和歌山県白浜町にあるアドベンチャーワールドでは昨年6月に多くの人がパンダとの別れを惜しんだ
上野からパンダがいなくなり、いろんな人がダメージを受けることが予想される。半年前にパンダを失った町、和歌山県白浜町はどう対応したのか。
* * *
【ついに日本からパンダが消える!!】
東京・上野動物園の2頭のパンダが1月下旬に中国に返還され、日本にパンダはいなくなることになった。
上野に先んじて、和歌山県白浜町では昨年6月28日にアドベンチャーワールド(以下、アドベン)の4頭のパンダが一斉に中国に帰国。あれから半年......。白浜町はパンダがいなくなった後をどう過ごしているのか。上野のパンダがいなくなるのに合わせて現地取材し、パンダロスの半年間を振り返ってもらった。
中国へ1月下旬に返還されると発表された上野動物園のパンダ「シャオシャオ」
まずはJR白浜駅前のタクシー運転手の話。
「6月末にパンダがいなくなって、7月以降は町の観光客も減ったんやけど、ちょうど夏休みが始まったので、海目当ての方がやって来たせいか微減くらいの印象かな。
ただ、アドベンさんはものすごく打撃を受けてたと思います。アドベンで待ってても客なんていませんでしたから。パンダがいなくなった直後はみんなきっと、パンダがいたときと同じ値段の入場料を払ってアドベンに行くのは『損や!』と思ったんやと思います。
ただ、秋になってくるとだんだんアドベンにもお客さんが戻ってき始めました。パンダがいないアドベンが当たり前になってきたんでしょうね」
駅前にある食堂兼お土産店「まつや」の北井店長にも話を聞いた。
「パンダがいなくなった7月以降、さすがに観光客は減りましたけど、パンダがいなくなるという報道があった前に戻ったという感じですね。パンダが普通にいた頃の感じです。まだパンダファンも来てくれてますよ。パンダうどんも相変わらず1日5、6杯ほど出ます。パンダのお土産も人気です」
思いのほか影響は軽微だったようだ。
一方、影響が大きいと語るのはホテル・旅館などの宿泊施設。とある旅館の経営者はパンダがいなくなって以降の状況をこう嘆く。
「パンダがいなくなった7月、8月の影響は大きかったです。アドベンに行くお客さんがごそっと減ったわけですから。そして、夏の後半から10月半ばにかけて、みんな大阪・関西万博に行くのに必死になった分、大阪から遠く離れた白浜には目を向けてくれなくなった感があります」
そして、11月の高市発言での中国との関係悪化が追い打ちをかけた。
「白浜で中国からの団体客を取っているのは大手のホテルが中心です。そんな大手は直接ダメージを受けているわけですが、間接的に白浜の宿泊施設全体にも影響を及ぼしてます。
というのも、大手がその穴を埋めなくてはと宿泊料金を下げてきたわけです。どんどん宿泊料金の値下げ競争になっていって、これからが不安で仕方ないです」
【パンダロス対策を聞いてみた!】取材を進めると、こうした状況をなんとかしようと白浜の人々が努力をしている様子が見えてきた。白浜温泉旅館協同組合事務局長の菊原 博さんはこう語る。
「白浜にはパンダ以外にも温泉や白良浜などいろんな魅力がありますし、アドベンさんにはパンダ以外にもいろんな動物もいますので。『リセット』という表現が適切かどうわかりませんが、町全体がもう一度パンダ以外の白浜の魅力を再発見しようという『原点回帰』のムードになっているように思います」
「白浜古賀の井リゾート&スパ」の総支配人代理の森 裕介さんもこう続ける。
「パンダがいた頃は安定している分、何かを捨てて新しいチャレンジをしたくても、なかなかできなかった。でも、これを機に新しい企画や宿泊プランを作っていけました。白浜はちょっと行くと世界遺産の『熊野古道』があるんです。なので熊野古道と関連づけた宿泊プランを作ったりもしました」
「クリスタルエグゼ南紀白浜」の宿泊担当者はこう語る。
「場所を選ばずに仕事をする『ノマド』というのがあるんですが、そんな『ノマドワーカー』の方向けにコワーキングスペースを白浜にオープンすることにしたんです。
それにちなんだイベントを先日行ないまして、町長やアドベンの園長さん、ノマドワーカーのグループの方々らを呼んで実際にお試しいただきました。新たな試みで白浜をさらに盛り上げていくという狙いです」
