次の列車までまだ1時間以上ある。見るべき場所はないか聞くと、特にないと。ただ、来る途中にあった神社について、おもしろい話を聞かせてくれた。
その神社は大晦日になると近所の子供たちが泊まるのだそう。そして初詣で集落の人々が投げた賽銭をお年玉として分け合っていたとのこと。何その楽しい風習!! ただ子供が減ってしまい、30年ぐらい前から行われていないらしい。
ここに子供たちが泊まっていたのか!
せっかくなので、駅に戻る途中にその神社へ立ち寄った。誰もいなかったが、荒れた感じはなく、今も集落の守り神として大事にされているようだった。もう子供は泊まらないが、賽銭を入れて帰った。
駅に着く頃には風も強くなり、また雨が降り出していた。駅舎に入って先ほどのイギリストーストを食べる。甘いマーガリンにシャリシャリのグラニュー糖がうまい。それを甘いコーヒーで流し込む。冷たかったけど、集落に1軒しかない店の貴重な食料だ。文句は言うまい。
これが俺の青森セット
列車の時間までぼんやりしていると突然明るくなった。上を見ると監視カメラ。カメラの向こうの人が電気をつけてくれたのだろう。天気は荒れていたが、深浦行きは定刻どおりにやってきた。車内は暖房であったかい。次は夕陽を見に来ようか。そう思いながら驫木駅を後にした。
ローカル線ながら車両はデビュー5年の新車
取材・文・撮影/関根弘康
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