ひろゆき、篠田謙一(国立科学博物館長)に人類の歴史を学ぶ⑥「...の画像はこちら >>

「何をもって言語というか。鳥もさえずりで複雑なコミュニケーションを取りますから」と問う篠田謙一氏

ひろゆきがゲストとディープ討論する『週刊プレイボーイ』の連載「この件について」。

分子人類学者で国立科学博物館長の篠田謙一先生をお迎えしての第6回です。

ホモ・サピエンスがわれわれと同じ姿になったのは約10万年前だったとのことです。では、その頃から言葉を話していたんでしょうか。そんなひろゆきさんの疑問に篠田先生が答えます。

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ひろゆき(以下、ひろ) 前号では、ホモ・サピエンスが僕らとほぼ同じ姿になったのは、約10万年前ということでしたが、今回はその続きで「じゃあ、その頃からすでに言語っぽいものはあったのか?」ということを聞きたくて。

篠田謙一(以下、篠田) そこが難しいところでして......。そもそも「何をもって言語というか」という定義の問題があります。鳥だってさえずりで複雑なコミュニケーションを取りますし、発話以外にも身ぶりや手ぶりもコミュニケーション手段といえます。実は、もうひとつ面白い身体的特徴があって、人間の目って〝白目〟がありますよね。実は、正面から見て白目がはっきりわかる霊長類は人間だけなんです。

ひろ 確かに。チンパンジーは白目がわからないですね。


篠田 「いつから人類が白目を獲得したのか」はハッキリしていません。目やまぶたは化石に残らないですから。ただ、白目があるとものすごく便利なことがあります。例えば、相手がどこを見ているかがすぐにわかる。だから、目を見るだけで「あっちだ」とか「今、行け」とかの連携ができる。これは立派なコミュニケーションのひとつです。

ひろ でも、生物は基本的にはどこを見ているかわからないほうが有利ですよね。見ている方向がわかると敵に襲われるリスクが高くなりますから。

篠田 襲われる側はそうですけれども、逆に集団で狩りをしようと思ったときには、声を出さずに手のサインと目線だけで「おまえは右に行け、俺は左に行く」みたいなことがやれると思います。

ひろ なるほど。いつから白目が出てきたかわからないんですか。

篠田 客観的な証拠がないのでなんとも言えませんが、猿人のアウストラロピテクスの段階では、まだ白目はなかったと考えています。

これはホモ属になってから獲得した特徴だと思っているのですが、証拠がないので、残念ながら謎のままです。

ひろ でも、白目ができた段階で、社会性はだいぶ変わりませんか?

篠田 もちろん変わります。社会構造が変わるレベルだと思います。例えば、「あいつ、俺にガン飛ばしてる」みたいなことがあるじゃないですか(笑)。

ひろ 篠田さんみたいな偉い先生の口から「ガンを飛ばす」なんて言葉が聞けるとは!(笑)

篠田 おそらく私たちは、そういう視線の読み合いも含めて脳の処理能力が変わっていって、それをコミュニケーションとして発達させてきたんだと思います。

ひろ 人間以外の動物は敵から逃げるために目を発達させてきたのに、人間は襲うために発達させたということですか。じゃあ、人間はどちらかというと肉食動物的な進化なんですかね?

篠田 ライオンなどの肉食動物はだいたい夜に狩りをやるので、白目が見えても意味がない可能性もありますね。でも、私たちは白目の要素がすごく大きい。ゴリラやチンパンジーはほとんど白目が見えないので、どこを見ているかわかりにくい。そこが人間との決定的な違いです。

ひろ 人類は頭がいいとかはわかってたんですけど、白目が人類特有だっていうのはあんまり知られてないですよね。

篠田 そうですね。

あと、しゃべることに関しては、喉頭という喉にある器官の構造が重要になるんですが、われわれはこの喉頭の位置や形がかなり特殊な霊長類です。位置がすごく下がっているんです。

