昨季、自身最多55本塁打を放った大谷。速球に反応し、左中間へ飛ばすシーンも多かった
目まぐるしくトレンドが移り変わる野球界。
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【打者は半速球待ち。抑えるには球種を増やすしかない!(投手の新常識)】大谷翔平(ドジャース)も参戦するWBC開幕を3月に控え、野球界がますます盛り上がりそうな2026年。近年はテクノロジーの進化が影響し、さまざまな記録や常識が更新され続けている。今年はいったいどんな新常識が生まれるのか?
現役投手を指導するピッチングデザイナーで、『週刊プレイボーイ』本誌おなじみの野球評論家・お股ニキ氏と共に考察したい。
「前提として、野球は勝負事で人間がやること。テクノロジーの進化やルールの変更とそれにどうやって適応していくかは、ある意味でいたちごっこ。昔からの基本はありつつも絶対的な正解は存在せず、ネットで知れ渡っている情報は現場で通用しない。その中で、周囲から一歩でも、半歩でも先行できた選手が勝つ世界であることを認識したほうがいいでしょう」
お股ニキ氏は象徴的事例として、スイーパーを挙げる。
「3年前の前回WBC決勝戦、大谷が優勝を決めたウイニングショットとして一躍注目を集めました。大谷はNPB時代からスライダーが横滑りで指標も良く、それが知れ渡ってマネする投手が急増。
大谷は先行者利益を享受していましたが、スイーパーと定義されてトレンド化し、猫もしゃくしも投げるようになって打者にイメージを持たれてしまった結果、その利益が逓減していったのです」
投手と打者の駆け引きにおいて、見逃せない変化がある。
「そもそも、ツーシームでゴロを打たせるトレンドが崩れたのが10年ほど前。フライボール革命を受け、ツーシームもフォーシームも本塁打にされやすくなった。そこで投手側の対抗策となったのがスライダーを軸とした変化球主体のピッチング。その代表的な投手がダルビッシュ有(パドレス)でした」
しかし、3年ほど前からバーチャル打撃マシン「トラジェクトアーク」を各球団が導入。対戦投手の映像とともに、球速、回転数、回転軸、シームなど各球種を正確に再現して練習できるようになったことで状況が変わってきた。個人所有する一流打者もいるという。
「以前はストレートを打つ練習しかできず、必然的に打者の主流は『速球待ち』でした。しかし、トラジェクトアークの登場で実際の球を再現して練習することが可能となり、変化球も球筋を見てイメージを持てるように。
そうなると今度は再びツーシームやフォーシームが復権し、投手はどんどん速い球を投げようとする。打者としては一番速い球を待っていると変化球にタイミングが合わないので、140キロくらいの半速球を待つようになりました。
大谷をはじめとした強打者は逆方向への本塁打が多いが、これは「半速球待ち」をしながら真っすぐには反射で対応できるからだという。
また、今永昇太(カブス)の過去2年の浮き沈みも、この「半速球待ち」で説明できるという。
「24年、今永が活躍できたのは質の高いストレートと、130キロ程度のスプリットやチェンジアップを駆使していたから。どちらも打者の『半速球待ち』を外すことができました。しかし、昨季の今永はストレートが遅くなり、スイーパーも投げるようになって対処されやすくなった」
では、こうした打者のトレンドに対し、投手はこれからどう対応すればいいのか。
「ツーシームとフォーシームが復権したことを打者も理解しているため、今季はそれが狙われるでしょう。投手はいかに裏をかくか。冒頭で触れたように、まさにいたちごっこの繰り返し。究極的には、投手はなんでも投げられるようにして、ランダム性を増すことが最も有効です」
実際、昨季のMLBでは、5球種以上操る投手が過去最多に上ったというデータもあるほど。多くの先発が多彩な球種を操るのが当たり前の時代なのだ。
