このふたりの直電で、地球のいろんなことが決まってしまう......(写真:AFP=時事)
ウクライナ戦争勃発から世界の構図は激変し、真新しい『シン世界地図』が日々、作り変えられている。この連載ではその世界地図を、作家で元外務省主任分析官、同志社大学客員教授の佐藤優氏が、オシント(OSINT Open Source INTelligence:オープンソースインテリジェンス、公開されている情報)を駆使して探索していく!
* * *
――日中関係はもはや神頼み、「念力」で解決するフェーズに入ってきました。
佐藤 いえ、ウクライナ戦争の構図ははっきりしているので、そうはなりません。
――最前線ではプーチンとトランプが直電してますよね。ただ、10月16日の電話会談では、ハンガリーで直接会談すると合意していたものの、突然トランプが「無駄な会談はしない」と中止になりました。これはなぜですか?
佐藤 ヨーロッパ諸国が総力を挙げてトランプを阻止したからです。
――傘下の組のトップたちが、「勘弁してください」と泣きを入れたのですね。
佐藤 はい、その通りです。当事者のウクライナ、そしてドイツが泣きを入れました。そこでトランプは西側に貸しを作ったわけです。
――それで、ウクライナはどうなるんでしょうか? ロシアは現状、地上戦で勝っています。
佐藤 勝っています。だから、ロシアは途中の経過は気にしていないんですよ。
――継戦しても別に構わないと。
佐藤 そう、別に困らないんですよね。最終的にオデッサまで獲り、「ウクライナを内陸国にしてしまえ」くらいの感覚なんでしょう。
――むしろ、いま戦争を止めるとプーチンは損をする。それだけの話なんですね。
佐藤 止めてもいいけど、続けてもいいよと。どっちでもいいんです。
――停戦、休戦交渉において最強の交渉相手です。そんなロシアですが、今年、南極周りで米国本土に届く最新型大陸間弾道ミサイル『サルマト』を配備します。
さらに、無限の航続距離を持ち、核弾頭搭載も可能な原子力推進巡航ミサイル『プレベスニク』の試験にも成功しました。NATOはスカイフォールと名付けています。直訳で「天が落ちる」、つまり世界の終わりを意味します。
これはプーチンからの「いつでもアメリカを終わりにできるぞ」というメッセージなんですか?
佐藤 アメリカに対抗できて、完全に破壊できる能力を持っていると誇示する必要があるんですよ。
――仁義なき戦いの中にも、核兵器に関する場合はお付き合いする礼儀があるんですね。
佐藤 現代版の相互抑止状態ですよ。ハンガリーで米露首脳会談をやろうとアメリカが言い出したにもかかわらず、それを反故(ほご)にしたうえ、ロシアの大手石油会社に制裁をかけてきましたからね。
しかし、それはトランプの意思ではなく、彼をねじ切った連中がいます。だから、ミサイル配備などは、そういう勢力に対するメッセージですよね。
――素晴らしく怖い、最恐のメッセージです。
また、11月7日の英紙『タイムズ』では、ロシア下院国防委員会のアレクサンダー・ズラブリョフ副委員長が、南米ベネズエラに高性能の「オレシニク」中距離ミサイルを配備する可能性に言及したと報道しました。このミサイルは核弾頭搭載可能ですが、どんな意味があるのですか?
佐藤 そのころからアメリカがベネズエラ沖に航空母艦を出していたので、その牽制でしょうね。ロシアは実際問題として、そんなミサイルを使うなどという面倒くさいことはやりません。それでも、そう発言しておかなければならない。そういったゲームになっているんでしょう。
――要するに「アメリカさんよ、小さい国にちょっとやり過ぎちゃいますか?」と、刺すフリをしているだけですか?
佐藤 刺すフリでしょうね。
――するとトランプに対して、「自国のミサイルはこうやって、自分の国のために使うもんだよ」とプーチンが教えているのですか?
佐藤 そう、それで合っていると思います。
――トランプはプーチンの言うことを聞きますからね。で、ついでにウクライナにトマホークミサイルを送ることを止めさせていると。
佐藤 そういうことです。
――ここまでは11月中頃までの話で、まだ現在もプーチンとトランプの直電は続いています。それで、ゼレンスキーの最側近の大統領長官が辞任させられました。
これはトランプが「一番ウクライナ和平で面倒なのはゼレンスキーだ」と、政権崩壊に追い込もうとしているということですか?
佐藤 それを段階的にやっているんだと思います。
――それは電話会談でプーチンがアドバイスしたんでしょうか?
佐藤 そういうことでしょうね。この長官はゼレンスキー最大の友人で、同時に米国とのパイプを持っていました。そして、今回の和平案の修正案を作っていたんですよ。
その修正案では、ロシアが提示した案を全てカットされていました。
――中世でいえば、皇帝の意向を無視した田舎の貴族ということですね。
佐藤 そうですね。
――なるほど。一方、米国の国内では、対ロ交渉担当のウイットコフ中東担当特使を「ロシア寄りだ、解任しろ」との声があがっています。もちろん、トランプはそれを擁護しています。
佐藤 ウィットコフ特使は、非常に有能でうまくやっていますよ。「ロシアと折り合いのつく案を作ってくれ」と言われたから、その通りに作っています。そうなるとロシア寄りにならざるを得ないじゃないですか。
――確かに。米国はこのままの体制でいけばいいわけですね。
佐藤 そう、このままの体制で問題ありません。アメリカにはアトランティスト(米国内でヨーロッパとの強固な同盟関係、NATOなどを重視する人々)とか、トランプの戦略を理解できない旧思考の連中はいます。古い時代の残滓(ざんし)で生きているような連中が喚(わめ)いているだけです。
しかし、彼らはプレイヤーではありません。そんな彼らが何を喚いても「知ったこっちゃない、勝手に喚いていろ」という態度でいいんです。
――米国はどんどんと宮廷政治に近づいていると。
佐藤 そうです。以前も言いましたが、いまのアメリカは家産国家で、トランプ家とアメリカ国家は分かれていません。だから、米国政府職員は公務員ではなく、トランプの「家来」なんですよ。
――その体制になっているのに、気が付いてない奴が「解任しろ」と威張ってくる。しかし、そこはトランプ大王の宮廷ですからね。念力で勝敗が決まる日中脳内戦争の最前線より、米露の方がわかりやすく、幸せな世界になっているということですね。
佐藤 そうです。シンプルでいいですよね。
――はい。すると、ウクライナ戦争の行方は、ゼレンスキーの解任で終わるか、プーチンが言っているように「軍事力でやれる所までやる」のか、どっちなんですか?
佐藤 だから、ロシアの要求を丸呑みするか、しないのか、のどちらかです。
――ゼレンスキーはロシアの条件を丸呑みせざるを得ない状況に、どんどん追い込まれていくわけですね。
佐藤 そうです。丸呑みか、崩壊か。どちらでも選ぶことはできます。
――崩壊した場合、ウクライナの大統領は誰になるのですか? 選挙をやるんですか?
佐藤 大統領ではなく、いまの国会議長を交渉相手にすればいいです。それなら一応、選挙も経ているわけですから。
――すると、それでうまく収まると。
佐藤 収まるといえば、収まります。戦争は終わりますよ。
――平和なウクライナに戻れるのかも。
佐藤 いけると思いますよ。来年はロシアもウクライナも、平和な冬を迎えることができるかもしれません。
次回へ続く。次回の配信は2026年1月16日(金)予定です。
取材・文/小峯隆生
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