ベネズエラ東部にある巨大石油化学コンプレックス。かつては米国企業が主導したが、制裁後は中国が投資と引き換えに原油を買い叩く構図に
トランプ大統領がベネズエラを攻撃したその目的のひとつは、中国に奪われていたベネズエラの石油利権だといわれている。
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【「ベネズエラが埋蔵量世界一」は嘘!?】米トランプ政権がベネズエラを軍事攻撃した"真の目的"として語られるのが石油利権だ。石油といえば中東のイメージが強いが、実はベネズエラの石油埋蔵量がサウジアラビアを上回る"世界最大"だとされている。
脱炭素の時代といわれる今も、石油はこうして戦争の火種になる。ではアメリカが奪ったベネズエラの石油利権は、世界のエネルギー市場にどのような影響を与えるのか?
「私はトランプ政権の真の目的は石油ではなく、国内支持層への人気取りだと考えています。また、ベネズエラの石油埋蔵量が"世界最大"という評価も眉唾だとみたほうがいいでしょう」
こう語るのは、経済産業省で長年エネルギー政策に関わってきた経済産業研究所(RIETI)コンサルティングフェローの藤和彦氏だ。
「まず強調しておきたいのは、産油国にとって埋蔵量は国家機密だということ。その上で現在流通している埋蔵量の数字は、1980~90年代にOPEC(石油輸出国機構)が加盟国の生産枠を決める際に提出した数値を基準にしています。
当時、その国の埋蔵量に応じて各国の生産枠を決めようということになったために、生産枠を増やして儲けたいと考えた国は鉛筆なめなめで埋蔵量を水増ししました。
中でも盛大に盛ったのがベネズエラだといわれていて、埋蔵量が世界最大の3030億バレルなんて、『嘘つけ~!』って話です(笑)」
もちろんベネズエラの埋蔵量が豊富なのは事実だが、「さすがにサウジ超えはありえない」と藤氏は語る。そもそも地下に眠る原油の量は推定でしかなく、探査技術が進んでも実際に掘ってみなければわからないという。
「埋蔵量とひと言で言っても難しいんです。例えばアメリカでは、技術的に困難だったシェール層からの採掘が可能になったシェールガス革命で、埋蔵量が急激に増えました。
また、サウジアラビアは掘れば石油が出るので、供給過多を避けるために近年は新しい油田開発をしていません。
70年代には『あと30年で石油は枯渇する』といわれましたが、結果的にアレも嘘でした。足りなくなれば新しい井戸を掘って埋め合わせるので、石油の寿命はいつまでたっても『残り約50年』のまま(笑)。つまり埋蔵量とは科学的推計ではなく、極めて政治的な数字なのです」
【ベネズエラ石油利権は絵に描いた餅か?】では、"世界最大"は眉唾だとしても、それなりの埋蔵量があるなら、アメリカによる石油利権強奪は世界市場に影響を与えるのでは?
「その質問に答える前に、まず世界の石油需給をざっくり整理しておきましょう。
現在、世界の需給レベルは1日当たり約1億バレルで均衡しています。最大の産油国はアメリカで日量約1350万バレル(世界の約13.5%)。それに続く第2位をサウジアラビアとロシアが日量900万バレル前後で争い、カナダと中国、イラクが500万バレル前後で続きます。対して、近年のベネズエラの生産量は日量100万バレル程度で、世界需要のわずか1%ほどなんです」
ならば、影響は小さいということ?
