アメリカ・ベネズエラ急襲の「根拠のある陰謀論」 中国、ロシア...の画像はこちら >>

ベネズエラには莫大なコルタンという鉱物資源が眠っている。コルタンはレアメタルのタンタル(写真)やニオブを豊富に含んでいる

あらゆるメディアから日々、洪水のように流れてくる経済関連ニュース。
その背景にはどんな狙い、どんな事情があるのか? 『週刊プレイボーイ』で連載中の「経済ニュースのバックヤード」では、調達・購買コンサルタントの坂口孝則氏が解説。得意のデータ収集・分析をもとに経済の今を解き明かす。今回は「ベネズエラ問題」について。

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「えっ! そんな露骨なことするの?」

1月3日未明、米国軍はベネズエラ大統領宅を急襲。ニコラス・マドゥロ大統領と夫人を拘束した。

米国は麻薬テロ対策であるとし、国内法の執行を主張しているが、国際法違反は明確だ。しかし西側各国は微妙な反応を繰り返している。日本も立場的に米国の行動を批判できていない。

いっぽうで、私のようにサプライチェーンに関わっている方は、冒頭のような感想を抱いたに違いない。以降はあくまで特定の立場からの「陰謀論」として読んでほしい。

報道では、米国の動きには石油利権が絡んでいるとされる。実際にドナルド・トランプ米国大統領はベネズエラ石油産業への米国企業の介入に乗り気のコメントを発している。

シェールオイルに沸く米国産の原油は軽質といわれる。逆にベネズエラ産原油は超重質で、価値が高いといわれる。特定の製品や潤滑油などの生産に欠かせないためだ。さらに、ベネズエラは東側諸国に原油を密輸していたともいわれる。

ただ、頭をよぎるのは石油のことだけではない。ベネズエラには莫大(ばくだい)なコルタン(鉱石の一種)が眠っているといわれる。コルタンはレアメタルであるタンタルとニオブを豊富に含む。最先端のスマホからハイテク電子機器、武器類、エンジンまで不可欠な原材料となる。

現在はベネズエラからコロンビアを経て中国までの輸出ルートが完成している。また、電気自動車のバッテリー、半導体など多様な用途があるニッケルもおなじく莫大な埋蔵量を誇るとされる。これらは米国の経済安全保障の問題に直結している。

米国にとってベネズエラルートのロジスティクスを開発する利点は大きい。

原油だけではなくレアメタルまでも、パナマ運河を使わずにすむ南北米間の最短サプライチェーンが完成するのだ。

これによって中国産レアメタルの影響力軽減も可能だし、ベネズエラから友好国ロシアへの輸出ルートを止めることもできる。一石三鳥というべきか。

さらに、ベネズエラは物流インフラが脆弱(ぜいじゃく)で、道路網や港湾の処理能力も低い。数時間で終わるはずの荷役作業に数日を要する。ここに米国企業が介在すれば相当なビジネスを生む。土木建築だけでなく、物流システムやIT、トランプ政権が力を入れる造船事業も恩恵を受けるだろう。

鉱山開発やアルミニウム精錬に必要な電力も不足しており、事業介入の余地がある。エネルギーマネジメントシステムは米国産業の柱の一つだ。インフラ整備と技術導入、保守を通じて、長期的な収益獲得と市場拡大の可能性を秘めている。

もっとも日本だって恩恵を受ける可能性がある。ベネズエラからの安定的なアルミニウムやニッケルの調達を拡充できるかもしれない。

原油であれ、他の鉱物であれ、トランプ政権が予想する1、2年ていどでは投資はペイしないはずだ。老朽化したインフラの立て直し、現地人の教育、ビジネスモデルの再建。他国が投資して一朝一夕に成果を出すのは難しい。

それでも、単に麻薬犯罪人を拿捕(だほ)したかったのではなく、経済上の理由があったとする「陰謀論」には、サプライチェーン屋の私からすれば根拠がある。あくまで陰謀論ね。捜査対象、麻薬。押収品、鉱物。

写真/時事通信社

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