「トラッキングデータで確認し、自分の特性に適した球種を握りやシームから探っていけば、5、6球種は投げられるようになります。
昨季サイ・ヤング賞のタリク・スクーバル(タイガース)は6球種、ポール・スキーンズ(パイレーツ)に至っては7球種を操り、ストレートは160キロ超が標準。
彼らのようなハイレベルな先発が増えたことの弊害もある。先発のレベルが上がりすぎ、球種の少ないリリーフ投手が打たれやすくなっているのだ。昨季ドジャースのリリーフ陣が打ち込まれる場面が多かった点とも合致する。
「最速167キロのメイソン・ミラー(パドレス)、驚異的な空振り率のスライダーを操るエドウィン・ディアス(ドジャース)クラスは例外ですが、ストレートとウイニングショットの2球種だけを操る旧来型のリリーフでは、レベルの高い先発との対比で打者からすると打ち頃と判断されてしまう。必然的にリリーバーにも球種が求められる時代になってきたと言えます」
【ロボット審判導入でゾーンが厳格化。総合力が求められる(捕手の新常識)】今季MLBの重要トピックスといえば、〝ロボット審判〟の本格導入だ。審判のストライク、ボールの判定に疑義があれば、各チームは1試合で2度まで映像での確認が可能になる。要求できるのは投手、捕手、打者だけで、成功すればチャレンジできる回数はそのまま。この変更点は野球をどのように変えるのか?
「ストライクゾーンはそもそも曖昧なもので、NPBは横に広く、MLBは縦に広い特徴があります。ただ、ロボット審判の導入によって、打者の身長も正確に判定に反映できるようになると、MLBでは従来よりも高めが狭くなることも考えられる。この観点では打者有利になります」
一方、投手に有利な判定をされる場合もありえるという。
「ストライクゾーンをホームベース形の五角柱として考えると、捕手側の先端部分をかすめるボールもストライクになる。
野球というスポーツは曖昧さも内包する部分に面白みがあるのに、そこまで機械的に判定していいのか、という議論が起きそうです」
捕手に求められる能力に変化はあるのか?
「落ち球は増えるはずで、ブロッキング能力が求められる一方、これまでよりフレーミングの価値は相対的に下がる。その分、捕手に打撃力を求めるチームも出てくるでしょうし、さまざまな球種の投げやすさ、球筋を引き出す力、配球、指揮能力といった総合値の高さが重視されるのではないでしょうか」
日本人捕手に目を向ければ、最近は小柄な選手の奮闘が目立つ。昨季セ・パを制した坂本誠志郎(阪神・176cm)や海野隆司(ソフトバンク・174cm)、前回WBCで活躍した中村悠平(ヤクルト・176cm)や甲斐拓也(巨人・170cm)ら、多くの球団の主戦捕手は170cm台だ。
かつて攻守で活躍した古田敦也(元ヤクルト・180cm)や阿部慎之助(元巨人・180cm)、城島健司(元阪神ほか・182cm)らと比べると〝小柄化〟の傾向は顕著だ。
昨季、スタメンマスクをかぶって阪神をリーグ優勝に導いた坂本。侍ジャパンの正捕手候補だ
昨季、正捕手としてソフトバンクを日本一に導いた海野。甲斐拓也の穴をきっちり埋めた
「本塁での衝突を防ぐコリジョンルール制定からちょうど10年。激しい接触が不要になった点が小柄な捕手が増えた大きな要因です。そして、フレーミングが重視されるようになり、小回りの利く捕手が求められるようになったことも影響しているでしょう」
とはいえ、捕手に必要なブロッキングなどの技術も鑑みると、もう少し大柄な捕手の台頭も求められそうだ。
「以前より打撃型捕手が減ったのも、小柄化と無関係ではないはず。いずれ日本でもロボット審判が導入されれば、フレーミングの価値がやや減少し、大柄で打てる捕手を求める風潮が高まりそうです」