「ただし、アメリカの経済制裁でベネズエラ産原油の輸出先は主に中国とロシアに限られ、特に輸出の大半を占める中国は投資と引き換えに原油を安く買い叩いてきたので、中国の懐には影響があるかもしれません。
おそらくトランプ大統領は今年4月の米中首脳会談で、ベネズエラの石油を習近平国家主席との交渉のカードに利用しようと考えているのでしょう」
では、アメリカ自身の利益はどうか。
「アメリカは日量1350万バレルを生産する世界最大の産油国であると同時に、日量約2000万バレルを消費する世界最大の消費国でもあります。差し引き不足する約650万バレルはカナダやメキシコから輸入しています。
しかも、アメリカで生産される原油の多くはシェールガスに代表される『軽質油』と呼ばれる"軽い油"。
ちなみに、ベネズエラ産の原油は代表的な重質油で、かつてはアメリカの石油メジャーが深く関与し、日量約300万バレルと、現在の約3倍の生産量がありました。
トランプ大統領が原油の性状まで意識していたとは思えませんが、重質油はアメリカでは自給が難しいため、もしベネズエラを事実上支配できるなら不足分を補えるという意味で利益にはつながります」
だが、現実はそうなっていない。
「実は現在、トランプ大統領が提案した巨額投資プランに、アメリカの石油メジャー各社が尻込みしているんです。
理由は、トランプ政権が今後のベネズエラをまともに統治できると考えていないから。統治不全なら石油利権は絵に描いた餅です。場合によっては反米クーデターが起き、政情不安による原油価格の押し上げリスクもあります」
【脱炭素社会より石油の時代が続く】ウクライナ侵攻後の制裁で世界第2位のロシア産原油の市場アクセスが制限され、長年制裁対象だった中東のイランでも政情が急速に悪化。
一方で環境問題を"デマ扱い"するトランプ政権の下、アメリカは化石燃料重視へかじを切り、世界の脱炭素ムードにブレーキがかかりつつある。
「まず前提として理解すべきは、現在の石油は基本的に供給過剰であること。アメリカのベネズエラ攻撃という地政学リスクが発生しても価格が高騰しなかったのは、世界全体では石油が余っているからです」
アメリカは世界最大の産油国であり、世界最大の消費国でもある
なぜ余っているのか?
「最大の要因は21世紀に石油需要を押し上げてきた中国の成長が鈍化したこと。勢いがあるインドも当時の中国ほどの成長は見込めない。"第二の中国"となりそうな国が存在しないので、よほどのことが起きない限り供給過剰は続き、原油価格は安値傾向が続くでしょう」
では、そんな世界の中で、日本の石油事情はどうなのだろうか。
「日本は石油の約9割を中東からの輸入に依存していて、そのうちサウジアラビアが約4割、アラブ首長国連邦(UAE)が約4割、クウェートやカタールなど、それ以外の中東諸国を合わせて約1割。
残る1割は長年、ロシアなどから輸入していましたが、経済制裁によってロシアからの輸入は実質ゼロになりました。実はここ数年、アメリカからの輸入が少しずつ増えているんです。
ちょっと前までは世界全体が『脱炭素だ』『石油なんてもうオワコンだ』という雰囲気でしたが、ここにきて脱炭素社会の実現がそんなに甘いモノじゃないという現実が隠せなくなってきた。
日本で原油が使われる割合を見ると、まずやはりガソリンで、次に産業用です。見逃せないのがプラスチックなど石油化学製品の原料としての用途で、ここが相当に大きい。
これは日本に限ったことではなく、世界の石油需要でもそうです。輸送で使われる部分が減っても、原材料としての需要は増えています」
米国が生産している軽質油はガソリンなどになる。一方で、ベネズエラ産は重質油で、ディーゼル燃料や重油、アスファルトなどになる
そう考えると、世界も、日本も、まだまだ石油に依存して生きていくしかなさそうだ。特にエネルギーの大半を輸入に依存する日本は、原油の安定した輸入先の確保と、揺れ動く世界情勢に対応するためのリスク分散が重要になる。
「その意味では、すでに中国や韓国が動いているように、日本もアメリカからの原油輸入を増やすというのは、ひとつの手段だと思います。
ベネズエラへの軍事攻撃でも明らかなように、トランプ時代のアメリカが示すのは『先がまったく読めない世界』。
取材・文/川喜田 研 写真/時事通信社 Adobe Stock
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