ノマド向けのコワーキングスペースがこの建物の中に造られる予定だ
【パンダなきアドベンは今】
では、パンダがいなくなったアドベンはどうなっているのか、実際に赴いてみた。
パンダのキーホルダーをカバンにつけたパンダファンとおぼしき40代の男性に、なぜパンダがいなくなってからもアドベンに来ているのかを聞いてみた。
「パンダがいなくなっても、ファン向けのイベントを月に2回ぐらいのペースでやってくれているんです。パンダを飼育していた所のバックヤードを案内してくれるイベントは面白かったです。展示スペースから引き揚げた後のエサやりとか、こんな所で過ごしていたんだとわかってうれしかったですね。
でも、ここに来る一番の理由はアドベンにお金を落とすこと。いざパンダが戻ってくるとなったときに、ちゃんと受け入れることができるようにしておいてほしいので。その前に潰れてしまうのだけは絶対に避けてほしい。
レッサーパンダがいる所ではない、もう一ヵ所のパンダがいた施設は当時のまま、そのまま残してあるんです。やはり足を踏み入れるとまだパンダがいた頃の思い出がよみがえってきて、こみ上げてくるものがありますよね......」
根強いファンに今も支えられていることがわかった。
【町長が思い描くパンダレスな未来】最後に、白浜町の大江康弘町長に今後の話を聞いた。
前回、パンダが返還される直前の取材では、町民の多くが、中国のパンダ繁殖研究基地のある四川省成都市成華区からの姉妹都市提携の申し出を大江町長が断ったことがパンダ返還の一因ではと怒っていたが......。
大江康弘白浜町長
「皆さんこの一連のパンダのニュースでよくわかったと思います。パンダは中国にとって政治的な道具だということなんです。日本のパンダをゼロにして、今2頭いるフランスや4頭もいる韓国には追加して送るというのは日本への当てつけ、わざとの嫌がらせとしか思えません。
マスコミの皆さんが来て、よく『パンダが帰ってしまって大変でしょう』とか聞かれるんですけど『いやそんなことないですよ』と答えてるんです」
白浜町役場では半年前に掲げられていた「パンダのまち白浜」の看板が現在は下ろされていた
その理由は!?
「パンダがいなくなったことの影響はさほどなくて、夏の観光客は一昨年よりも増えているくらいです。ただ、問題はその後の冬。そこで打ち出したのは白浜温泉の魅力の再発見です。『温泉』を中心にした町づくりをもう一度やっていこうとしています。
その一環として今取りかかっているのが、源泉スポットの再開発。白良浜の近くにある源泉で『砿湯源泉』というのがあるんです。
以前は設備があるだけだったんですが、そこに観光客が立ち寄って、顔に温泉の湯気を当てる『顔湯』を楽しんだり、卵などを温泉の熱で調理できたりするようなスポットに変える工事をしている最中で、この春頃には完成する予定です」
白浜温泉の源泉が湧く場所に観光スポットを現在建築中。顔湯などの構想がある
ほかにこんなビジョンも語ってくれた。
「2030年に大阪のIRのオープンが予定されています。それまでに、われわれは温泉町としての景色をある程度つくらないといけないと思っています。
IRがオープンすると世界中からお金持ちがやって来るんですね。今でも南紀白浜空港にお金持ちの方がプライベートジェットで来たりしています。そんなお金持ちの方が来ても、白浜は受け入れることができますよというアピールをしないといけないと思ってます」
ゼロパンダの先輩として、これからパンダがいなくなることを心配する上野の人たちに伝えたいこと、アドバイスをとお願いすると......。
「全国のそれぞれの町には、そこにしかない魅力があるはずなんです。パンダがやって来た影響でそれを見失ってしまっているのかもしれない。
でも、もう一度パンダがやって来る前の町のことを見つめ直して、その魅力を再発見して磨いていけば、必ず光が見えてくるし、パンダがいなくてもやっていける活路が開けてくると思いますよ」
強かな白浜の方々。上野は果たしてどうなる!?
取材・撮影/ボールルーム 写真/時事通信社
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