実際、MLBで昨季60本塁打を放ったカル・ローリー(マリナーズ)は188cm、107kgの大型捕手だ。
「もう少し打力も期待したいとなると、日本人の場合は古田や阿部の180cmくらいが理想的。現役では若月健矢(オリックス)や山本祐大(DeNA)が180cmなので、彼らの奮闘に注目です」
【守備シフトが原因で左打者不遇の時代。NPBで活躍する助っ人外国人打者「肩乗せ&横振り」(打者の新常識)】昨季MLBの打率ランキングで事件が起きた。ナ・リーグで3割打者がトレイ・ターナー(フィリーズ)のみ。しかも、ナ・リーグの首位打者史上最低打率(.304)という不名誉なオマケまでついた。
一方のア・リーグも3割打者は6人だけ。そして、両リーグの3割打者には「全員右打ち」という共通点があった。
「『左打者のほうが打率を残せる』というのは古いイメージ。昨季のア・リーグでは打率上位13人まで右打ち(ひとりは両打ち)。ナ・リーグも上位ふたりが右打ちでした」
この「右高左低」現象はなぜ起きたのか? お股ニキ氏は守備シフトの影響を語る。
「野球の競技特性上、シフト効果は左打者のほうが影響を受けます。
MLBでは2023年から内野手の守備シフトに制限が設けられたものの、制限内でシフトは敷かれている。昨季、センター前に抜けそうな大谷のライナーを相手ショートが悠々と捕球して、トリプルプレーにつなげた場面はその象徴的なシーンだった。
「加えて、ここ数年で左打者にも効果的なスプリットやカーブ、スラッターなどの落ち球と、その対となるカッターやシュートライズするストレートを駆使する右投手が増えました。そもそも母数の多い右投手が左打者を苦にしなくなれば、必然的に左打者の成績は下がります」
一方、「3割打者減少問題」は日本でも起きている。
昨季はセ・パ首位打者の小園海斗(広島)と牧原大成(ソフトバンク)、泉口友汰(巨人)の3人だけ。外国人選手はゼロだった。打率以外で好成績を残せたのも、本塁打と打点の2冠に輝いたフランミル・レイエス(日本ハム)くらいで、助っ人外国人受難の時代とも言える。そんな中、活躍できる打者にはある傾向があるという。
昨季、パ・リーグで本塁打と打点の2冠に輝いたレイエス。NPB屈指の助っ人外国人だ
「近年NPBで活躍できている外国人選手は『バット肩乗せ&横振り』タイプがほとんど。レイエスもそうですし、オルランド・カリステ(中日)やサンドロ・ファビアン(広島)、昨季まで巨人でプレーしたエリエ・ヘルナンデスも同じタイプです」
「バット肩乗せ&横振り」が適しているのはなぜか?
「日本はストライクゾーンが横に広く高めは狭いことに加えて、高めに伸びる球と落ち球を駆使して高低差を生かす投手が多い上に、近年はボールが飛ばない。この環境では縦振りよりも、肩に寝かせた状態からの横振りのほうが対応しやすい。これは外国人選手に限った話ではなく、小園や牧原、泉口らも同じスイングをしています」
加えて、レイエスが目覚ましい活躍を見せているのは135kgという「体重」も大きなファクターだという。
「投手のレベルが高く、ボールが飛ばないNPBで柵越えまで持っていくためには、体重も不可欠。この点で、中日に新加入したメジャー通算164発のミゲル・サノーも196cm、126kgの巨漢選手。ケガや消化器系の疾患で近年は出場機会が限られていましたが、このオフに母国ドミニカ共和国のウインターリーグで活躍したので期待できそうです」
千賀滉大(メッツ)が「3割打者が存在しない時代が来る」と語ったのがもう3年前。いよいよその予言が的中するのか。それとも、打者の逆襲が本格化する年となるのか。春季キャンプを前に、新シーズン開幕が今から待ち遠しい。
文/オグマナオト 写真/時事通信社



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