ひろ ほうほう。

篠田 犬や猫は鼻で呼吸をしながら同時に口で水が飲めます。

ひろ あー、できますね。

篠田 われわれはそれができない。喉の奥で空気の通り道(気管)と食べ物の通り道(食道)がクロスしているので、同時にやろうとするとむせてしまう。

ひろ なるほど。

篠田 多くの動物では、喉頭が高い位置にあって鼻の奥と直結しているので、肺には空気しか入らないようになっているんです。その代わり、肺から出た空気も全部そのまま鼻に抜けるので、口の形を変えていろいろな音を出すことができない。だから複雑にはしゃべれないんです。

ひろ 犬が「ワン」としか言えないのはそういう理由なんですね。

人間は喉頭が下がったことで、むせやすくなる代わりに複雑な発音ができるようになったと。

篠田 そのとおりです。「じゃあ、いつ人間の喉頭が下がってしゃべれるようになったのか」というのが気になるわけですが、これも化石に残らないのでわからないんですよ。

ひろ 目玉より喉の骨のほうが化石に残りそうなんですけどね。

篠田 喉頭は全部軟骨なので、腐ってしまって形が残らないんです。だから、人間のように肺から出した空気を声帯を震わせて音にして、口の形を変えることで言葉にしていく機能がいつできたのかというのは、なかなか特定が難しいという問題があります。

ひろ 器官の構造が変わっただけじゃダメで、それを使いこなす脳の進化も必要ってことですよね。

篠田 はい。もうひとつ重要な点は、まさにそこです。仮に喉の構造が変わって多様な音が出せるようになったとしても、それを言葉(言語)としてつなぎ合わせ操るためには、高度な脳の機能が必要です。脳の中でいつ言語をつかさどるネットワークが作られたのか。これは脳そのものが化石に残らない以上、証拠がないので特定が非常に難しいんですよね。


ひろ 例えば、映画『ジュラシック・パーク』みたいに、琥珀に閉じ込められた蚊が吸った恐竜のDNAが残っているとかいう感じで、骨以外のものが残るパターンってあんまりないんですか?

篠田 筋肉や内臓などの軟部組織が化石として残ることは、基本的にはないです。特に人類はアフリカで誕生した生物なので、気候的には高温のため死後に有機物が分解されやすい環境だったんです。

ひろ ああ、場所が悪かったんですね(笑)。

篠田 これが寒い時期に北に移動した連中なら、氷漬けになってることもあるんでしょうけど。人類の起源を探るには、どうしても残っていない証拠を推理で補わなきゃいけない部分が多いんです。

ひろ つまり、人類がいつから言葉を使い始めたのかは、確実なことは言えないってことですか?

篠田 残念ながらそうです。ただ、白目や喉頭の構造、そして脳の大きさの変化から総合的に推測すると、少なくともホモ属になってからなんらかの高度なコミュニケーション能力を持っていたことは間違いないと思います。完全な言語がいつ生まれたかは謎ですが、人類は段階的に、視線、ジェスチャー、そして音声を組み合わせながら、コミュニケーション能力を進化させてきたんでしょうね。

ひろ なるほど。長い時間をかけて、いろんなコミュニケーション手段を組み合わせながら、今の言葉にたどり着いたと。

篠田 そして、その進化の過程で白目という、ほかの動物にはない武器を手に入れた。これが人類の社会性を飛躍的に高めたんだと思います。

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■西村博之(Hiroyuki NISHIMURA) 
元『2ちゃんねる』管理人。近著に『生か、死か、お金か』(共著、集英社インターナショナル)など 

■篠田謙一(Kenichi SHINODA) 
1955年生まれ。分子人類学者。国立科学博物館長。主な著書に『人類の起源』(中公新書)、『日本人になった祖先たち』(NHKブックス)など。2026年2月23日まで、東京・上野の国立科学博物館では特別展「大絶滅展」が開催中

構成/加藤純平(ミドルマン) 撮影/村上庄吾

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