農耕に適した体の進化について「有名なのは『乳糖への耐性』の話です」と語る篠田謙一氏
ひろゆきがゲストとディープ討論する『週刊プレイボーイ』の連載「この件について」。分子人類学者で国立科学博物館長の篠田謙一先生をお迎えしての第7回です。
人類は、「狩猟採集民」から「農耕民」へと移った結果、体がいろいろと進化したそうです。何がどのように変わっていったのか? 篠田先生に解説していただきます。
***
ひろゆき(以下、ひろ) 「狩猟採集民は、農耕民よりも寿命が短かかった」と聞きますが、本当なんですか?
篠田謙一(以下、篠田) 寿命の問題はけっこう複雑です。古代社会では、狩猟民でも農耕民でも5歳までに半数は死んでしまったと考えられています。ですから普通の方法で平均寿命を出すと、どちらの社会も極端に下がります。
ひろ 〝平均〟だと新生児死亡率も含まれるので、全体の数字が下がっちゃうわけですね。
篠田 でも、その年齢を乗り越えると、狩猟社会でも60歳過ぎまで生きることもありました。
ひろ ちなみに、人類が農耕社会になって定住し始めると、新生児死亡率は下がったんですか?
篠田 いや、むしろ逆です。農耕を始めた初期の人骨を見ると、本当に悲惨な状態で、狩猟採集民のほうが体格も良く健康的でした。農耕民は栄養状態が悪くて小柄ですし、集団で密集して暮らしているため感染症も増えるんです。でも一度、農耕というシステムに依存してしまうと、そこから抜け出せなくなる。出産数が増えて人口が増加するので、厳しくてもそこで暮らすしかなくなるんです。
ひろ 農耕のほうが当初はハードモードだったんだ。じゃあ、農耕に適した体の進化は起きなかったんですか?
篠田 ゲノム解析で見ると起きています。具体的にはコメや麦などを効率的に分解できるように変化しました。炭水化物をエネルギーに変えやすく進化したんです。食べ物と進化の話だと、もっと有名なのが乳糖への耐性の話です。
ひろ 牛乳を飲むとおなかがゴロゴロして下痢しちゃうのが、乳糖不耐症ってやつですよね。
篠田 そうです。ヨーロッパ系の人の多くは、大人になっても乳糖を分解できる遺伝子を持っています。一方で、日本人はその遺伝子を持っている人が少ない。でも、進化の歴史からすると「乳糖耐性がない」、つまり、大人になるとミルクが飲めなくなる人のほうが哺乳類としては正常なんです。
ひろ というのは?
篠田 哺乳類は乳児の期間は母乳で育つので、赤ちゃんのときはみんな乳糖を栄養にできます。でも、1、2年たって離乳期が来ると、遺伝子のスイッチが切り替わってミルクを分解する酵素が働かなくなります。
ひろ ということは〝乳離れ〟は母親のしつけじゃなくて、遺伝的な拒絶反応なんですか?
篠田 そのとおりです。普通は「母乳が飲めなくなる」のが正しい姿なんです。ところが、スイッチが壊れてしまった遺伝子を持っているほうが、牧畜を始めたときに生存に有利だった。人間は草を食べても栄養にできませんが、その草を食べてミルクに変えてくれる家畜を間に入れることで、結果的に草からタンパク質を取れるようになる。家畜を栄養の変換装置として利用できたために、乾燥した草原地帯にも広がることができました。
ひろ へえー、そうやって人間も進化してきたんですね。ちなみに人類の祖先である猿人のアウストラロピテクスとかは何を食べて生きていたんですか?
篠田 基本は雑食ですが、メインは木の実や根菜、果実などです。そこからホモ属になる手前で肉食に偏ってきたと考えられています。肉食はエネルギー効率が良く、その高カロリーな食事が脳を巨大化させることを可能にしたという説が有力です。
ひろ でも、わざわざ危険な狩りをするより、果物を採っていたほうが楽じゃないですか?
篠田 植物はカロリーが低いので、脳みたいな〝燃費の悪い〟臓器を維持するにはかなりの量が必要です。それにアフリカの熱帯雨林は四季がないので、森の中では果実がランダムに実る。
ひろ チンパンジーの群れは、50頭より大きくなれないんですか?
篠田 それが彼らの脳のキャパシティの限界なんです。脳の容量と維持できる集団の規模には相関があるといわれています。チンパンジーの脳は約500ccで、集団のサイズは50頭が限界。原人の脳は約1000ccに増えて100人。そして私たちホモ・サピエンスは脳が約1400~1500ccなので、150人くらいが限界です。
ひろ じゃあ社会の仕組みとか組織論みたいな話も、思想とか哲学以前に機能的なこと、つまり脳のスペックで決まってるんですね。
篠田 脳というハードウエアの処理能力には限界があるので、どうしてもそういう規模に収束してしまいます。
ひろ そういう意味では、脳のハードウエアは30万年前のホモ・サピエンス登場時から、あんまり変わってないってことですよね。
篠田 そうです。30万年間、基本設計は変わっていない。
ひろ なるほど。
篠田 例えば音楽や宗教といった文化を発明した。そして、それをたくさんの人間をコネクト(接続)する道具として使って、150人の壁を越えた巨大な社会を維持しているんです。
ひろ 音楽とかって、古代からずっとありますもんね。
篠田 音楽が多くの人に共感を与えて、集団をまとめるツールとして機能しているわけです。
ひろ 鳥の求愛ダンスって、人間が見ても何も感じないじゃないですか。同じように、人類にとって感動的な音楽もほかの動物には雑音に聞こえるわけですか。
篠田 そうですね。基本的にはホモ・サピエンスの脳という特定のハードウエアの中だけで解釈・共感できるシステムだと思います。
ひろ 音楽とか宗教に感動できるのも、ホモ・サピエンスという種の枠内での話なんですね。
篠田 おそらくそうだと思います。
ひろ 一方で、優秀な遺伝子を組み合わせたら優秀な子供ができるっていう〝DNA的な優秀さの研磨〟は繰り返していますよね。
篠田 そうですね。でも、それで脳のシナプスの伝達速度が少し速くなるとかはあるかもしれませんが、生物種としての限界はあります。身長だって高くなる遺伝子を全部集めても3m、4mにはなりません。私たちは、すでに生物としての能力の限界ギリギリにいるのかもしれませんね。
ひろ じゃあ、自然進化で〝頭がやたらデカい人類〟が発生することはないんですね。
篠田 ないと思います。この30万年間変わっていないという事実は重いですから。もし脳が劇的に変わったら、それはサピエンスではない〝新しい人類〟です。
ひろ そう考えると、もっと頭のデカい生き物が宇宙とかから現れたときに、人類は知能戦で負けるみたいな話になりますね。
篠田 そうですね。というか、今の時点ですでにAIにやられていると思いますけど(笑)。
ひろ 確かに。そっちの進化のほうが速そうですもんね(笑)。
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■西村博之(Hiroyuki NISHIMURA)
元『2ちゃんねる』管理人。近著に『生か、死か、お金か』(共著、集英社インターナショナル)など
■篠田謙一(Kenichi SHINODA)
1955年生まれ。分子人類学者。国立科学博物館長。主な著書に『人類の起源』(中公新書)、『日本人になった祖先たち』(NHKブックス)など。2026年2月23日まで、東京・上野の国立科学博物館では特別展「大絶滅展」が開催中
構成/加藤純平(ミドルマン) 撮影/村上庄吾
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